漁船(読み)いさりぶね(英語表記)fishing boat

翻訳|fishing boat

精選版 日本国語大辞典 「漁船」の意味・読み・例文・類語

いさり‐ぶね【漁船】

〘名〙
① 魚をとる船。すなどりぶね。漁船。
※千載(1187)恋一・六四五「藻くづ火の磯まを分くるいさり舟ほのかなりしに思ひそめてき〈藤原長能〉」
② 薫物(たきもの)の名。沈香(じんこう)、丁字(ちょうじ)香、甲香、甘松(かんしょう)香、薫陸(くんろく)香をねり合わせたもの。〔五月雨日記(1479)〕

すなどり‐ぶね【漁船】

〘名〙 魚をとる船。いさりぶね。ぎょせん。
※落梅集(1901)〈島崎藤村〉藪入・上「漁(スナド)り舟(ブネ)の艫の音は、静かに波にひびくかな」

ぎょ‐せん【漁船】

〘名〙 漁業をするための船。いさりぶね。漁舟。漁猟船。
※太平記(14C後)四「雲山迢々として月東南の天に出れば、漁舩(ギョセン)の帰る程見へて」

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デジタル大辞泉 「漁船」の意味・読み・例文・類語

ぎょ‐せん【漁船】

漁業とそれに関連する仕事に使用する船。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「漁船」の意味・わかりやすい解説

漁船
ぎょせん
fishing boat
fishing vessel

漁業とそれに関連する業務に使用される船舶の総称。通常、漁具を漁場まで運搬し漁労を支援する業務、漁獲物を加工および保管する業務、漁獲物を水揚げ港まで運搬する業務を兼ねて行う。漁業に関連する業務には、試験、調査、指導、練習、取締りなどがある。第二次世界大戦後、ロシア(ソ連時代を含む)は、遠洋漁船、主としてトロール漁船の増強に努め、世界第一等の漁船隊を保有する世界有数の漁業生産国となった。またペルーは、沿岸の豊富な水産生物資源を漁獲するために漁船建造に努め、年間漁獲量世界第1位を記録したこともある。このように漁船勢力の増強は漁獲量の増大に密接につながっている。第二次世界大戦によって壊滅状態となった日本の水産業は、漁場を沿岸より沖合へ、沖合より遠洋へと拡大して、タンパク源の確保と増産に努めた。それに伴って漁船勢力、漁船の装備、漁船が従事する漁業種類、漁獲量などのいずれをみても世界のトップクラスとなり、日本の遠洋漁業は、1970年代前半に生産量の最盛期を迎えた。しかし、200海里漁業水域の設定(1977)、国連海洋法条約の発効(1994、日本は1996年)などにより漁場が大幅に減少するなか、日本は遠洋から沿岸・近海・沖合へと漁業の中心を移行させていく。以下、日本の漁船について述べる。

[嶋村哲哉・添田秀男]

漁船に適用される法規

漁船法第2条に漁船の定義が次のように規定されており、漁船とは次の各項に該当する日本船舶をいう。

(1)もっぱら漁業に従事する船舶
(2)漁業に従事する船舶で漁獲物の保蔵または製造の設備を有するもの
(3)もっぱら漁場から漁獲物またはその製品を運搬する船舶
(4)もっぱら漁業に関する試験、調査、指導もしくは練習に従事する船舶または漁業の取締りに従事する船舶であって漁労設備を有するもの
となっている。

 漁船法は、漁船にかかわる重要な法律で1950年(昭和25)に公布された。この法律は、漁船の量的な調整と質的な向上を図ると同時に、漁船の実態を把握して漁業生産の調整を行うことを目的としている。漁船は、この法律の定めに基づいて、根拠地の地方官庁に備えた漁船原簿に登録したのち初めて漁船としての業務に従事できる。

 漁船法施行規則には、漁船の建造、漁船の登録、漁船に関する検査などについて明記されている。

 日本の漁船に適用される法規は、漁船法のほかに、船舶法、船舶安全法、船舶安全法施行規則、小型漁船安全規則、船舶職員及び小型船舶操縦者法などがある。

 船舶法は、日本船舶としての権利と義務を定めている。この法律の適用を受けて登記または登録して国籍証書の交付を受ける。

 船舶安全法は、運航上の安全を確保するために船舶の設備、構造について定めたものである。この法律の定めに従って諸検査が実施され、検査に合格すると検査証書が交付される。

 1974年に農林省・運輸省令第1号で公布された小型漁船安全規則は、船舶安全法の適用が除外されていた総トン数20トン未満の小型漁船に適用される。諸検査に合格すると検査票が交付される。漁船は一般船舶と異なる業務に従事するので、その設備や構造上に特別の配慮が必要となる場合がある。これについて漁船特殊規則、漁船特殊規程、漁船検査規則などの定めがある。

 船舶職員及び小型船舶操縦者法は、運航上の安全確保に必要な乗組員の資格、船内における職務、有資格者の人員数などを定めている。

[嶋村哲哉・添田秀男]

漁船の登録

漁船の登録は、総トン数1トン以上のすべての漁業種類の動力漁船、無動力漁船の所有者が行う義務がある。登録が完了すると漁船登録票が交付されるが、この登録票はかならず船内に備えていなければならない。また、登録票に記載されている登録番号を外から見えやすい船体の両舷に表示しなければならない。この表示が、たとえば「TK2-12345」であるとすると、はじめのローマ字2文字は都道府県名を表し、次の数字は漁船の区分された等級(以下に列挙する(1)~(7)に区分された等級)を示し、その次の数字は各級での通し番号となる。漁船の等級基準は以下のように定められている。

