〘形口〙 ふか・し 〘形ク〙
① 空間的に表面・
外面から底や奥までの距離が長い。
(イ) 海、川、淵などの
水面や、谷、
竪穴などのへりや、箱形・
筒形の物の上部から底までのへだたりが大きい。浅くない。
※
万葉(8C後)二〇・四四九一「大き海の水底布可久
(フカク)思ひつつ裳引きならしし
菅原の里」
(ロ) 家、山、野などの入口から内への
奥行が遠い。奥まっている。
※竹取(9C末‐10C初)「ただ一所ふかき山へ入給ひぬ」
(ハ) (転じて) 思想やことばに表わされる内容の
窮極、詳細など、深遠微妙でいたりつくことが困難であるさまをいう。義が奥ふかい。
※
書紀(720)神代上(兼方本訓)「是の談
(ものかたりこと)、蓋
(けた)し、幽深
(フカキ)致
(むね)有
(あ)らし」
② (心に深く感じる意で)
(イ) 感情・思慮・
思索・情欲などの程度が並み並みでない。
※万葉(8C後)一一・二四六九「
山萵苣(やまぢさ)の白露おもみうらぶれて心に深
(ふかく)吾が恋止まず」
※彼の歩んだ道(1965)〈末川博〉四「とうとう京都にやってきたという実感を深うした」
(ロ) 情趣、
情緒、風流心や美意識の到達度が十分であるさまをいう。情趣豊かである。
※東関紀行(1242頃)
赤坂より橋本「ことのはの深きなさけは軒端もる月の桂の色に見えにき」
③ 物事と関係し合う程度が並み並みでない。かかわり合い方が強い。
(イ) 縁、恩、交際などの人間関係が並み以上であるさまをいう。親しくなじみ合っている。
※宇津保(970‐999頃)祭の使「ふかきちぎりある人は、よしある折を過さぬぞよき」
(ロ) 罪や
過失や障害、危難の
度合などが大きい。きびしい。
※源氏(1001‐14頃)葵「それだに人の上にては罪ふかうゆゆしきを」
(ハ)
学問、知識、経験、技巧などが十分である。習熟している。練達している。
※古事記(712)下「爾に御調の大使、名は金波鎮漢紀武と云ふ、此の人深(ふか)く薬方を知れり」
(ニ) 一般に、行為動作の程度がはなはだしいさまをいう。
※大唐西域記長寛元年点(1163)三「三蔵の玄文五明の至理頗る亦沈(フカク)(〈別訓〉さとれり)研(はげ)むで其の趣を得」
(ホ) 物事のかかわり合い方が強い。
※憲法講話(1967)〈
宮沢俊義〉一〇「『兵隊の位』としてなじみの深い大将以下二等兵に至る名称は」
④ 色、香や自然物の広がりが濃密であるさまをいう。
(イ) 色が濃い。濃密な色合である。
※万葉(8C後)二〇・四四二四「色夫可久(ブカク)背なが衣は染めましを御坂たばらばま清(さや)かに見む」
(ロ) かおりがたかい。匂いが強くしみるさまをいう。
※源氏(1001‐14頃)行幸「例の壺どもに唐のたき物心ことにかほりふかくたてまつり給へり」
※源氏(1001‐14頃)橋姫「霧のふかければさやかに見ゆべくもあらず」
(ニ) 草や木や毛が密生している。
※宇津保(970‐999頃)吹上上「かくふかきよもぎの住処を」
⑤ 事の始まりから時がかなりたっているさまをいう。
(イ) 年が大分たっているさまをいう。年寄っている。
老齢だ。
※万葉(8C後)一九・四一五九「磯の上のつままを見れば根を延へて年深有之
(ふかからし)神さびにけり」
(ロ) その季節になってからかなり時がたっているさまをいう。いまやたけなわである。
※後撰(951‐953頃)春下・一一一「春深き色にもある哉住の江の底も緑に見ゆる
浜松〈よみ人しらず〉」
(ハ) 夜になってからかなり時がたっているさまをいう。また、夜が明けるにはまだかなり間があるさまをいう。
※宇津保(970‐999頃)楼上上「夏のはじめ、ふかき夜のほととぎすの声」
⑥ (
出演の
順番が)おそい。寄席芸人の間でいう。「出番がふかい」
※
半七捕物帳(1923)〈
岡本綺堂〉少年少女の死「踊の筋も悪くないのと、その親許
(おやもと)が
金持なのとで、
師匠はこんな小さい子供の
番組を
最初に置かずに、わざわざ深かいところへ廻した」
ふか‐が・る
〘他ラ四〙
ふか‐げ
〘形動〙
ふか‐さ
〘名〙
ふか‐み
〘名〙