泥炭(読み)でいたん(英語表記)peat

翻訳|peat

精選版 日本国語大辞典 「泥炭」の意味・読み・例文・類語

でい‐たん【泥炭】

〘名〙 石炭の一種。もっとも石炭化度の低いものをいう。石炭化度が低いために、狭義には石炭には加えられない。植物組織がそのまま含まれている場合が多く水分も多いため、よほど乾燥しなければ燃料としては用いられない。
※新聞雑誌‐四五号付録・明治五年(1872)五月「金属、石炭、泥炭、膏風、等の所在と良否を知り」

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デジタル大辞泉 「泥炭」の意味・読み・例文・類語

でい‐たん【泥炭】

湿地や浅い沼に生える水生植物コケ類が枯死・堆積たいせきして、ある程度分解し炭化作用を受けたもの。褐色で、水分を含む。ピート
[類語]石炭無煙炭瀝青炭黒炭褐炭コークス

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改訂新版 世界大百科事典 「泥炭」の意味・わかりやすい解説

泥炭 (でいたん)
peat

沼沢地や湖沼などの湿原植物の繁茂する湿地に集積した分解不完全な植物遺体の堆積物。ピートあるいは草炭などとよばれることもある。水で飽和されて酸素不足となった条件下では地中動物や微生物の活動が抑制されるため,植物遺体の分解が完全には進まず,まだ植物の組織が肉眼で識別できる程度に腐朽した黄褐色ないし暗褐色の植物遺体が集積する。この過程を泥炭集積作用peat accumulationといい,一般に排水後なお20cm以上の泥炭層を有する土地を泥炭地peat landという。泥炭の集積は沼沢地や湖沼底に泥が堆積し,抽水植物が十分生育できる水深になるまで埋積化が進行したときに始まる。この段階では地下水位が高く,一般に養分に富んでいるため,ヨシ(アシ),スゲ,マコモ,ハンノキ,ヤチダモなどの植物遺体を主とする泥炭の形成が水面に達するまで続く。この泥炭を低位泥炭または富栄養泥炭という。低位泥炭の表面が水面からわずかに上に達すると地下水位が相対的に低下し養分の供給も少なくなるので,そこに生育する植物の種類が変化し,ワタスゲ,ヌマガヤ,ホロムイソウ,ヤマドリゼンマイエゾマツヤチヤナギシラカンバなどの植物遺体からなる泥炭が集積するようになり,これを中間泥炭または中栄養泥炭と呼んでいる。中間泥炭の集積が進んで地下水の影響がまったくなくなり養分の供給がさらに減少すると,ほとんど雨水だけで繁殖できるミズゴケ,ホロムイスゲ,ツルコケモモ,ミカヅキグサなどの植物遺体からなる泥炭が集積するようになり,地表面が周囲よりも高くこんもりと盛り上がってくる。これを高位泥炭または貧栄養泥炭という。また泥炭は構成植物によってミズゴケ泥炭sphgnum peat,スゲ泥炭sedge peat,木質泥炭woody peatなどに分けられる。

 泥炭多産地域は亜寒帯温帯の一部に多く,北半球における分布の南限は7月の平均気温20℃の等温線,北限は1月の平均気温-10~-15℃の等温線にほぼ一致している。日本では北海道のサロベツ,石狩,釧路などに広大な泥炭地が分布し,山岳地帯では尾瀬ヶ原が有名である。しかし水文,地形的に泥炭集積の条件がある場合には熱帯の低湿地にも樹木に由来する木質泥炭が形成される。泥炭の集積速度については日本で0.5~1.5mm/年,熱帯で3.4mm/年という値が得られている。泥炭地を改良するには排水と客土が行われるが,乾燥による泥炭の収縮が大きく地盤沈下を生じるので排水工事には細心の注意が必要である。また急激な排水は泥炭の分解を促進し,多量の窒素が無機化されるので農作物に対する窒素過剰の害の危険がある。泥炭は園芸植物の根の保水材,培養土,土壌改良剤などの農業的利用のほか燃料,建築資材,活性炭の原料,ウィスキー製造の麦芽乾燥剤などとして工業的にも利用されており,またオーストリアなどでは医療用の泥炭浴などに広範に利用されている。
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百科事典マイペディア 「泥炭」の意味・わかりやすい解説

泥炭【でいたん】

ピートとも。湿地や浅沼に植物遺体が厚く堆積しある程度生化学的分解を受けたもの。石炭生成の第一段階。黄褐色または褐色を呈し,ふつうそれを構成する原植物の組成を肉眼的に識別し得る。乾燥すれば燃料となり,草炭とも呼ばれる。構成植物がおもにアシ,スゲなどである泥炭を低位泥炭,樹木の落葉などである泥炭を中間あるいは森林泥炭,ミズゴケを主とするものを高位泥炭という。保水材,土壌改良剤として園芸や農業に利用,またウィスキー製造過程のモルト乾燥には不可欠。
→関連項目石炭泥炭地フィンランドミズゴケ

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「泥炭」の意味・わかりやすい解説

泥炭
でいたん
peat

草炭(そうたん)ともよばれ、JIS(ジス)(日本工業規格)では、水生植物、コケ類、湿地帯の草類が堆積(たいせき)し、生化学的変化を地表近くで受けて生成したものをいい、北海道、シベリアなど極寒地で微生物活動期間の比較的短いような地帯に多い。木材と褐炭の中間に位置する。普通は石炭に分類しない。炭層の上層から下層へ移るにしたがって草根樹皮などを含む黄褐色の多孔質から黒褐色泥状のものとなる。多量の水分を含んでいるが乾燥すれば燃料となる。ウシなどの飼料製造原料としての用途もある。

[大内公耳・荒牧寿弘]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「泥炭」の意味・わかりやすい解説

泥炭
でいたん
peat

ピート,草炭ともいう。沼沢地や湿地に生育した樹木,草本,コケ類などの植物が,嫌気性の環境下に蓄積し,ある程度の分解や炭化によって黒褐色になったもの。燃料や固形肥料の原料として用いられる。北海道などの寒冷地,東北,中部の高山地域,第四紀の地層中などにみられる。

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岩石学辞典 「泥炭」の解説

泥炭

腐植土に富む草および草の根の下の表面層,あるいは泥炭[Tomkeieff : 1954].

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化学辞典 第2版 「泥炭」の解説

泥炭
デイタン
peat

[別用語参照]石炭化度

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世界大百科事典(旧版)内の泥炭の言及

【湿原】より

…欧米では湿原に対して細分された語が発達しており,日本の湿原という総称に対応する語はない。湿原は泥炭(ピートpeat)ができているかどうかで,沼沢湿原marsh,swampと泥炭湿原mireに大別される。 沼沢湿原は,湖沼の岸や河川の排水の悪い氾濫(はんらん)原などにみられ,栄養物質に富んだ水に涵養(かんよう)され,泥炭は集積しない。…

【土壌型】より

…地衣類やコケ類からなる貧弱な植生のためA層の発達が悪く,夏季に融解する氷は下部に存在する永久凍土層によって排水が妨げられるためグライ化作用が進行する。またツンドラ・グライ土では凍結と融解による土層のかくらん現象(クリオタベーションcryoturbation)が活発なため泥炭の集積はあまり生じない。(2)亜寒帯針葉樹林帯の土壌型 湿潤寒冷気候帯の北方針葉樹林(タイガ)に典型的に発達している土壌型はポドゾルである。…

※「泥炭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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