(1)総トン数100トン以上の海水動力漁船
(2)総トン数100トン未満5トン以上の海水動力漁船
(3)総トン数5トン未満の海水動力漁船
(4)総トン数5トン以上の海水無動力漁船
(5)総トン数5トン未満の海水無動力漁船
(6)淡水動力漁船
(7)淡水無動力漁船
したがって、前記の「TK2-12345」の場合は、東京都に登録された総トン数5トン以上100トン未満の海水動力の漁船で、登録番号12345番目の船であることを意味している。

[嶋村哲哉・添田秀男]

漁船の種類および勢力

漁船特殊規則では、20トン以上の漁船を第1種から第3種、20トン未満の漁船を小型第1種、同第2種に区分して、各区分の漁船が従業できる漁業種類などを定めている。推進機関を装備しているか否かによって動力漁船と無動力漁船とに分類される。動力漁船が装備する推進機関の種類には蒸気機関、ディーゼル機関、焼き玉機関、電気点火機関がある。蒸気機関を装備する漁船は1976年(昭和51)以降登録されていない。焼き玉機関を装備する漁船は年々減少し、電気点火機関を装備する漁船もほとんど使われておらず、ディーゼル機関を装備する漁船がほぼ100%を占めている。無動力漁船は隻数およびトン数ともに年々減少している。船質によって大きく区分すると鋼船、木船、FRP船(ガラス繊維強化プラスチック加工船)、アルミ合金船に分類される。FRP船は、比較的安価で建造でき、軽量で腐食しないことから1970年代から急速に普及した。しかし、代替船建造などで不用になった船の廃棄処理方法あるいはリサイクルのむずかしさから急増する廃船の不法投棄などが社会問題化しており、2001年(平成13)から実施されている国土交通省の「FRP廃船高度リサイクルシステム構築プロジェクト事業」の研究成果を踏まえて自治体あるいは関連企業・団体がリサイクル・再利用技術の確立およびシステムの事業化を目ざしている。アルミ合金船は1980年代後半から増加している。軽量で腐食せず、容易にほぼ100%の再生処理が可能である利点がある。また、1990年代後半にはチタン製の漁船が建造されている。木船の登録数は著しく減少している。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

漁船の構造および装備

漁船は一般船舶に比べ、運用上、他船、岩礁、海底構造物あるいは岩壁との激しい接触や漁具による衝撃を受けることが多い。また、操業中の船内重量配置の大きな変化、海象・気象条件が悪い海域での操業などの過酷な条件に耐えなければならない。したがって、構造上特別の配慮が必要である。魚艙(ぎょそう)、氷艙、活魚艙(かつぎょそう)、燃料油艙、清水艙、乗組員の居室、賄室、その他の区画、および推進機関、各種機器、漁労設備、その他の設備の大きさ・位置が、従業する漁業種類用途に対して重心位置、喫水(きっすい)、およびトリム(船首喫水と船尾喫水との差)が適切であるように定められている。

 漁船漁業に従事する漁船は、海上を移動する構造物としての一般船舶と同じ機能と、漁労行為を支援するのに必要な副漁具としての機能を兼ね備えていなければならず、したがって、漁船が装備する機器は、海上移動に必要な運航機器と、漁労作業上必要な漁業機器とに大別できる。しかし、運航機器もその多くは漁労作業上欠くことができない装備である。

 漁船に装備される運航機器は、その性能、信頼性、種類などにおいて最新鋭の一般船舶に匹敵するものである。漁業機器は、船体の風浪暴露部に装備され、管理面の配慮が十分に行えない場合がある。また、漁業機器の設置環境条件や使用条件が過酷である場合が多い。したがって、堅牢(けんろう)で、性能、信頼性に優れた機器の装備が重要である。

 漁船は、従業する漁業種類によって、出漁する海域、使用する漁具、漁法など操業条件が異なる。したがって、装備する機器は、操業する漁業種類に適応したものでなければならない。たとえば、500トン級の漁船が装備するおもな機器は、運航機器として磁気コンパスジャイロコンパスなどのコンパス類、方向探知機(無線方位測定機)、ロラン航法装置、衛星航法装置、レーダー、衝突予防装置、潮流計、推進機関、無線通信機、ファクシミリなど、漁業機器として魚群探知機、ソナー、ネットホーラーネットレコーダートロールウィンチ、荷役ウィンチなどのウィンチ類、ベルトコンベヤー、冷凍設備などである。

 各種漁船の装備をみると、運航機器では電波航海機器の普及が顕著である。電波航海機器は主として船位決定を支援するもので、次の三つに分類できる。(1)目標の方位を測定する方向探知機、(2)電波の伝搬時間を利用したロラン航法装置、デッカ航法装置、オメガ航法装置、衛星航法装置、(3)目標の方位と距離を測定するレーダーである。陸地を視認して航海する地文(ちもん)航法、天体を観測して得た位置の線を利用する天文(てんもん)航法は、船位決定に際して一定の条件を必要とするが、電波を利用する電波航法では各種機器の性能の範囲内で任意のときに船位決定ができる。GPS(Global Positioning System:全地球測位システム)が普及し、海上を航走する部分においてはすべての航法以上の性能を発揮できるが、衝突予防という観点から沿岸域を航海する場合や他船との位置関係を把握するためには他の電波機器(レーダーなど)を併用する必要がある。漁船の電波航海機器の装備は航海の安全性や経済性の向上と同時に、操業位置の確定あるいは操業効率の向上に貢献している。通常、漁業種類による運航機器の装備に大きな違いはない。漁業機器では魚群探知機、冷凍(冷蔵)設備はあらゆる漁業種類に欠くことができない装備である。漁業種類ごとに特有の装備をいくつかあげてみると、トロール漁船のトロールウィンチ、ネットレコーダー(底引網に取り付け、網の位置や魚の入網状況を船上に伝える装置)、巻(旋(まき))網漁船のパワーブロック(動力滑車)、環巻ウィンチ、マグロ延縄(はえなわ)漁船においてはラインホーラー、ブラン巻機、投縄機、主縄(おもなわ)(幹縄(みきなわ))収納機などがある。これらの装備は漁労作業の機械化および省力化に貢献して操業効率を著しく向上させた。

