炭酸固定(読み)タンサンコテイ(英語表記)carbon dioxide fixation

デジタル大辞泉 「炭酸固定」の意味・読み・例文・類語

たんさん‐こてい【炭酸固定】

炭酸同化作用

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改訂新版 世界大百科事典 「炭酸固定」の意味・わかりやすい解説

炭酸固定 (たんさんこてい)
carbon dioxide fixation

炭酸同化炭素同化ともいう。生物二酸化炭素CO2を吸収して有機化合物に転化すること。(1)無機栄養生物が行うエネルギー獲得過程と共役して起こる炭酸固定と,(2)無機および有機栄養生物どちらにもみられる炭酸固定とに大別される。

 (1)のエネルギー獲得過程は生物種により異なり,光合成緑色植物),細菌型光合成(紅色硫黄細菌,紅色非硫黄細菌,緑色硫黄細菌)および化学合成(硝化細菌,硫黄細菌,水素細菌,一酸化炭素細菌,鉄細菌など)による場合があるが,いずれも炭酸固定に必要なエネルギーと還元力はこの過程から供給される。この炭酸固定反応は炭酸固定回路中の1反応として位し,炭酸受容体は回路反応により再生され,持続的に炭酸固定が行われる。緑色植物の炭酸固定回路はカルビン回路,C4ジカルボン酸回路,ベンケイソウ型有機酸代謝CAM)であり,光合成細菌ではカルビン回路のほかに還元的クエン酸回路TCA回路)が知られている。この回路はクエン酸回路が逆方向に回転して,CO2放出の代りにCO2固定が行われる経路を主体とするもので,これに還元型フェレドキシン(FdH2)を用いたピルベートシンテターゼによる炭酸固定反応(アセチルCoA+CO2+FdH2─→ピルビン酸+CoA+Fd)が付け加わっている。化学合成細菌の炭酸固定はおもにカルビン回路で行われている。Pseudomonas oxalaticusなどの細菌が有機化合物(ギ(蟻)酸)を酸化し生成したCO2を同化するのをも化学合成に含めることがある。その場合にはこれらを化学合成有機酸化無機栄養生物と呼び,先に述べたものを化学合成無機酸化無機栄養生物と呼ぶ。メチロトローフmethylotrophと呼ばれる一群の細菌は,メタンまたはメタノールを酸化してそのエネルギーを利用するが,酸化過程で生じる化合物ホルムアルデヒドをCO2の代りに固定する(リブロース-5-リン酸+ホルムアルデヒド─→D-アラビノ-3-ヘクスロース-6-リン酸─→フルクトース-6-リン酸)。エネルギー獲得系とこれに共役した炭酸固定系がこのように多様な形で存在するということは,生物進化の過程で地球上の環境(酸素や酸化基質の有無など)の変化に応じてこれらの系が分化を遂げた結果であると考えられ,代謝系進化の研究に興味深い素材を提供している。

 (2)の代表的なものはピルビン酸とクエン酸回路上のC4ジカルボン酸との相互変換の反応である。(a)ピルベートカルボキシラーゼ ピルビン酸(PVA)+CO2+ATP+H2O⇄オキサロ酢酸(OAA)+ADP+Pi,(b)リンゴ酸酵素(リンゴ酸デヒドロゲナーゼ) PVA+CO2+NADPH⇄リンゴ酸+NADP,(c)ホスホエノルピルビン酸(PEP)カルボキシラーゼ PEP+CO2⇄OAA+Pi,(d)PEPカルボキシキナーゼPEP+CO2+GDP(またはIDP)⇄OAA+GTP(またはITP)。かつてウッド=ワークマンWood-Werkman反応として知られていた見かけ上PVAにCO2が固定されOAAが生じる反応は,おもに(a)により行われ(b)も寄与しているものと現在では考えられている。(d)は細胞内では実際には左行反応が進行し(a)と共役してPEPを供給する役割を果たしている。炭酸暗固定によりクエン酸回路上のC4ジカルボン酸を生じる反応の生理学的意義は,スクシニルCoAなどクエン酸回路上の有機酸が,他の化合物を合成するための原料として消費され,クエン酸回路上の有機酸量が低下し,回路の反応速度が低下するのを防ぐことにあると考えられている。(2)ではこのほか主要な反応として脂肪酸合成に関与するアセチルCoAカルボキシラーゼによる反応(アセチルCoA+CO2+ATP+H2O─→マロニルCoA+ADP+Pi),プロピオン酸の代謝に関与するプロピオニルCoAカルボキシラーゼによる反応(プロピオニルCoA+CO2+ATP+H2O─→D-メチルマロニルCoA+ADP+Pi)がある。
光合成
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百科事典マイペディア 「炭酸固定」の意味・わかりやすい解説

炭酸固定【たんさんこてい】

炭酸同化,炭素同化とも。生物が二酸化炭素を吸収して有機化合物を作ること。主として緑色植物の行う光合成によってなされる。
→関連項目同化

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「炭酸固定」の意味・わかりやすい解説

炭酸固定
たんさんこてい

炭酸同化

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