無我説(読み)むがせつ

改訂新版 世界大百科事典 「無我説」の意味・わかりやすい解説

無我説 (むがせつ)

固定的実体的な自己(我,アートマンātman)は存在しないとみる仏教独自の思想。サンスクリットでナイラートミヤ・バーダnairātmya-vāda。インドの正統バラモン教においては,一般に自己の本体としての我が存在し,それが業の担い手となって生死輪廻すると考えられていた。仏教の開祖釈尊はこの有我説に反対し,三法印の一つである〈諸法無我〉にうたわれているように,一切諸法には実体的我は存在しないと主張した。〈我〉とは常一主宰の義,すなわち常に同一の状態を保ち,自らを統制できる力をもつものと定義される。釈尊はこのような我の存在を〈あらゆる存在は無常である。無常であるから苦である。苦であるから無我である〉という論理で,あるいは〈あらゆる存在は因と縁とにより生じたものであるから無我である〉という縁起説の立場より否定した。大乗になって,無我は空(くう)(シューニヤśunya)という語によって表現された。また人無我(生命的存在の非実体)と法無我(事物的存在の非実体)とが唱えられ,小乗は人無我のみを主張するのに対し,大乗は人法二無我を主張した。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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