 漁船は、漁具や漁法の開発、漁場条件の変化に対応して巧みに構造、装備を改良されてきた。その主たる目的は操業効率の向上あるいは採算性の向上にあった。1973年(昭和48)の第一次石油危機以降、それまでの構造や装備が操業効率の向上に偏重し、採算性に対する配慮が不十分であったことが反省され、操業効率と採算性とともに省人化に配慮した各種漁船の構造や装備の改良がなされた。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

各種の漁船

巻網漁業、トロール漁業、マグロ延縄漁業は漁業種類別の年間漁獲量が上位にあり、従業する漁船には小型のものから大型のものまである。

[嶋村哲哉・添田秀男]

巻網漁船

巻網漁業は、表層を回遊して濃密な魚群を形成するイワシ、アジ、サバ、カツオ、マグロなどを帯状の網で取り囲んで漁獲する漁業である。この漁業には、日本で発達した揚繰(あぐり)網に外国の巾着(きんちゃく)網の着想を加味した漁法と、アメリカ式巾着網漁法とがある。ここでは前者を日本式漁法、後者をアメリカ式漁法という。

 日本式漁法は、通常、もっぱら魚群の探索・集魚に従事する魚探船、灯船(2~3隻)、漁具を搭載して漁労作業だけを行う網船(1~2隻)、漁獲物の運搬に専従する運搬船(2~3隻)による船団操業を行う。船団の編成は地方によって若干の違いはある。魚探船、灯船は50トン以下、網船、運搬船は100トン以上の船型のものが多い。アメリカ式漁法は大型船による単船操業である。船の規模は数トンから500~3000トン級のものまで幅広いが、500トン級の船型のものが多い。徹底した省力化による高い生産性が評価され、昭和40年代の後半(1970~1974)以降急速に発達した。1971年(昭和46)に建造された日本丸(1000トン)が国産のアメリカ式巻網漁船の第一号船である。

 日本式漁法の網船は一層甲板型であり、アメリカ式巻網漁船は二層甲板型のものが多い。どちらの場合もおもな漁労作業が船尾甲板で行われるので、船首船橋にして船尾に広い作業甲板を確保している。船尾甲板はフラットであって漁具操作上海面からの高さが低いことが望ましい。船型が大きいアメリカ式巻網漁船では船尾が斜路(スリップウェー)となっている。網船は、船尾に長いブーム(張り出し竿)と、ブームの先端にパワーブロックを装備している。長いブームとパワーブロックは巻網漁船にとって重要な装備であるが、操業中、ブーム、パワーブロックの自重に加えて漁具および漁獲物の重量が船体に大きな傾斜モーメントとして作用する。したがって、船体の復原偶力の確保に慎重な配慮が必要である。アメリカ式巻網漁船には、操業中の操船を支援するバウスラスター(横向きプロペラ)の装備、魚群探索のためのヘリコプターや水上飛行艇の搭載が可能な船もある。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

トロール漁船

トロール漁業は、袋状の網を曳(ひ)き回す引網漁業のうち、開口板(オッターボード)を取り付けた漁具を使用する漁業である。おもに海底または海底付近に生息する底魚(そこうお)類(タイ、ヒラメ、カレイ、ニベ、タラなど)を漁獲する。開口板を改良した中層引きもある。袋状の網を曳き回す漁業は、ヨーロッパにおいては17世紀末すでに地中海、バルト海で盛んに行われ、日本においては古くから各地の沿岸で小規模のものが行われた。この漁業の漁獲成績は漁具の網口の開口状態によってほぼ決まる。良好な網口の開口状態を確保するために考案されたのがオッターボードである。ヨーロッパにおいて1892年(明治25)オッターボードの実用化が成功したことによって、トロール漁業はほかの引網漁業に対して優位にたった。1908年(明治41)長崎の倉場富三郎(くらばとみさぶろう)(1870―1945)が、イギリスから深江丸(鋼船、169トン)を購入すると同時にイギリス人の技術者を雇用した。これが日本のトロール漁船の第一号船である。日本では数少ない外国からの技術導入漁業として始まったトロール漁業は、漁獲成績がよいので急速に着業数が増えてトロール・ブームを生んだ。しかし、トロール漁船による大量漁獲は漁場の荒廃、資源の枯渇を招き、ほかの沿岸漁業との紛争のもとになった。そこで政府は1909年に制定したトロール漁業取締規則を逐次改定した。これによってトロール漁船の漁場は、内地沿岸、朝鮮半島沿岸から東シナ海、黄海(こうかい)の大陸棚に移行した。しかし、漁場を遠隔化するには、当時の漁船では航続距離、漁獲物の船内保蔵設備などの能力が不十分であった。1917年(大正6)の法律改正では、トロール漁船を総トン数200トン以上、速力11ノット以上、航続距離2000海里以上と定めている。その後も、トロール漁船と二隻引機船底引網漁船との漁場の競合があり、トロール漁船は大型化と冷凍装置の装備によって第二次世界大戦前は漁場を南米アルゼンチン沖、ベーリング海、その他の海域に拡大した。しかし、1977年の国際海洋法会議で設定された200海里排他的経済水域によって、漁場の拡大は終焉し、操業水域はごく限定されるようになった。当時のトロール漁船には1000トン級のものもある。これは一層甲板で船橋は甲板室型、舷側(げんそく)の船首と船尾寄りにオッターボードを収納する装置を備えて投揚網する舷側式トロール漁船である。

