海底通信(読み)かいていつうしん(英語表記)submarine communication

改訂新版 世界大百科事典 「海底通信」の意味・わかりやすい解説

海底通信 (かいていつうしん)
submarine communication

海を隔てた2地点または複数地点を海底ケーブルで結び,電信,電話,データなどの通信を行うことをいう。1850年に電信用の海底ケーブルドーバー海峡に敷設されたのが海底通信の始まりである。その後,66年には大西洋横断ケーブルが敷設された。20世紀初頭には,海底電信ケーブルは世界各国に張り巡らされた。日本近海に海底ケーブルが敷設されたのは,1871年デンマークの大北電信会社により上海長崎~ウラジオストク間に敷設されたものが最初である。当時の海底電信ケーブルは,単心ケーブルで低速度の電信を伝送するものであった。その後1932年には電話数回線を伝送可能な無装荷搬送方式(信号減衰を防ぐためのコイルを入れない方式)が提唱され,37年に日本と中国東北部の間に14対無装荷海底ケーブルが敷設され,これはその後津軽海峡紀淡海峡鳴門海峡に次々と敷設された。大洋横断のような長距離通信は主として海底電信ケーブルが用いられていたが,短波無線通信の大西洋横断の成功により,海底通信に比べて設備が小規模で経済的なため広く使用されるようになった。このため,海底通信は一時ほど注目されなくなったが,1927年の負帰還増幅器の発明同軸ケーブルの開発により,56年には大西洋横断の海底同軸ケーブル(TAT-1)が敷設された。これは上り,下りの信号を別々に伝送するため2条の海底同軸ケーブルが用いられ,約70kmごとに51台の中継器が挿入され電話48回線を伝送する海底同軸ケーブル方式である。TAT-1は,短波通信に比べて高安定,高品質な特性を有しており,海底通信が再び脚光を浴びることになった。それまでの海底ケーブルは,ケーブル保護のため外装鉄線が用いられていたが,ケーブル敷設時に張力がかかるとケーブルが回転し,中継器近傍で障害となる問題があった。これを解決するためイギリス,アメリカで鉄線をケーブル内部に埋め込む無外装ケーブルが開発され,またケーブル2条を敷設する方式に比べて経済的で障害割合の少ないためケーブル1条で双方向伝送する1条方式が開発された。64年には,日本とアメリカを結ぶ第一太平洋横断ケーブル(TPC-1)が敷設され,これは電話138回線を伝送することができた。通信需要の増大に伴って海底ケーブルはさらに広帯域化され,さらにトランジスターの発明により,海底中継器の広帯域化,高信頼度化が促され,システムの大容量化開発が次々に行われた。日本では68年から海底同軸ケーブル方式の研究が開始され,640回線(CS-5M方式)から,2700回線(CS-36M方式)が開発され実用に供された。70年代に入り,光ファイバーによる光通信技術が急速な発展を遂げ,大口径同軸ケーブルを用いる海底同軸ケーブル方式は,技術的経済的限界に至るとともに,長距離ディジタル伝送に適した低損失光ファイバーを用いる海底ケーブルの研究開発が活発に行われた。その結果,89年に光ファイバーを用いた最初の太平洋横断海底ケーブル(TPC-3)が建設された。TPC-3は,ディジタル伝送速度280Mbpsで電話換算4000回線である。その後92年にTPC-4(560Mbps),95年にTPC-5(5Gbps)と次々と大容量化された。国際通信は,1960年代半ばから約30年間にわたり衛星通信(無線通信)と海底通信(有線通信)が並行して使用されてきたが,光通信の技術革新により回線単価が大幅に低減化したため,90年代半ばから国際通信の幹線は光海底通信の時代となった。情報通信は,インターネット,画像伝送など新データサービスが急速に拡大しており,また光通信は継続して技術開発が行われ,テラビットによる超大容量海底通信の研究が活発に進められている。
海底ケーブル →海底ケーブル敷設船
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百科事典マイペディア 「海底通信」の意味・わかりやすい解説

海底通信【かいていつうしん】

海底ケーブルによる通信。1847年初めてドーバー海峡に,1858年には大西洋横断ケーブルが布設され,以後主として英国,デンマークにより布設が進められた。日本では1871年長崎〜上海間に布設されたのが最初。当時は電信(現波符号によるモールス通信)であったが,大正末期からはケーブルの改良で短距離においては電話にも利用された。1950年ころから中継増幅器を内蔵する海底同軸ケーブルの完成により大洋横断の多重通信が可能となり,1956年大西洋,1964年には太平洋横断同軸ケーブルが完成。後者は米本国〜ハワイ〜神奈川県二宮陸揚局を結ぶもので,電信にして2560回線分に相当する容量をもち自動交換方式などを採用,電話,データ・写真伝送などに高能率に利用されている。1965年衛星通信が実用化されると海底ケーブルの布設は減少したが,通信容量の大きい光ファイバーケーブルの実用化で,現在では海底通信と衛星通信の両者で国際通信の通信量を2分する状況が続いている。

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