海損(読み)かいそん(英語表記)average
Haverei[ドイツ]
avaries[フランス]

精選版 日本国語大辞典 「海損」の意味・読み・例文・類語

かい‐そん【海損】

〘名〙 海難によって生じる船や荷物損害。〔英和外交商業字彙(1900)〕

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デジタル大辞泉 「海損」の意味・読み・例文・類語

かい‐そん【海損】

航海中の事故などによって生じた、船または積み荷の実物損害。

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改訂新版 世界大百科事典 「海損」の意味・わかりやすい解説

海損 (かいそん)
average
Haverei[ドイツ]
avaries[フランス]

広義では,船舶の航行に伴って,船舶または積荷に生ずるいっさいの損害をいう。広義の海損には,航海上,通常発生する損害(船体の消耗,水先案内料,入港税の支払など)と,非常の事故による損害とがある。前者を小海損petty averageといい,後者は,非常海損と呼ばれ,狭義の海損である。小海損は,運送賃や積荷の価格のなかに加算される性質のものであるから,とくに海損として法律上の問題を生じない。非常海損(狭義の海損)のうち,船舶または積荷に対する格別の事故によって生ずる損害を,単独海損particular averageといい,船舶および積荷に共通の事由により生ずる損害を共同海損general averageという。単独海損は,その物の所有者が単独でこれを負担するが,共同海損は,各利害関係人の間で損害を分担しあうという問題が生ずる。単独海損の主要なものは,船舶衝突であり,商法の規定(797条)のほか,1910年の船舶衝突条約(略称)により規律されている。また,共同海損については,商法(788条以下)とヨーク・アントワープ規則(1864年に成立以来数度改正)に詳細な規定がある。共同海損は,船長が船舶および積荷に共同の危険を免れしめるため行った処分(共同海損行為--投荷とか乗揚,避難など)によって生じた損害(犠牲損害)および費用(費用損害)である。そして,この損害を各利害関係人が平等の割合で分担しようというのが共同海損制度である。なお,この制度の萌芽は非常に古く,前300年ころ編纂されたロード海法のなかにすでに投荷に関する定めが存在する。

 なお,海上保険においては,保険の目的が海上危険によりこうむる損害を海損という。そしてこれには,全損total lossと分損partial lossがあり(全損・分損),全損は,現実全損actual total loss(事実的全損)と推定全損constructive total loss(解釈全損)とに分かれる。推定全損の場合は,現実には,いまだ全損を生じていないけれども,被保険者が保険の目的を保険者に委付することによって,保険金額の全部を請求することができる(商法833条)。また,分損には,単独海損と共同海損とがある。
海上保険
執筆者:

江戸時代の単独海損は〈荷損船損〉と呼ばれ,荷物は荷主がその損害を負担し,船舶は船主がその損害を負担する方法である。16世紀末の戦国末期,沿海諸侯が軍需品の海上輸送を行うに当たり,海上の危険は風波の難ばかりでなく,敵国または海賊によって拿捕略奪される状態にあった。海損の有無は運不運であったから,運まかせの運送契約から生まれた慣行である。そして江戸時代にも廻船が公儀および武家荷物を運送する場合に慣行とされ,また町人荷物と積合にする場合にも適用され,船主対武家は単独海損,船主対町人は共同海損として処理することを原則とした。共同海損は,中世は配当といい,14世紀初めの南北朝ころにはすでに行われ,中世後半からは《廻船式目》や海路諸法度にも,その方法に関する条文が見え,民間商船において慣行とされていた。江戸時代には運賃積運送をもっぱら行った菱垣(ひがき)・樽廻船において,この制度が確立し,最も厳格に行われた。その慣習法によると,廻船積合の荷主は,打荷の場合のみならず,破船の場合も海損を負担した。そして,打荷による海損の分担を振合力といい,破船による海損の分担を振分散と称した。振合力とは,捨荷の価格,船舶の損害額,海難の跡始末費(浦遣金)の合計額を,第1に保存せられた積荷の価格,第2に船舶の損害額に振り当て,注文荷物は受荷主,送り荷物は出荷主が海損分担者となった。振分散とは,拠合力のごとく拠金の方法によらず,残荷物を全部売却して得た代金と運賃とを合計した金額から,浦遣金を控除し,その残額を積荷の元値代金と船代金とに割賦配当,すなわち保存された価格を損失価格に配当した。
海難
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「海損」の意味・わかりやすい解説

