浮浪・逃亡(読み)ふろうとうぼう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「浮浪・逃亡」の意味・わかりやすい解説

浮浪・逃亡
ふろうとうぼう

古代律令(りつりょう)体制下において、農民などが戸籍・計帳に登録されている本籍地から離脱した状態にあること。律令本文には、浮浪逃亡についての明確な定義がないので、法制上は種々の解釈が生じてくる余地が残されている。通説では、律令の規定は、本籍地を離れた者のうち、他国にあっても課役をすべて負担している場合を浮浪とし、課役を負担していない場合を逃亡とするものであると考えられているが、本籍地から不法に離脱するという行為そのものと、その結果としての離脱している状態とをそれぞれ逃亡・浮浪とよぶのだとする説も提出されている。また令文には、逃亡者を計帳から抹消する「除帳」の規定があるが、現存の計帳の記載がかならずしもその規定と一致しないなど、不明な点が少なくない。いずれにせよ、律令政府は、戸籍・計帳に基づく支配体制を維持するために、極力浮浪・逃亡の発生を抑制しようとしたのであるが、調庸をはじめとする重い負担から逃れようとして、戸籍を偽ったり(偽籍)、浮浪・逃亡の挙に出たりする人々は少なくなかった。他方では、農業経営拡大を企図して積極的に移住を行う人々もあり、それらも律令の規定からすれば浮浪とみなされたから、平安時代に入ると「富豪浪人」とよばれる者も現れるのである。これらの人々もまた、班田(はんでん)収授制とは異なる社会関係を生み出すことにより、律令制を揺るがせることとなった。

[福岡猛志]

『直木孝次郎著『奈良時代史の諸問題』(1968・塙書房)』『長山泰孝著『律令負担体系の研究』(1976・塙書房)』

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「浮浪・逃亡」の解説

浮浪・逃亡
ふろう・とうぼう

浮逃(ふとう)とも。律令制下の農民が,正当な理由なくして本貫地を離れ,他所にある状態。本貫・居住地の一致が律令の原則なので,浮浪はそれ自体不法な状態であるが,さらに課役を出さない場合は一段と重い逃亡の罪をもって論じると規定されている。現実には,律令国家は浮浪・逃亡を一括して扱うことが多く,たびたび格(きゃく)を発して浮浪人の本貫送還を図った。のちに現住地での編付方式や浮浪人帳による戸籍枠外での把握など,律令の原則から離れ,実情にあわせた政策に転じた。浮浪人も一つの身分となり,8世紀末頃には積極的に農業経営を展開する者も現れた。

出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報

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