 トロール漁船の技術革新は第二次世界大戦後に訪れた。すなわち、イギリスで開発された船尾式トロール漁船の出現である。船尾式トロール漁船は、船尾に斜路を設けて船尾から投揚網を行う。この方式によって、漁獲物の船内完全加工処理と長期航海を行い、漁獲物の付加価値の向上と稼動率の増大による生産性の向上を図った。漁獲物処理工場、冷凍装置、フィッシュミール装置などを装備するために、二層甲板型を採用している。また、この方式は、操業能率を高め、舷側式トロール漁船が漂泊して風浪を舷側から受けながら投揚網することによる船体や乗組員に対する危険を著しく減少した。大型船に船尾トロール方式が普及するとともに、小型船に適した船尾トロール方式が開発された。これによって舷側式トロール漁船は大型船、小型船ともに姿を消した。1955年(昭和30)に建造された東京水産大学(現東京海洋大学)の練習船海鷹(うみたか)丸(1453トン)が日本の船尾式トロール漁船の第一号船である。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

マグロ延縄漁船

マグロ延縄漁業は、1本の長い主縄(幹縄)に釣り針を着装した多数の枝縄を取り付けた漁具を用い、表層や中層を回遊する主としてマグロ類やカジキ類を捕獲する漁業である。日本古来の伝統漁業で、第二次世界大戦後急速に発展した。従業する漁船は20トン未満の小型船から500トンを超える大型船まで多くの船級がある。船級に応じて、沿岸、近海から太平洋、インド洋、大西洋のほぼ全域、オーストラリア南方海域にも出漁している。この漁業の特徴の一つは、100トン以上の船級では1回の操業に使用する釣り針数(漁獲努力量)に著しい差がないことである。これは、直接的な漁獲能力が船級に関係ないことを物語っている。

 100トン未満の小型船には、甲板室型の船橋を船の中央部付近に設けた一層甲板型船がある。100トン以上のものはほとんど長船尾楼型を採用している。漁具は船尾から投入され、上甲板船首寄りの右舷側に備えたラインホーラーによって収揚される。おもな漁労作業は船橋前の上甲板で行われる。上甲板は海面からの高さが低いことが望ましい。漁具投入の際に追波(おいなみ)や横波が船内に打ち込む危険の防止、漁獲物の品質保持に必要な急速冷凍装置の装備に長船尾楼型船は適している。大西洋やオーストラリアの南方などの高緯度海域は、海象・気象条件が著しく悪い場合が多い。荒天操業時の船体や人命の安全を確保する船型として、船首に船橋を設けた二層甲板型の船が一時建造されたが、長船尾楼型船の船首楼に船尾方向に広がる覆甲板を設け、ブルワークを高くして上甲板への波浪の打ち込みを防ぐようにしたものが多く採用されている。遠洋マグロ延縄漁業の漁場も第二次世界大戦後急速に拡大したが、資源保護あるいは海洋権益の観点から操業水域あるいは漁獲量、漁獲努力量に制限を受けるようになった。

[嶋村哲哉・添田秀男・吉原喜好]

『茶碗谷洋編『水産資材便覧 漁船船体編』(1972・北海水産新聞社)』『稲村桂吾著『水産学全集5 漁船論』(1973・恒星社厚生閣)』『川島利兵衛他編『新水産ハンドブック』(1981・講談社)』『赤羽正春著『日本海漁業と漁船の系譜』(1998・慶友社)』『二野瓶徳夫著『日本漁業近代史』(1999・平凡社)』『若林良和著『水産社会論』(2000・御茶の水書房)』『津谷俊人著『日本漁船図集(4訂版)』(2001・成山堂書店)』『海難審判庁編・刊『漁船海難の実態』(2001)』


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改訂新版 世界大百科事典 「漁船」の意味・わかりやすい解説

漁船 (ぎょせん)

一般に水産動植物の採捕または養殖など漁業に従事する船をいう。

 江戸時代にはカツオ釣りに和船を用いた記録が多く残っており,その長さは3間(約5.4m)ぐらいである。丸木をくりぬいた古代の丸木船より矧船(はぎぶね)をへて1~2枚柵の和船型へ発展したと民族学ではされているが,その時代的な変遷はよくわかっていない。和船の構造は無甲板で,強度は外板,船梁(せんりよう)および戸立(とだて)で保たせ,西洋型のようなキール,肋骨はない。推進力は櫓および帆で,帆の構造から風上方向に進むことはできないため,明治以前の漁場は沖合数マイルとされている。一方,外国漁船は,《万次郎漂流記》(1841-51)で有名な捕鯨用バーク型帆船が1820年ころすでに小笠原諸島や金華山沖に,明治の初めには海獣用スクナー型帆船が日本近海に出没していた。これらに対抗するため1887年水産局より漁船改良試験費が出され,89年に日本で初めて海獣用帆船が3隻建造された。また,92年には和船の改良型として長さ11mのヤンノー型が出現した(その後の日本の漁船史については後に詳述する)。

