池坊専応口伝(読み)いけのぼうせんおうくでん

改訂新版 世界大百科事典 「池坊専応口伝」の意味・わかりやすい解説

池坊専応口伝 (いけのぼうせんおうくでん)

池坊専応によるいけばなの伝書。《専応花伝書》ともいう。専応は花道の成立期である1523年(大永3)ごろから43年(天文12)ごろまでに活躍した文阿弥(もんあみ)と同時代の立花(たてはな)の名手で,頂法寺六角堂の僧侶であり,池坊の流れにおける花道の大成者でもある。専応の口伝を記述した伝書のうち現存するものは,いずれも転写本であるが,1523年から42年にかけての6種がある。とくに名高いものは専応が自筆で42年に円林坊賢盛へ相伝したとの奥書をもつ《続群書類従》所収本である。これは《花一道》と《座敷荘厳之図》を1巻に記した秘本で,《花一道》の序文は,花道の発生とその構成理論の展開を記述し,さらに花道をたしなむことによって〈開悟の益〉があると述べている。本文には,技法上の法則や心構え,すなわち祝言の花,移徙(わたまし)の花,軍陣の花,五節句の花など生活の中での花の心得などが述べられ,跋文には花道を志す者への心得を多くの比喩をとおし,また具体論で〈稽古のほどふかければ,興ある姿を立出す事あり〉と述べている。

 《座敷荘厳之図》は,専応が《君台観左右帳記》の法式をふまえながら,自己の主張を加えた座敷飾法式の記述である。押板に飾る対幅とその前に飾る三具足の飾り法,また書院違棚と柱・縁などに飾る珍重な諸道具の置き合せの位置などを明示した図と,それにかかわる法則が書かれている。特に序文に記された専応の自然観哲学,そして美論とは,後代の花道思想の根源となっている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の池坊専応口伝の言及

【いけばな】より

…このような立花成立への試行期には,立花よりもより自由な景観描写的ないけばなも存在していたようで,現在最も古い花書ではないかと考えられる《花王以来の花伝書》には,〈岸くづれの花〉や室外の縁に置いたいけばなが見られ,前栽との関連が注目される。 日本のいけばなが明確な理念をもって歴史の上に登場するのは,《池坊専応口伝》によってである。〈瓶に花をさす事いにしへよりあるとはきゝ侍れど,それはうつくしき花をのみ賞して,草木の風興をもわきまへず,只さし生たる計なり〉として〈この一流は野山水辺おのづからなる姿を居上にあらはし〉,さらに〈たゞ小水尺樹をもつて江山数程の勝(しようがい)をあらはし〉と述べている。…

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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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