洒落(読み)シャレ

デジタル大辞泉 「洒落」の意味・読み・例文・類語

しゃれ【×落】

《動詞「しゃれる」の連用形から。「洒落」は当て字
その場に興を添えるために言う、気のきいた文句。ある文句をもじったり、同音や似た音の言葉に掛けて言ったりする。地口じぐち警句の類。「洒落を飛ばす」「洒落が通じる」「駄洒落
戯れにすること。冗談事。「こんないたずら洒落にならない」
(多く「お洒落」の形で用いる)気のきいた身なりをすること。華やかに装うこと。「お洒落をして出かける」「洒落者」→おしゃれ
今風で、あかぬけていること。
「風雅でもなく、―でなく」〈浄・忠臣蔵
[類語]軽口冗談ジョーク駄洒落諧謔

しゃら【×落】

[名・形動ナリ]
物事にこだわらず、さっぱりしているさま。しゃれているさま。いき。
「傾城といへるものは…―なる風情をおもてにし」〈仮・可笑記・三〉
しゃらくさいさま。生意気
「―な丁稚でっち上がりめ」〈浄・曽根崎
遊女。近世、越前でいう。
「此所に名高き―には」〈浮・三代男・三〉

しゃ‐らく【×洒落/×灑落】

[名・形動]物事にこだわらず、さっぱりしていること。また、そのさま。洒々落々。「―な人柄」
「―でありながら神経質に生れ付いた彼の気合を」〈漱石明暗
[類語]淡淡洒洒落落

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精選版 日本国語大辞典 「洒落」の意味・読み・例文・類語

しゃれ【洒落】

〘名〙 (「洒落」は当て字)
当世風でいきなこと。気のきいていること。さっぱりしてものにこだわらないこと。洒脱(しゃだつ)
※俳諧・田舎の句合(1680)序「東坡が風情、杜子がしゃれ、山谷気色より初て」
※談義本・当風辻談義(1753)一「物堅ひを古風といやしめ、今やうの晒落(シャレ)をしらぬかと」
② はなやかによそおうこと。また、はでな服装。いきな身なり。おしゃれ。
※俳諧・本朝文選(1706)三・譜類・百花譜〈許六〉「しゃれを尽し、一向(ひたすら)遊女の立振舞に似たれば」
③ その場に興を添えるために言う滑稽な文句。ある文句をもじって言う地口(じぐち)。だじゃれ。警句。冗談。
洒落本遊子方言(1770)「こっちへ木のめ田楽木のめ田楽と、しゃれをいふ」
※俳諧・おらが春(1819)「此の一巻や、しなのの俳諧寺一茶なるものの草稿にして、風調洒々落々と杜をなす。こや寸毫も洒落にあらず」
④ たわむれてする事。冗談事。遊び。
滑稽本・人間万事虚誕計‐前(1813)「近所まで来たから、ちょっと寄りやした。あっちへ知らせずに、ここぎりのしゃれとしやせう」
※魔都(1937‐38)〈久生十蘭〉二二「この密告が洒落(シャレ)でも冗談でもないことは」
⑤ 遊里などでの遊び。また、それになれていること。
※黄表紙・四天王大通仕立(1782)「江戸へズイ行(ゆ)きの北国(ほくこく)洒落(ジャレ)がよう御座えやせう」
浮世草子傾城禁短気(1711)三「是正真の悪晒(わるしゃれ)といふしゃれにて、歴々人の持て遊びに成物にあらず」
⑦ (得意になれるような)見ばえのよい物事。
浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「親から仕送りなどといふ洒落(シャレ)はないから」
[語誌](1)語源は、「ざれ(戯)」「され(晒・曝)」などに求められるが、この両語がどのような過程で後世の「しゃれ」に派生していったかは明らかではない。
(2)「洒落」の漢字を当てるようになったのは、室町時代以降「され」が「しゃれ」に拗音化してからのことで、江戸時代の儒学者、藤原惺窩によるといわれる。漢語としての「洒落(しゃらく)」は、心がさっぱりしていて、わだかまりがないことという意味で、「しゃれ」と類似した語義を有するところから当てられるようになったものか。

しゃ・れる【洒落】

〘自ラ下一〙
① 服装・動作・言語などすべてが当世ふうで気がきく。あかぬけしたふるまいをする。もまれて洗練される。
※評判記・野郎虫(1660)竹中小太夫「しゃれたる所は、雪のうちのもうそうのおもひ入あり」
※談義本・興談浮世袋(1770)一「しゃれるもあれバやぼなも有り」
② 習熟する。その道のことによく通じる。
※浮世草子・西鶴織留(1694)三「太夫職になしみて此道にしゃれるほど」
③ なまいきなまねをする。きいたふうなことをする。
※仁説問答師説(1688‐1710)宝永三年講「小子のしゃれすぎ、こましゃくれたが」
④ 変わった物事を好んで、粋(いき)がる。
※浮世草子・好色一代男(1682)六「女郎も衣つきしゃれて、墨絵に源氏、紋所もちいさくならべて袖口も黒く」
⑤ はなやかに着飾る。おめかしをする。おしゃれをする。
※俳諧・本朝文選(1706)三・譜類・百花譜〈許六〉「冬牡丹のしゃれ過たる」
⑥ 語呂合わせなどの滑稽な冗談を言う。秀句・地口(じぐち)を言う。
※洒落本・田舎芝居(1787)序「哂落本の哂落を見て哂落る哂落は哂落た所が哂落にもならねば」
⑦ 色気づく。
※浮世草子・魂胆色遊懐男(1712)一「夜も父母の真中に寝て、心はしゃれてありながら」
⑧ たわむれる。ふざける。
人情本春色辰巳園(1833‐35)初「ナニやかましいと〈略〉あんまりしゃれるなヨ」
⑨ 遊里で遊ぶ。遊興する。
※歌舞伎・富岡恋山開(1798)三幕「山へ往って洒落(シャレ)て来よう」
⑩ 情景などにふつうとはちょっと違った面白み、新しさなどが感じられる。得意になれるような見栄えのよいさまである。
※趣味の遺伝(1906)〈夏目漱石〉三「軒下から丸い手水桶を鉄の鎖で釣るしたのは洒落れて居るが」