127トン未満のサケ・マス流し網漁船がベーリング海,500トン未満のマグロ漁船がニュージーランド沖およびアフリカ沖,800トン級の捕鯨船が南氷洋へ出漁するように,漁船は小型の割合に航行範囲が広く,一般船のような特定の航路をもたない。このため荒天に遭遇することが多いので,十分な復原性,耐航性が必要である。また,漁場での操業には,漁船の操縦性能が問われ,旋回性能および推進機関の発停前後進の操作が簡単で速く確実なことが要求される。そのため可変ピッチプロペラやサイドスラスターを備える漁船もある。漁場での移動,巻網の投網などには高速力が,引網には曳網(えいもう)力が要求されるので,漁船の推進機関は高馬力で遠隔操作ができるディーゼルエンジンがおもに使用されている。漁獲物は鮮度保持のため冷凍などにして船内に保蔵されるので,魚倉の防熱および冷凍設備が必要となる。また,一般に漁場の位置再現,領海侵犯問題などのため,レーダー,ロラン航法装置,衛星航法装置,方向探知機など船位決定用計器をはじめ,魚群探知機,ソナー,無線電信電話など,大型船舶をしのぐ計器をもち,5トン未満の漁船でもレーダー,ロランをもっている。漁労関係の設備は漁具および操業方法によって違うが,ウィンチ類,ネットホーラー,パワーブロックなどを有し,省力化にともない機械化,自動化が進んでいる。とくに遠洋漁船については居住容積および冷暖房の空調設備の改善がなされている。

現在,日本では〈漁船法〉で漁船を次のように定義している。(1)もっぱら漁業に従事する船舶,(2)漁業に従事する船舶で漁獲物の保蔵または製造の設備を有する船舶,(3)もっぱら漁場から漁獲物またはその製品を運搬する船舶,(4)漁業に関する試験,調査,指導,取締りまたは練習に従事する船舶で漁労設備を有するもの。(1)は沿岸で釣り,採藻をする小型船から,巻網漁船,カツオ・マグロ漁船,トロール漁船,捕鯨船など近海および遠洋で操業する船で,その範囲は広く,狭義の漁船は一般にこれをいう。(2)は自船または付属船の漁獲物を処理加工し,船内収納ができる船で,ミール工船式トロール漁船,捕鯨母船,サケ・マス母船などをいう。(3)は漁獲物または加工品を漁場から港へ運搬する船で,巻網漁業の付属運搬船,母船漁業の仲積船などをいう。(4)は国または都道府県の水産関係の研究機関に所属する調査・指導船,教育機関に所属する練習船,行政機関に所属する取締船をさし,官庁船ともいわれる。漁船は船舶であり,一般船と同様に人命および船舶の安全のため,その構造設備については船舶安全法の適用を受ける。漁業調整上および資源保護の面から漁船の建造および改造には知事または農林水産大臣の許可が必要で,1トン未満の無動力漁船を除きすべての漁船は根拠地の都道府県の漁船原簿に登録しなければ使用できない。以下,主要な漁船について解説する。

(1)カツオ釣漁船 20トンより500トンくらいまで船の大きさはさまざまであるが,100トン以上は鋼船で,それ以下の木船は現在ではFRP(繊維強化プラスチック)で作られるようになった。船首の釣台が帆船のように突き出ているのが特徴である。餌料に生きたイワシおよび擬餌を用いたさお釣りなので,船の全周に釣台と散水機をもち,魚群の発見と操船のために見張台と天幕張りの上部操舵(そうだ)室がある。前部甲板下には2列に魚倉がならび,その一部は餌イワシの活魚倉として使用される。活魚倉は在来の船底換水孔による自然換水式からポンプによる強制換水式へと変わった。また魚倉にはプライン凍結用の急冷設備をもつ船も多くある。さお釣りのため乗組員を多く必要とするが,人手不足のため自動カツオ釣機が使用されている。

(2)マグロはえなわ漁船 近海で操業する120トン以下と,380トン型を中心として700トンくらいまでの遠洋で操業するものとがあり,前者は他の漁業との兼業船が多い。船尾より投縄(とうなわ)機で投縄をするので,後部上甲板に150kmにおよぶはえなわが格納されている。その方式はオートリールによる巻取りか,ワインダーで小区画の格納室への収納であるが,後者へ変わりつつある。揚縄は上甲板右玄前部のラインホーラーで行い,枝縄はブランリールで処理される。魚肉の変化を防止するために凍結室温度-55℃,魚倉温度-50℃の冷凍装置を備えるものが多い。外地での補給により航海日数が1年にも及ぶので,居住性はよい。

(3)機船底引網漁船 2隻で網を引く以西底引網漁船と1隻で引く沖合底引網漁船(以東底引)とがある。前者は100~215トン級が主であり,後者は126トン未満で隻数が多い。大型の船は船尾式を採用し操業能率を上げている。引網用の数百mに及ぶロープの巻取りは,船尾ギャロスのローラーを経由してウィンチドラムで引き寄せ,リールに収納する。沖合底引網漁船はかけまわし式漁法で,引網用ロープの径を変化させているので,独特のはさみドラムとリールの組合せにより揚網を行う。これら漁労用ウィンチ類は操作の簡易な油圧式が用いられている。航海日数は数日から1ヵ月であるが,大型のものは北洋の母船式底引網漁業へ独航船として加わる。
以西底引網漁業
(4)トロール漁船 網口を広げるためにオッターボードを用いる大型底引網漁船をいう。近年すべて船尾にスリップウェーおよびギャロスをもつ船尾投揚網方式であるため,船首船橋の後にある大型トロールウィンチで揚網できるように作業甲板は広く,各種漁労用ウィンチおよび数基の門形マストをもつ。魚捕部(コッドcod)を後部マストでつりあげ,漁獲物をフィッシュハッチから中甲板へ落とし冷凍または加工のうえ冷凍する。北洋で操業するものを北方トロール,アフリカ沖,ニュージーランド沖で操業するものを南方トロールと一般に呼んでいる。前者は約4ヵ月の航海であり,2500~3000トンと大型である。後者は漁船を現地に数年置き,乗組員を約10ヵ月で交替する方法が取られているが,250~2500トンと前者より小型である。

