点頭てんかん(読み)てんとうてんかん(英語表記)Infantile spasms

六訂版 家庭医学大全科 「点頭てんかん」の解説

点頭てんかん
てんとうてんかん
Infantile spasms
(子どもの病気)

どんな病気か

 生後4カ月~1歳ころの小児に発症する予後不良てんかんです。1841年、ウエストという医師が彼自身の息子の病状と経過を報告したのが最初で、ウエスト症候群とも呼ばれます。

 大田原症候群(新生児期~乳児早期)、レノックス・ガストー症候群(1歳~6歳、コラム)とともに年齢依存症てんかん性脳症と呼ばれ、①乳幼児期にそれぞれのてんかんの好発年齢がみられること、②大田原症候群から点頭てんかんへ、点頭てんかんからレノックス・ガストー症候群へ年齢とともに変容することが多いことから、脳の発達過程とこれらのてんかん発症が密接に関連しているものと考えられています。

原因は何か

 発症前の発達が正常で、いろいろな検査でも原因が見いだせない特発例(10~20%)と、基礎疾患をもつ症候性例の2つに大別されます。症候性例の基礎疾患としては胎内(たいない)感染症先天性脳奇形、先天性代謝異常症、新生児頭蓋内(ずがいない)出血、新生児低酸素性虚血性脳症(ていさんそせいきょけつせいのうしょう)髄膜脳炎(ずいまくのうえん)頭部外傷などがあります。

症状の現れ方

 両腕を上げると同時に頭部を前屈(点頭)する短い強直(きょうちょく)発作が、数秒間の間隔で数回から数十回と反復して起こるのが特徴的です。このような反復発作をシリーズ形成といい、1日に数シリーズ繰り返してみられます。発作の時にも意識は保たれていることが多いようです。

検査と診断

 脳波検査が診断の決め手となり、ヒプスアリスミア脳波の不整波)と呼ばれる特徴的な所見がみられます。月齢(生後1カ年未満)でシリーズ形成(10分間程度の間に発作が10~30回まとまってみられること)した点頭発作、ヒプスアリスミア、精神運動発達遅滞(ちたい)がみられれば点頭てんかんと診断されます。

 原因となる症候性例の基礎疾患の検討も重要で、血液検査、頭部CT、頭部MRI検査などを行います。

治療の方法

 抗てんかん薬(バルプロ酸ナトリウム、ゾニサミド、ニトラゼパム、クロナゼパム)、ビタミンB6の大量投与が試みられますが、有効でない場合も少なくありません。その場合は、副腎皮質刺激(ふくじんひしつしげき)ホルモン(ACTH)療法が行われます。約70%にコントロールが期待されますが、副作用として感染症、高血圧電解質異常、脳萎縮(いしゅく)などがみられることがあるため注意が必要です。症候性例ではACTHで一時的にコントロールできても再発することも多く、年齢が進むとレノックス・ガストー症候群へ変容することも多くみられます。

病気に気づいたらどうする

 早期診断と早期治療開始が重要で、とくに点頭てんかん発症まで正常の発達がみられていた特発例では、治療によって良好な予後が期待されます。そのため早期に治療を開始することが重要です。

石和 俊

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「点頭てんかん」の意味・わかりやすい解説

点頭てんかん
てんとうてんかん

乳児に特有なてんかんの特殊型の一つで、1841年イギリスの小児科医ウェストW. J. Westが初めて報告したのでウェスト症候群とよばれる。しかし、その臨床的特徴からnodding spasm、salaam spasmus、infantile spasmなど種々の名でもよばれ、わが国では「点頭てんかん」の名で知られる。発病年齢は大部分が乳児期、とくに5~7か月に好発し、性差はみられない。特徴的な発作像および脳波異常を呈し、成長するにしたがって精神運動発達障害が、大部分の例に認められる。

 けいれん発作の型は、なんの前触れもなく突然、瞬間的に筋の異常緊張が全身におこり、上肢を振り上げ、下肢は股(こ)関節と膝(しつ)関節で屈曲させ、頭部は胸部に向かって前屈する。この1回の発作は数秒で終わるが、これを数回から数十回繰り返してシリーズを形成することが多い。このシリーズは少なくとも1日1回以上、大多数は数回以上認められ、入眠まぎわ、覚醒(かくせい)直後に好発する。脳波は、特有なヒプサリスミアhypsarrhythmiaとよばれる高度異常を呈する。これは、棘(きょく)波と徐波が時間的および空間的にまったく無秩序に出現し、全体的に高振幅であることが特徴である。

 点頭てんかんは種々の基礎疾患、すなわちフェニルケトン尿症、低血糖症、慢性硬膜下血腫(けっしゅ)など、先天性の脳障害や代謝異常に起因することが多いので、まず、原因究明に努力し、その治療にあたる。発作のコントロールには、通常の抗けいれん薬は効果が少なく、したがって、ビタミンB6大量療法やホルモン療法などを行う。ホルモン療法には、副腎(ふくじん)皮質ホルモンの経口療法および副腎皮質刺激ホルモンの筋肉注射療法があり、効果ならびに副作用の現れ方に差はあるが、著効を示すことが多い。

[山口規容子]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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