しゃら【洒落】

[1] 〘形動〙
① しゃれたさま。しゃらく。いき。
仮名草子・可笑記(1642)三「薄化粧に花車(きゃしゃ)めかして、しゃらなる風情をおもてにし」
② しゃらくさいさま。生意気。出すぎ。
※仮名草子・竹斎(1621‐23)下「かく歌の事申出し。しゃらや、けちやうや、推参や。似合はぬ事にてましませども」
※浄瑠璃・曾根崎心中(1703)「ヤアしゃらな丁稚上りめ」
[2] 〘名〙 遊女の異称。しゃらこう。
※浮世草子・好色三代男(1686)三「此所に名高きしゃらには、〈略〉万作などと、指折て語るを聞けば」

しゃ‐らく【洒落】

〘名〙 (形動ナリ・タリ)
① 物事に深く執着しないで、気質やふるまいがさっぱりしていること。わだかまりがなく、あっさりしていること。また、そのさま。しゃら。
※中華若木詩抄(1520頃)中「三四の句、まことに、等閑もなき、洒落なる体也」
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)初「洒落(シャラク)に杉田の遠路を好むもあれば」
② =しゃれ(洒落)〔音訓新聞字引(1876)〕

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普及版 字通 「洒落」の読み・字形・画数・意味

【洒落】しやらく

さっぱりしている。〔寓圃雑記、上〕李、字は中、人と爲り襟度洒詞(かんし)にす。作るれば、人爭うて之れを傳ふ。

字通「洒」の項目を見る

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「洒落」の意味・わかりやすい解説

洒落
しゃれ

一般的には、気のきいたようすや服装、身なりをいうが、文学上では、広義に、「笑いの文学」に一貫する頓知(とんち)、滑稽(こっけい)、風刺などの文学精神、とくに江戸中期以降の江戸で栄えた粋(すい)や通(つう)という生活美学と密着したそれをいう。狭義には、言語表現の技術において、一語が音通などによって二義を表す懸詞(かけことば)、秀句、地口(じぐち)などと同性質のもの、および思考上の洒落ともいうべき詭弁(きべん)、曲解、皮肉などをいうが、これらが通意識の実践と密接に関係していたことは注目すべきであろう。

 洒落の特徴は人工的なものである点にあり、知性や洗練さを要求されるとともに、そのよき理解者たる相手を必要とする。ひとりよがりの洒落では、洒落にならないのである。こうした洒落がもっとも盛行したのはいわゆる天明(てんめい)期(18世紀後半)で、この時代には、その名を冠した洒落本を初め、滑稽本、黄表紙(きびょうし)、噺本(はなしぼん)、狂歌、狂詩、狂文、雑俳(ざっぱい)、川柳(せんりゅう)などの笑いを生命とする文学、すなわち戯作(げさく)が栄えた。しかし洒落が、修辞的に縁語や畳語、枕詞(まくらことば)などと類縁関係にあることを考えると、これらの要素を多分にもつ『竹取物語』などの古小説や連歌(れんが)、俳諧(はいかい)などにも、洒落の精神は内在していたものといってよいだろう。

[宇田敏彦]

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改訂新版 世界大百科事典 「洒落」の意味・わかりやすい解説

洒落 (しゃれ)

〈しゃれ〉のもつ意味内容については,時代によって若干の違いが生じていることもあって定説がないが,滑稽性,物事にこだわらぬ自由な精神,極度に洗練された感性のそれぞれを重視する三つの立場にほぼ分けられよう。近世初期においては,滑稽性よりも精神性に重点がおかれ,遊興理念を表現する言葉として用いられるのが一般であったが,中期以降はしだいに滑稽性および感性の洗練度を示すものにその中心が移り,文芸面においては特に言語遊戯に関する機知,滑稽を表す言葉となった。洒落本の本質もこの滑稽性に求められるべきで,〈滑稽本〉と書いて〈しゃれ本〉と読ませる用例の存在は,その一つの証左と考えられる。
いき →(つう)
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世界大百科事典(旧版)内の洒落の言及

【言語遊戯】より

…〈humanité〉(人間性)と〈animalité〉(獣性)を合成した〈humanimalité〉(獣人性)というフランス製のカバン語もある。(11)地口 〈秀句〉〈口合(くちあい)〉〈洒落(しやれ)〉ともいい,〈言いかけ〉〈掠(かす)り〉〈捩(もじ)り〉なども同様の技巧をさす。英語のパンpunにあたる。…

※「洒落」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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