(5)巻網漁船 魚探船,灯船,運搬船および網船本船で1船団を構成する日本式巻網漁船と単独で操業するアメリカ式巻網漁船とがある。前者は前部甲板上に環巻用ウィンチ,中央玄側に揚網用ローラー,船尾にネットホーラーがある。揚網したあと,パワーブロックおよび網さばき機が装備された漁労用ブームで船尾に網を収納する中央船楼型と,これらの作業を一体化し省力化をはかった船首楼型とがある。船尾で揚網するため船幅は広く,復原性が考慮されている。両者とも136トン以下である。

 アメリカ式巻網漁船はスターン型であり,網と船との位置関係を保つためにバウスラスターをもち,網とともにスキフ(小型ボート)を落とすために船尾にスリップウェーがある。中央に漁労用ブームおよび各種大型の揚網装置が集中している。対象魚がカツオ,マグロであり,魚倉はブライン凍結装置をもつ。350トン型が一般である。

(6)刺網漁船 その漁業規模から見て,サケ・マス流し網(刺網)漁船が代表であり,そのトン数は日本海側では73トン型,太平洋側では128トン型である。船尾に網置場がある。最船尾の投網用ローラーより投網し,前部上甲板左玄のいわ(沈子)用ネットホーラーおよびあば(浮子)揚げ用巻揚機により揚網する。魚を取りはずした後,中央部船楼の横にあるパイプで船尾へ送網し,いわおよびあば網さばき機で網置場に収納する。これらの漁船は裏作としてマグロはえなわ,棒受網およびイカ釣漁業を兼業する。兼業の漁業により魚倉区画数および冷凍装置の能力に違いがある。

(7)捕鯨船 高い船首に捕鯨砲が装備され,中央の船橋より砲台へガンナーズ・パッセージで通じている。前部の甲板上にはもりと連結している捕鯨綱を巻く捕鯨ウィンチ,見張台のついた高いマストがある。荒天時でも高速航海ができるよう,とくに高馬力の主機関をもち,クジラの追尾に必要な旋回性能をよくするために大きな舵をもつ。船型は玄弧を大きくすることにより甲板に入った海水が流出しやすいようになっている。また母船への横づけに対し船体は強固に作られている。水中のクジラを追尾するための探鯨機を装備している。南氷洋の母船式捕鯨に従事する700~900トン型のものから,近海捕鯨の200~350トン型まである。さらに小型捕鯨では50トン以下の船で操業を行っている。近年捕鯨船の新造はない。

(8)官庁船 漁業調査・指導船,練習船,取締船などがある。漁業調査・指導船は国および地方庁の水産研究所・試験場に所属する。漁業調査は年次計画に基づき海区ごとの海洋・資源調査をおもな業務とし,漁業指導は担当海区の海況,魚群形成状態の調査および試験操業などの結果を漁業者に通報し,操業に寄与することを目的とする。そのため1隻の船が兼ねている場合が多い。船は2500トンから数トンまであるが,船型は一定していない。漁業練習船は水産関係の教育機関である大学および水産高校において,航海,漁業および海洋調査などの実習を目的とした船である。船型は船尾トロール型,マグロはえなわ船型を原型としているが,多種の漁業実習を行うため兼用型である。漁業は許可を必要とすることが多く,国際的には条約,協定などがある。これらに違反する漁船の取締りを行う船を漁業取締船といい,水産庁,地方庁の行政機関に属する。外洋取締りをする1500トン級から内水面の小型船まであり,違反船の追跡のため高速力が必要で船型はやせ型が多い。

漁船には1937年発足の〈漁船損害補償法〉に基づく国営の漁船保険制度があり,県単位および業種別の保険組合が元受保険を行っている。海上における滅失,沈没,損傷などの不慮の事故に対する普通保険制度のほか,戦争,拿捕(だほ)などによる事故については,特殊保険制度および〈漁船乗組員給与保険法〉(1952公布)に基づく抑留船員の給与についての保険制度がある。これらの保険に対しては国が再保険を行っているほか,一部の保険料を負担している。衝突などで第三者に与えた損害を補償する保険には漁船船主責任保険があり,漁船積荷保険と併せて漁船保険中央会が再保険を行っている。このほかに漁獲共済,養殖共済,漁具共済を内容とする漁業災害補償制度がある。
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1996年末の漁船総数は37万8431隻で,うち96.2%が海水漁業,3.8%が淡水漁業に使用されている。また96.4%が動力化され,3.6%が無動力船である。ただ淡水漁業向け漁船は30.2%が無動力で,海水漁業向けの漁船に比べ当然ながら規模も小さい。海水漁業向け漁船の動力化率は97.4%と高く,これが代表的漁船であり,表1にその概要を表示した。

 このうち一般に沿岸漁業の漁船と規定されている10トン未満の小型漁船が,数の上では95.9%と圧倒的である(ただし総トン数に占める比率は43.3%)。船材種類別では大型船ほど鋼船の比率が高く,木船よりFRP船の比率が高いことが注目される。FRP(fiberglass reinforced plastics)は繊維強化プラスチックのことで,戦後の船材革命をもたらしたものである。次に漁船機関種類別隻数をみると,53.1%がディーゼルエンジン,46.9%が火花点火式エンジンで,焼玉機関はわずか2隻しか残っていない。ディーゼルエンジンは5トン以上のほとんど全漁船に普及していることが注目される。この現況は,明治以降の近代漁業が一貫して漁船の動力化と大型化に取り組んできた歴史過程の所産であるといえよう。

