(読み)つぶす

精選版 日本国語大辞典 「潰」の意味・読み・例文・類語

つぶ・す【潰】

〘他サ五(四)〙
[一] もとの形をくずす。
① 外部から圧力を加えてもとの形をおしくずす。おしつけてこわす。破壊する。また、圧して平たくする。
※類従本赤染衛門集(11C中)「虫のちをつぶして身にはつけずとも思ひ染めつる色なたがへそ」
② ある物を他に転用するために原形を失わせる。こわして、もとの役に立たなくする。
※疑惑(1913)〈近松秋江〉「もう大抵潰すかどうかして無くしてゐるだらう」
③ 金属製品を溶かして地金にする。鋳つぶす。
歌舞伎幼稚子敵討(1753)三「つぶしても金に成る物、こっちは丈夫じゃ」
④ 家畜などを食べるために殺す。
※破戒(1906)〈島崎藤村〉一〇「牛肉屋の亭主も入って来たは、屠(ツブ)された後の肉を買取る為であらう」
⑤ 女を自分の情人とする。
※南水漫遊拾遺(1820頃)四「つぶして居る、色事して居る」
[二] 機能や正常な状態を失わせる。
① 心の平静を失わせる。心を驚かす。「肝をつぶす」「胸をつぶす」の形で用いる。
※源氏(1001‐14頃)賢木「猶このにくき御心のやまぬに、ともすれば御胸をつぶし給ひつつ」
② からだの機能、特に、目・耳・喉のはたらきを失わせる。「目をつぶす」
※青春(1905‐06)〈小栗風葉〉夏「繁は机の前に固くなって坐ったまま、強ひて耳を聾(ツブ)して居る」
正気をなくさせる。正体をなくすようにする。「酔いつぶす」
④ 破産させる。身代や財産を使い果たす。絶やす。滅ぼす。また、役に立たなくさせる。解体する。
※浮世草子・西鶴織留(1694)一「諸事に付て内証の奢(おごり)より身体(しんだい)をつぶしぬ」
※いさなとり(1891)〈幸田露伴〉二八「代々伝って来た店潰(ツブ)したとあっては」
面目を失わせる。ふみにじる。無視する。
浄瑠璃妹背山婦女庭訓(1771)四「こな様(さん)ばかり来ずに居て付き合が済むのかい、ただしはおいらを潰(ツブ)すのか」
[三] 空いているところをうめる。
① 空いている時間を他のことをして費やす。また、時間をむだに費やす。
吾輩は猫である(1905‐06)〈夏目漱石〉二「人間といふものは時間を潰す為めに強いて口を運動させて」
② すきまをうずめる。すきまなくおおう。一面におおう。「塗りつぶす」
※落語・心の眼(1899)〈初代三遊亭金馬〉「魚河岸だとか大根河岸だとか真ん中に黒く書いて廻りを赤く朱でつぶしてある」

つぶ・れる【潰】

〘自ラ下一〙 つぶ・る 〘自ラ下二〙 (「つぶら(円)」と同語源)
① 角がとれて丸味を帯びる。まるくなる。角がすりへる。磨滅する。〔観智院本名義抄(1241)〕
※古文真宝彦龍抄(1490頃)「墨は一年中につぶる」
② 力が加わって原形を失う。ひしゃげる。こわれる。
古今著聞集(1254)一二「うみ柿の落ちけるが〈略〉いただきに落ちて、つぶれてさんざんにちりぬ」
③ (こわれて)役に立たなくなる。使えなくなる。
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「目つぶれ、足折れ給へりとも」
④ 組織、経営団体、家督、家系、芸能の流派などの維持・経営が成り立たなくなる。滅びる。瓦解(がかい)する。破産する。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※松翁道話(1814‐46)一「夫から家がつぶれる、末世末代の恥さらし」
⑤ 驚き、悲しみなどで心が非常に痛む。
※大和(947‐957頃)一〇三「胸つぶれて『こち来』といひて」
⑥ 本来有効に使えるものが無駄になる。ついえとなる。
※青べか物語(1960)〈山本周五郎水汲みばか「これだけで半日つぶれてしまい」
⑦ 声や音がかすれてよく出なくなる。
※俳諧・武玉川(1750‐76)九「低く物言ふ伶人の母 つぶれた声を誉る節分」
⑧ 名誉や面目などを失う。
※澪(1911‐12)〈長田幹彦〉四「それこそ長年角正で売り込んだ店の信用はまるで潰(ツブ)れてしまふんです」
⑨ 正体がなくなる。多く、酔って正気がなくなる場合にいう。
雑俳・削かけ(1713)「つはものめ・つぶれてもけさきよろりがみそ

つぶし【潰】

〘名〙 (動詞「つぶす(潰)」の連用形の名詞化)
① 押しつけてつぶすこと。外部から力を加えて原形をくずすこと。
② 金属製の器物をとかして地金(じがね)にすること。また、そのもの。
※評判記・色道大鏡(1678)一「金銀にてうるはしく作れる彫物などの半物(はした)になりて用にたたず、何にも使はれぬを、いけものにはならず、つぶしにせよとて打ち潰す」
※安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉三「としのころ十八九か或は廿を一つ二つこしたるかさだかならぬしま田わげをつぶしにゆひ」
④ 滅ぼすこと。だめにすること。また、そのもの。
⑤ 家業を顧みないで遊興にふける者。放蕩者。ごくつぶし。
※評判記・色道大鏡(1678)一「迚身上を持とどけまじき者と、側より見立たる人をつぶしといふなり」
⑥ 時間などをむだに費やすこと。また、あいた時間などを不急のことに使うこと。「時間つぶし」「ひまつぶし」
⑦ 物や色などで、一面におおうこと。ふさぐこと。

つぶれ【潰】

〘名〙 (動詞「つぶれる(潰)」の連用形の名詞化)
① すれて減ること。すりきれてちびること。
※書紀(720)雄略七年八月(図書寮本訓)「禿(ツフレ)なる鶏の勝つを見て亦刀を抜きて殺すとまうす」
② 押されて原形を失うこと。くずれてひらたくなること。
③ 用をなさなくなること。駄目になること。
④ 滅びること。絶えること。なくなること。
※歌舞伎・天衣紛上野初花(河内山)(1881)五幕「此の塩梅で大きく附けられては、忽ちこっちが潰(ツブ)れになり」
⑤ むだになること。ついえ。損耗。損失。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)四「大つぶれだと仲条へ芸子言い」

つぶらわつぶらはし【潰】

〘形シク〙 つぶれそうである。ひやひやする。どきどきする。多く、「胸つぶらわし」の形で用いる。
※蜻蛉(974頃)上「かやうに胸つぶらはしき折りのみあるが」

つぶ・る【潰】

〘自ラ下二〙 ⇒つぶれる(潰)

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デジタル大辞泉 「潰」の意味・読み・例文・類語

かい【潰】[漢字項目]

常用漢字] [音]カイ(クヮイ)(漢) [訓]つぶす つぶれる ついえる
秩序ある形がくずれる。乱れ散り散りになる。「潰走潰滅潰乱決潰崩潰
ただれてくずれる。「潰瘍かいよう

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

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