泡坂妻夫(読み)アワサカツマオ

デジタル大辞泉 「泡坂妻夫」の意味・読み・例文・類語

あわさか‐つまお〔‐つまを〕【泡坂妻夫】

[1933~2009]小説家東京の生まれ。本名厚川昌男あつかわまさお家業の紋章上絵うわえ師を業とするするかたわら、奇術江戸文化題材をとったトリッキーな推理小説を執筆する。「蔭桔梗かげききょう」で直木賞受賞。他に「DL2号機事件」「折鶴」「乱れからくり」など。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泡坂妻夫」の意味・わかりやすい解説

泡坂妻夫
あわさかつまお
(1933―2009)

小説家。東京・神田生まれ。本名厚川昌男(あつかわまさお)。筆名は本名のアナグラムでもある。都立九段高校卒業。紋服に家紋を描く紋章上絵師の家業を継ぐかたわら、邪宗門奇術クラブに入会し多くの創作奇術を発表。1968年(昭和43)には優秀なマジックの考案者に贈られる石田天海賞を受賞する。巧みなミスディレクション、逆転の発想、奇抜な逆説などは奇術にも共通する要素で、そうした手法を存分に駆使した「DL2号機事件」で第1回『幻影城』新人賞の佳作に入賞、1976年デビューする。

 奇術小説集を作中作として収録した第一長編『11枚のトランプ』(1976)、からくり玩具や迷路をモチーフにした『乱れからくり』(1977。日本推理作家協会賞受賞)などの本格推理作品で作家としての地位を確立。トリッキーな作風が人気だが、回文づくしの『喜劇悲奇劇』(1982)や、単行本そのものにトリックが仕掛けられた『しあわせの書』(1987)など、従来では考えられなかった趣向でも知られる。しかし仕掛けということでは『生者と死者』(1994)が頂点を極める。これは本自体が袋とじの体裁になっており、まず袋とじのままページを繰っていくと独立した短篇小説を読むことになる。次にペーパーナイフを使って各ページを切り開きつつ読み進んでいくと、今度は先に読んだ短篇がいつの間にか長編の中に取り込まれて消えているという、究極の仕掛け本なのである。作者はこの仕掛けを作り上げるために、文庫本と組み(字数と行数)が同じ原稿用紙を用意し、両者の繋がりが不自然にならないよう慎重に書き継いでいったのだという。その期間、およそ7年。ダンディズムの極致といえよう。しかし、こういった趣向を凝らした「奇術的」作品の一方で、失われゆく江戸情緒をとらえつつ、男女の濃密な恋愛を描いた現代人情噺(にんじょうばなし)ともいうべき短編集『折鶴』(1988)で泉鏡花賞、伝統的な職人世界を描いた『蔭桔梗(かげききょう)』(1990)で第103回直木賞を受賞と、推理風味を加えた現代小説も多く発表。そのほか『鬼女(きじょ)の鱗(うろこ)』(1988) などの捕物帳、東洲斎写楽の正体をめぐる『写楽百面相』(1993)など時代小説の秀作も多い。また奇術関係の著作も多数ある。

[関口苑生]

『『喜劇悲奇劇』(角川文庫)』『『乱れからくり』『亜愛一郎の狼狽』『亜愛一郎の転倒』『11枚のトランプ』(創元推理文庫)』『『しあわせの書』『生者と死者』『蔭桔梗』『写楽百面相』(新潮文庫)』『『折鶴』『鬼女の鱗』(文春文庫)』『『花嫁のさけび』(ハルキ文庫)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「泡坂妻夫」の解説

泡坂妻夫 あわさか-つまお

1933-2009 昭和後期-平成時代の小説家。
昭和8年5月9日生まれ。家業の紋章上絵師職をつぎ,かたわら推理小説を発表。昭和53年本格推理ものの「乱れからくり」で日本推理作家協会賞。63年「折鶴」で泉鏡花賞,平成2年「蔭桔梗(かげききょう)」で直木賞。奇術師としても知られ,昭和43年石田天海賞。平成21年2月3日死去。75歳。東京出身。九段高卒。本名は厚川昌男。

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