日本の代表的な沿岸漁業は江戸時代末期までに出そろったが,明治初期ごろには当時の低い技術水準のもとで漁業生産量の伸び悩み,頭打ち状態に入ってきていたとみられる。そこで政府も業界も新しい漁業技術の模索を最大の課題にしていた。当時は漁業生産の総体的停滞状況の中で,九十九里の大地引網など沿岸的制約の強い待機漁法,そのほか粗悪な網材料などからくる非能率漁法が衰退しつつある一方,より広い漁場をより高能率に利用できる,沖合化ないし沖合操業化の可能な方向が目ざされていた。そしてこの方向を実現する重要な要因として,漁船の改良も考えられていたのである。明治中期には,政府は漁船改良の方法として,在来の漁船の中でとくに優良なものを発見し,それを全国に普及させ,また西洋型漁船の長所を採り入れた改良なども考えていたようである。1897年に公布された遠洋漁業奨励法によると,奨励対象となる遠洋漁船は西洋型帆船と汽船とが前提にされている。

 しかし汽船の蒸気機関は機関のほかにボイラーをともない,ボイラーは機関とほぼ同容積をもつから,その容積は石油発動機よりもずっと大きかった。また重量もボイラーの水を計算すると発動機の3倍にはなった。燃料の石炭も石油に比べ容積,重量ともに大きい。一般に小型である漁船では,このため漁具,餌料,漁獲物の積込場所がきわめて狭小となってしまう。例えば40トンの汽船と20トンの発動機船の能力は差がない状態であったといわれ,このような非能率を勘案すれば経済的にも汽船は得ではなかった。それに沖合漁業に向かおうとする日本の在来漁業技術は,汽船ではいきなりある程度の大型にならざるをえず,かつ運転上も小回りのきかない汽船とはなじまなかった。漁業経営者にしてもそのような飛躍をする経営的条件をもたなかった。したがって在来漁業技術と連結しうる漁船の動力化には,先進ヨーロッパ諸国に学んでの漁船用石油発動機の導入が不可欠となった。そこで1905年の遠洋漁業奨励法の改正では石油発動機がいちはやく奨励の対象となり,翌06年には静岡県水産試験場の試験船富士丸が,石油発動機をつけてのカツオ釣操業試験に成功した。それからまもなくカツオ釣漁業を先頭に漁船の動力化が進められ,マグロはえなわ,機船底引網,巻網,流し網,その他の釣りはえなわなど,代表的な沖合遠洋漁業が急速に発展し始めた。少しおくれて大正期の後半になると,沿岸漁業の小型漁船の動力化も行われるようになり,漁網の改良などと合わせて沿岸漁業生産量も昭和戦前期まで増勢を続けた。

 汽船漁業では,明治30年代のノルウェー式捕鯨と40年代のトロール漁業だけが日本に定着した。これらは漁船,漁具漁法をまるごとヨーロッパから輸入したものであった。これら漁業の経営者は在来の漁業経営とは関係のない,水産以外の他部門からの投資者であって,まもなく水産関係の巨大資本経営に発展した。大正期以降の戦前における漁船の動力化は表2のように順調に進んだが,その中で汽船数は増えていない。なお1940年の動力船7万5197隻をトン数階層別構成比で示すと,75.5%が5トン未満,10.0%が5~10トン,10.1%が10~20トン,3.2%が20~50トン,1.2%が50トン以上。

 戦前の漁船に関する主要な技術革新では,まずディーゼルエンジンの登場があげられる。大正中期まで漁船用石油発動機の普及で軽油の需要が増大し,その価格が騰貴した。またそれまでの発動機は冷却用の清水を必要とし,それが漁船の積載能力に大きな制約であった。このため漁業者は経済的な重油を燃料とし,冷却用清水を必要としないエンジンを待望していた。第1次世界大戦後にヨーロッパの各国は,戦時中おおいに進歩した発動機の販路を東洋に求め,日本にも各種の発動機が輸入された。それを大別するとディーゼルエンジンと無水式セミディーゼルエンジンの二つである。1919年水産局所属の北水丸にディーゼルを据え付け,結果が良好であったので,翌20年政府は静岡県焼津のカツオ漁船第2大洋丸(58トン)に遠洋漁業奨励金を交付し,新潟鉄工所製ディーゼル(100馬力)を据え付けさせた。これが漁船への最初のディーゼル使用であるが,27年にはディーゼル使用漁船150隻,馬力も200~300馬力のものが多くなっていった。また29年にはトロール船にもディーゼルが使用されるようになった。41年の発動機船総数6万9025隻のうち,機関別ではディーゼル768隻,焼玉2万5222隻,火花点火4万2294隻,ガス81隻などであった。

