湿板写真(読み)しっぱんしゃしん(英語表記)wet collodion process

改訂新版 世界大百科事典 「湿板写真」の意味・わかりやすい解説

湿板写真 (しっぱんしゃしん)
wet collodion process

ヨウ化銀コロジオン乳剤を使う写真法の一つ。〈しつばん〉ともコロジオン(ニトロセルロースエーテルに溶解したもの)を乳剤の結合剤とし,これにヨウ化銀微結晶を分散してコロジオン写真乳剤を作る。この乳剤をガラス板塗布し,余滴を落として乾かさない(このことから湿板の名がある)でカメラに装置して写真を撮影する。このため,湿板写真では撮影者が使用直前にコロジオン乳剤を調合して感光材料を準備する必要がある。撮影後は湿板を硫酸第一鉄などの溶液現像液として現像する。写真像を定着するにはヨウ化銀がシアン化カリウム水溶液によく溶解することから,シアン化カリウム水溶液を定着液として用いる。湿板写真は1851年,イギリスのアーチャーFrederick Scott Archer(1813-57)が発表した方法で,湿板は,当時使われていた銀板写真や,W.H.F.タルボット発明したヨウ化銀感光紙に比べて感度が高く,得られる写真が鮮明であった。当時は湿板で撮影した写真のネガ像をそのままビロードの上に置いて反射光線ポジ像として観察したが,これはネガを焼き付けてポジを作る技術がまだ普及していなかったためである。湿板を撮影者がみずから作らなければならないという不便さの解消,感度の高い臭化銀を使ったコロジオン乳剤の処方など改良も行われたが,71年ゼラチン乾板の発明とともに湿板は一般写真撮影から姿を消した。ただし,画像の濃度が高く,コントラストも高くて鮮明なことから,第2次世界大戦後も写真製版用としては利用されていたが,これも,感光材料製造の手間と定着剤に猛毒のシアン化カリウムを使わなければならないなどの欠点から専用のフィルムが使われるようになった。
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百科事典マイペディア 「湿板写真」の意味・わかりやすい解説

湿板写真【しっぱんしゃしん】

1851年英国のF.S.アーチャーの発明した写真法。ヨウ化物を分散させたコロジオンをガラス板に塗り,硝酸銀溶液に浸してヨウ化銀を生成させて感光材料とする。湿っているうちに撮影し,硫酸第一鉄溶液で現像,シアン化カリウム溶液で定着してネガを得る。乾板の出現以前によく用いられた。
→関連項目写真定着液

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「湿板写真」の意味・わかりやすい解説

湿板写真
しっぱんしゃしん
wet collodion process

1851年イギリスの彫刻家 F.アーチャー (1813~57) が発明した写真法。銀板写真法などに比べ,操作が簡便,経費も安く,仕上がりもよかったので,写真普及の先駆となった。日本では「なま撮り写真」「ガラス写真」とも呼ばれ,明治年間に一般に広まった。ガラス板に塗布したヨウ化銀コロジオン膜が,湿っていて感光性を失わない間に撮影するので,湿板写真と呼んだ。のち,乾燥後も感光度を失わない感光材料が発明され,これを乾板と呼んだ。写真製版でも,近年専用のリスフィルムができるまで,湿板写真が使われていた。

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