湿疹(皮膚炎)(読み)しっしんひふえん

家庭医学館 「湿疹(皮膚炎)」の解説

しっしんひふえん【湿疹(皮膚炎)】

湿疹皮膚炎
 皮膚は人間のからだのもっとも外側にあり、直接外界と接触していますから、体外のさまざまの物質の作用や力をいつも受けています。そのなかで、刺激物やかぶれやすい物質に触れておこる反応が湿疹(しっしん)または皮膚炎(ひふえん)です。
 湿疹(Eczema)という病名は19世紀初頭から使われていましたが、当時はかぶれという皮膚病変の1つの型のことでした。ところが、1920年代に、アレルギーという概念が提唱され、内因性(体質的)のかぶれが湿疹、外因性のかぶれが皮膚炎(Dermatitis)と区別されるようになりました。
 しかし、最近のアレルギーの考え方では、湿疹と皮膚炎は、区別のむずかしい同じ病気で、どちらの病名を用いてもよいことになります。アメリカでは皮膚炎という病名がよく使われますが、日本では湿疹という病名のほうがよく使われています。
◎湿疹のおこり方
 では、かぶれはどうしておこるのでしょうか。
 かぶれの原因となる物質を接触性抗原(せっしょくせいこうげん)またはアレルゲンといいます。抗原の多くは皮膚から吸収されると、組織内のたんぱくと結合し、表皮(ひょうひ)細胞の1つのランゲルハンス細胞にとりこまれます。このたんぱくと結合した抗原がリンパ節に達すると、Tリンパ球(免疫(めんえき)にかかわる細胞の一種)に抗原であるという情報が伝達され、Tリンパ球は、再び同じ抗原が体内に入ってきたとき、それが抗原だと識別できるようになります。これを感作(かんさ)といいます。
 感作されたTリンパ球が皮膚に存在するときに、新たに同じ抗原が体内に入ってくると、抗原と抗体の間で反応がおこります(抗原抗体反応(こうげんこうたいはんのう))。この反応によって皮膚にリンホカインという物質が発生します。このリンホカインが湿疹という病変をおこすのです。
 抗原抗体反応には、つぎのような3つの性質があります。
 第1は、抗原となる物質の性質を決める分子の組み合わせがたった1つちがっても、抗原抗体反応はおこらないことです。この性質によって、金製品に触れると湿疹をおこす人がニッケルに触れてもなんともないのです。
 第2は、湿疹をおこす抗体は、γ(ガンマグロブリンなど血清中の免疫抗体とは関係がないことです。この性質により、抗体をもつ人の血液を輸血されても、その抗体に対応する抗原に触れて湿疹がおこることはありません。
 第3は、抗原抗体反応がおこるためにはその前に必ず感作されていなければなりませんが、その物質と一度接触したくらいで感作は成立せず、何度も接触をくり返しているうちに成立するということです。この性質によって、何年も使ってなんともなかった香水に、ある日突然かぶれたりするわけです。
◎湿疹ができやすい皮膚とは
 湿疹は、とても多い皮膚病変ですが、できやすい人とできにくい人がいます。これは、人によって皮膚の状態が異なるためです。つぎのような状態があると湿疹ができやすくなります。
●アレルギー状態
 同じ物質が何度も皮膚に接触して抗体ができ、抗原抗体反応がおこりやすくなっています。
アトピー状態
 遺伝(いでん)性の先天的過敏症をアトピーといいます。アレルギーの1つの型です。塵埃(じんあい)(ほこり)、花粉、動物の毛、真菌(しんきん)(かび)の胞子(ほうし)、食物など、ありふれたものが抗原となり、気管支(きかんし)ぜんそく、花粉症(かふんしょう)、アレルギー性鼻炎(せいびえん)、アトピー性皮膚炎(せいひふえん)などのアレルギー性疾患をおこします。
●脂肪の異常
 皮膚は皮脂(ひし)という脂肪を分泌(ぶんぴつ)して皮脂膜(ひしまく)をつくり、外界の有害物質の侵入と体内の水分の喪失(そうしつ)を防いでいます。この皮脂の分泌が寒さや老化によって減少したり、脂漏性皮膚炎(しろうせいひふえん)という病気によって量が変化すると湿疹ができやすくなります。
●多汗
 汗は皮脂と作用をおこして皮脂膜を酸性にし、さまざまの化学物質や物理的刺激から皮膚を保護するほか、病原菌増殖(ぞうしょく)を防いでいます。ところが、汗の量が多すぎると、あせもができたり、細菌感染しやすくなり、湿疹ができやすくなります。
◎湿疹の見分け方
 皮膚に皮疹(ひしん)(さまざまの発疹(ほっしん)の総称)ができたとき、それが湿疹かどうかの判断はたいへんむずかしいのですが、かゆみと病変のようすが手がかりになります。
 湿疹は、多かれ少なかれ、かゆみをともないます。まったくかゆみがないものは湿疹ではありません。
 また、皮膚が赤く腫(は)れたり、ぶつぶつ、水ぶくれ、かさぶたができたり、カサカサになったりと、さまざまの病変が集まっているのが湿疹です。どれか1つだけというのは湿疹でないことが多いのです。
◎湿疹らしいときは
 かゆい皮疹ができても、放置してようすをみるだけの人が多いのですが、1~2日たっても自然に消えないときは皮膚科を受診しましょう。病変が大きかったり、分泌物がみられるときはとくに受診してください。
 自分の判断で市販のかゆみどめ軟膏(なんこう)を塗ったりしないようにしましょう。湿疹用と書いてあっても、湿疹には、接触皮膚炎、アトピー性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、ビダール苔癬(たいせん)、貨幣状湿疹(かへいじょうしっしん)、自家感作性皮膚炎(じかかんさせいひふえん)、手湿疹(てしっしん)など実にたくさんの種類があり、それぞれ治療法や薬がちがいます。不適切な軟膏を使用して状態を悪化させることがありますし、湿疹にみえてもそうでないこともよくあるからです。
 また、かゆみが強いときは入浴はさけます。刺激が強すぎて症状が悪化しますから、温泉も避けましょう。
 石けんは、低刺激性石けんや薬用石けんなどを必要最小限使うようにしましょう。
 汗をかくこともよくありません。体育の授業なども、湿疹が軽症でないかぎり、控えるようにしましょう。
 湿疹は、いったん慢性化してしまうと、なかなか治りません。慢性化させないためにも、早めに皮膚科を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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