 鋼船の導入は,捕鯨業やトロール漁業など一部の外来大規模漁業を別にすれば,沖合漁業に導入され始めたのは昭和期に入ってからである。カツオ・マグロ漁業の先進地焼津の場合,最初の鋼船第5愛鷹丸(127トン)が石川島造船所で進水したのは1931年であり,その後34年までにさらに9隻が建造された。漁船用無線電信電話施設も見過ごせない。漁船が大型化して航行範囲が広くなるにつれ,遭難対策,漁況・市況通信などのためその施設の必要性が高まり,大正末期から導入された。34年8月の調査によると,50トン以上のカツオ漁船268隻のうち無線装置を有するのは129隻であった。また漁船に設備された副漁具についてみると,マグロはえなわ漁船にラインホーラー(はえなわの動力巻揚機)が導入されだしたのも大正末期であった。さらに母船式漁業の出現も工船という新しい大型漁船の登場として注目される。母船式漁業のうちカニ漁業は1921年,サケ・マス漁業は29年,捕鯨業は34年からそれぞれ始められた。母船もしだいに大きくなり,カニ母船は最も隻数の多かった1930年の平均で1隻3364トン,サケ・マス母船で35年ごろに3000トン級,捕鯨業では1万9000トン以上のものがあった。

戦後の漁業生産の発展は,漁業生産量でみると,生産量がほぼ戦前水準に復した51年の462万7000tから75年の1054万5000tまで,24年間に約2.3倍になっている。漁船の改良発達ぶりも顕著で,表3によれば漁船の動力化が急速に進んだことが知られる。小型と大型の発展が著しく,1948年と81年の動力漁船総数比では4.0倍になっているが,5トン未満船4.5倍,100~200トン船4.0倍,200トン以上船15.6倍である。とくに著しい200トン以上の大型漁船では,総数1982隻の内訳をトン数階層別にあげると,300トン未満913隻,500トン未満836隻,1000トン未満63隻,2000トン未満57隻,5000トン未満89隻,1万トン未満19隻,1万トン以上5隻となる。5000トン以上の24隻は各種母船と漁獲物運搬船で,2000~5000トン89隻は遠洋底引漁船と漁獲物運搬船が主である。それ以下になると捕鯨船,カツオ一本釣船,マグロはえなわ船などが加わってくる。一口に漁船といっても,沿岸から遠洋まで広域に発展した漁業の実態に応じて,きわめて多様であることが知られる。

 漁船機関ではディーゼルエンジンの発達と普及が著しい。戦前のディーゼルは大型漁船の機関として普及したが,戦後は優秀な小型ディーゼルの開発が進められ,また1953年からディーゼル機関に過給機が採用されるなど,全般的な技術革新が達成されていった。漁船の機関種類別隻数は81年では59.0%がディーゼルであるが,3トン以上の漁船はほとんどすべてディーゼルである。また船材革命をもたらしたFRPは,1962年ごろに試用され始めたもので,これによって木造船の伝統的な船大工の技術は不用になった。可変ピッチプロペラの導入も画期的である。それまでの漁船機関は回転数に限界があって揚網・揚綱時などに必要なゆるい速度を出すことができず,機関をかけたり止めたりしなければならず不便で,スムーズな操縦ができなかった。可変ピッチプロペラはスクリューの角度が自由に変えられるので,機関の回転数を変えないまま,船の速力調節を自由にできるようにしたのである。そのほか,漁労諸機械の開発が驚くほど進められ,それら諸機械は機関に連動され,しかも遠隔操縦化される省力化技術がおおいに発達した。それを可能にしたものは油圧利用の導入などである。さらに魚群探知機,方向探知機,無線電信電話などの音波・電波利用機器の発達普及も著しく,沿岸の漁船でさえ驚くほど近代的機器を装備する時代になっている。
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百科事典マイペディア 「漁船」の意味・わかりやすい解説

漁船【ぎょせん】

漁業に従事する船の総称。日本では漁船法(1949年公布,1950年施行)で,もっぱら漁労を行う船のほか,漁獲物を保蔵・加工する船(カニ工船など),漁獲物などを運搬する船や漁業試験船,漁業練習船なども含むとしている。同法により建造調整などが行われており,20トンを越えるものは船舶安全法の適用を受ける。対象とする漁場,魚類,漁労方法などによりきわめて種類が多いが,おもなものは,沿岸・近海で揚繰(あぐり)網巾着(きんちゃく)網などにより表層魚をとる巻網漁船,一艘(そう)引または二艘引で近海・遠洋の底魚をとる底引網漁船(トロール船もこの一種),カツオ釣漁船,はえなわでマグロを釣るマグロはえなわ漁船,北洋のサケ・マス漁業などの刺網漁船,捕鯨船,母船など。日本の漁船の,大半は5トン以下の小船であるが,数百トン以上の遠洋大型漁船の保有では世界有数である。中型以上の漁船では,一定の航路によらず長期に出漁することが多いから,船体は堅牢で耐航性・安全性にすぐれることが必要で,鋼船が多く,小型漁船も樹脂とガラス繊維を重ね合わせて建造するFRP(強化プラスチック)漁船が主流になっている。
→関連項目漁業無線局

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「漁船」の意味・わかりやすい解説

漁船
ぎょせん
fishing boat

漁労に用いる船の総称。カヌー,カヤック,磯釣用の小舟から動力船,さらに捕鯨船のような鋼船にいたるまで,その様式,機能は多岐にわたる。漁法の変遷,漁場の拡大に伴って漁船も発達し,現在の遠洋漁業船にあっては,荒天下の出漁を可能とする堅牢さ,高速度,耐波力,魚倉の容積の大きさ,さらに冷凍能力などがきびしく要求されている。漁船法 (昭和 25年法律 178号) では,漁船を,(1) 漁労に従事する船,(2) 漁獲物の保蔵または加工設備をもつ船,(3) 漁獲物の運搬船,(4) 漁業に関する試験,指導,調査,練習または取締りに従事する船の4つに分けるが,その建造,改造および転用については,日本の漁業の実態に見合う最高保有量を定め,これをこえないよう許可制をとっている。

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普及版 字通 「漁船」の読み・字形・画数・意味

【漁船】ぎよせん

漁舟。

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