海損
かいそん

広義では、航海に際して船舶または積み荷について生ずるいっさいの損害のこと。実物海損と費用海損を含む。海損には通常海損(小海損)と非常海損(狭義の海損)の二つがある。通常海損は、たとえば船体の消耗、水先料、積み荷の磨損、入港税のように、船舶や積み荷につき、通常航海に伴って規則的に発生する損害または費用である。これに対して非常海損は、船舶や積み荷につき、通常予見することができない異常の航海上の事故から生ずる損害である。

[戸田修三]

共同海損・単独海損

非常海損はさらに単独海損と共同海損に分けることができる。このうち共同海損は、船舶および積み荷に対する共同の危険を免れるために、船舶または積み荷についてなした処分によって生じた損害および費用のことである(商法788条)。これ以外の非常海損を単独海損という。単独海損には、たとえば船舶だけについて生じた損害のように、共同海損の要件を満たさない非常海損(狭義の単独海損)のほか、船舶が不可抗力により発航港や航海の途中で停泊するために要した費用(準共同海損)および船舶の衝突が含まれる。狭義の単独海損に対しては「物は所有者のために死す」という民法の一般法理の適用により、船舶や積み荷の所有者がその損害を甘受せねばならない。船舶の衝突については、国内関係は民法の不法行為および商法の船舶衝突に関する規定(商法797条・798条)が、また渉外関係は統一条約(1910)が適用される。共同海損については商法に詳細な規定があるが(商法788条以下)、実際界ではヨーク・アントワープ規則(2004)によって処理されている。

[戸田修三]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「海損」の意味・わかりやすい解説

海損
かいそん
average

航海に関し船舶または積荷について生じる損害および費用。海損は,それが航海に通常伴うものか,それとも事故のように非常の原因により生じるかにより,小海損と非常海損とに分かれる。小海損は船主が運送賃をもって負担すべきものであるが,非常海損はその負担につき問題が生じうる。また非常海損 (狭義の海損) のうち,船長が船舶および積荷に共同の危険を免れるために船舶または積荷についてなした処分によって生じる海損を共同海損,それ以外のものを単独海損という。単独海損の代表的なものとしては船舶衝突がある。なお,共同海損のことを単に海損ということもある。

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百科事典マイペディア 「海損」の意味・わかりやすい解説

海損【かいそん】

海上損害のこと。海上保険において保険の目的が海上危険によって生ずる損害をさす。海損は広義では航海に際し,船舶または積荷につき生ずる一切の実物損害(船舶・積荷の全部滅失を除く)および費用をさす。また,単独海損,共同海損,小海損に分けられ,狭義では小海損以外のもの,特に共同海損をいう。小海損は航海に伴う船舶の消耗,燃料消費,水先案内料,入港税の支払いなど。

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世界大百科事典(旧版)内の海損の言及

【海上保険】より

… このように海上保険はいっさいの海上危険を負担するが,海上危険によって生じたいっさいの損害を塡補するのではなく,あらかじめ取り決められた塡補範囲内の損害のみを塡補する。損害は,船舶・積荷に生ずる物的損害と,事故の結果被保険者が支出した費用(たとえば救助費)に分類することができ,また被保険者が単独で負担すべき単独海損と,共同海損の関係者が分担すべき共同海損に,また被保険利益の全部が滅失したか一部が滅失したかによって全損と分損とに分けられる(海損)。これらの損害のいずれを塡補しいずれを塡補しないかは,被保険利益の種類,保険の目的が被害をうける程度,保険料の高低などに従って,契約のつど保険者と保険契約者の間で取り決められる。…

※「海損」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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