源平布引滝(読み)げんぺいぬのびきのたき

精選版 日本国語大辞典 「源平布引滝」の意味・読み・例文・類語

げんぺいぬのびきのたき【源平布引滝】

浄瑠璃時代物。五段。並木千柳三好松洛合作。寛延二年(一七四九大坂竹本座初演。「平家物語」「源平盛衰記」を素材とし、木曾義仲の生い立ちや斎藤実盛、多田行綱らを中心脚色三段目九郎助住家の場が有名で、「実盛物語」とも呼ばれる。

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デジタル大辞泉 「源平布引滝」の意味・読み・例文・類語

げんぺいぬのびきのたき【源平布引滝】

浄瑠璃時代物。五段。並木千柳(宗輔そうすけ)・三好松洛みよししょうらくの合作。寛延2年(1749)大坂竹本座初演。源平の合戦に取材し、三段目きりの「実盛物語」が有名。

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改訂新版 世界大百科事典 「源平布引滝」の意味・わかりやすい解説

源平布引滝 (げんぺいぬのびきのたき)

人形浄瑠璃。時代物。5段。正本の作者署名は並木千柳(並木宗輔),三好松洛。番付には作者竹田外記の名も加わる。1749年(寛延2)11月大坂竹本座初演。三段目切は2世政太夫,実盛の人形は初世吉田文三郎初演。《平家物語》を題材とする人形浄瑠璃の代表作の一つ。《源平布引滝》の外題は,すでに1733年(享保18)大坂嵐三右衛門座で演じられているが,本作との内容的つながりは不詳。二段目切〈義賢最期〉には,立作者並木千柳が歌舞伎作者時代に書いた《大門口鎧襲(よろいがさね)》(1743)における初世沢村宗十郎の斎藤庄九郎の芸が採り入れられている。

 (1)初段 源義朝滅亡後,平清盛は暴威を振るい,重盛の諫言もきかず,帝を鳥羽離宮へ押し込める。(2)二段目 義朝の弟木曾先生(せんじよう)義賢は,娘待宵と多田蔵人行綱に,帝を離宮から奪い取り源氏再興を計るよう言い含め,懐胎の妻葵御前を,近江の百姓九郎助に託したうえ,平家の討手を引き受け,壮烈な死を遂げる。(3)三段目 九郎助の娘小万は,義賢から源家重代の白旗を預かり,平家方に追われて琵琶湖を泳ぎ,宗盛の御座船に引き上げられるが,平家の侍で源氏に心を寄せる斎藤別当実盛は,白旗が平家に奪われるのを恐れて,小万の片腕を切り落とす。小万は死に,念力通じて白旗は葵御前の手に戻る。平家方は九郎助がかくまう葵御前の懐胎の子を殺そうとして,瀬尾十郎,斎藤実盛を詮議に遣わすが,実盛の情けある計らいで,無事に男子が誕生し,駒王丸と名付けられ,のちに木曾義仲となる。瀬尾は小万の実父と知って,みずから小万の子手塚太郎に討たれ,実盛は手塚に,将来戦場で再会するとき,白髪を染め,若やいで勝負しようと約束して別れる。三段目までがしばしば上演される。三段目切〈実盛物語・綿繰馬〉は,無常観を主題とする渋い西(竹本座)風の名曲。歌舞伎の実盛は思慮分別に富み度量のある武士の役柄。〈生締(なまじめ)物〉(油で棒状に固めた髷(まげ)の〈生締〉という鬘(かつら)を用いるのでこう通称される)の代表的な役で,人形浄瑠璃より派手な演出を見せる。菊五郎型,団蔵型などについて杉贋阿弥著《舞台観察手引草》に詳しい。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「源平布引滝」の意味・わかりやすい解説

源平布引滝
げんぺいぬのびきのたき

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。時代物。5段。並木千柳(せんりゅう)、三好松洛(しょうらく)作。1749年(寛延2)11月、大坂・竹本座初演。『源平盛衰記』などに取材して、源義朝(よしとも)の滅亡後、その弟木曽先生義賢(きそのせんじょうよしかた)の遺児駒王丸(こまおうまる)が成人して木曽義仲(よしなか)となり、多田行綱(ただゆきつな)の加勢によって再挙するまでを脚色。題名は、摂州(兵庫県)布引滝に平家滅亡の神託が現れる話(初段)に由来する。二段目(義賢最期)は、清盛の追っ手に囲まれた義賢が、奴折平(やっこおりへい)実は多田行綱に後事を託し、その女房小万(こまん)に源氏の白旗を預けて自刃するまで。三段目は小万が琵琶(びわ)湖を泳いで渡る途中、平家の船にみつけられるが、源氏にゆかりの斎藤実盛(さねもり)が小万の腕を旗ぐるみ切り落とす「湖上御座船(ござぶね)」のあと、有名な「九郎助(くろすけ)住家」になる。義賢の妻葵(あおい)御前が懐妊の身を小万の養父百姓九郎助にかくまわれていると、実盛と敵役(かたきやく)の瀬尾(せのお)十郎が詮議(せんぎ)にくるが、実盛は誕生の駒王丸を機知によって見逃してやり、死んだ小万を実のわが子と知った瀬尾は、わざと孫の太郎吉に討たれる。捌(さば)き役の実盛が小万を切った事情を、朗々たる台詞(せりふ)回しと美しい型にのせて表現するところが眼目なので「実盛物語」ともよばれ、歌舞伎(かぶき)でも人気のある演目。なお四段目には、行綱が琵琶法師松波検校(まつなみけんぎょう)となって平家をねらい、娘小桜(こざくら)が責められるのを耐えつつ琵琶を弾ずる「松波琵琶」がある。

[松井俊諭]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「源平布引滝」の意味・わかりやすい解説

源平布引滝
げんぺいぬのびきのたき

浄瑠璃。時代物。5段。並木千柳 (→並木宗輔 ) ,三好松洛作。寛延2 (1749) 年大坂竹本座初演。享保 18 (33) 年大坂角の芝居の同名歌舞伎 (水狂言) の影響下に成立。源平の争いを背景に,源義朝の弟義賢の死や,白髪を染めて出陣した斉藤実盛の最期,木曾義仲の誕生を描いた作品。義賢は,兄義朝を討ち後白河院を鳥羽に幽閉した平清盛に反抗して自害をする。その御台所・葵御前が近江の国の九郎助の家にかくまわれ,平家の侍斎藤実盛の情けにより,無事駒王丸 (義仲) を出産する3段目「九郎助住家」 (実盛物語,綿繰馬) が中心。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「源平布引滝」の解説

源平布引滝
げんぺい ぬのびきのたき

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
享保18.6(大坂・嵐座)

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世界大百科事典(旧版)内の源平布引滝の言及

【実盛】より

…前ジテを幽霊めかして人の目に見えないように書いたのは,そうしたうわさ話が当時実在したためのようだが,能としては珍しい。人形浄瑠璃《源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)》の原拠。【横道 万里雄】。…

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