(読み)セン

デジタル大辞泉 「煽」の意味・読み・例文・類語

せん【煽】[漢字項目]

[音]セン(呉)(漢) [訓]あおる おだてる
人をそそのかす。おだてる。あおる。「煽情煽動

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「煽」の意味・読み・例文・類語

あおり あふり【煽】

〘名〙 (動詞「あおる(煽)」の連用形名詞化)
① 強い風による動揺、衝撃。また、それによって受ける余勢、影響。→煽を食う
※やみ夜(1895)〈樋口一葉〉七「不運の一煽(アフ)りに炎あらぬ方へと燃へあがりては」
② ある状況の変化や現象の余勢。または、それによって受ける影響。→煽を食う
③ 他人を自分の思うように行動させようと、おだてたり、そそのかしたり、またはおどしたりすること。→煽を食う
歌舞伎・東海道四谷怪談(1825)序幕「うまく頼んだ、あほりが肝腎だよ」
歌舞伎劇場などで、木戸番が「読み立て」のあと、扇を開いて「アリャ、アリャ、アリャ」と客を呼び込むこと。「人気をあおる」意。招き。〔滑稽本・戯場粋言幕の外(1806)〕
⑤ (「障泥」とも書く) 「あおりかえし(煽返)」の略。
※歌舞伎・月出村廿六夜諷(1821)序幕「清元連中は、あほりにて返す」
獅子舞などの頭に続く胴の部分。布でできていて、舞う時にここをあおり立てる。
※歌舞伎・三題噺高座新作(髪結藤次)(1863)五幕「若い者大勢にて虎頭あほり付のを担き出来たり」
穀粒を重さによってもみ殻ごみなどの夾雑物から選別するのに用いた道具。U字形に曲げた割り竹に二枚のうちわをつけたもので、これを動かして風を起こして、その前で穀粒を徐々に落とし、夾雑物を吹き飛ばして選別する。〔和英語林集成初版)(1867)〕
⑧ 写真で、遠近感調節などのためにレンズの光軸を焦点面に対し垂直以上の角度に変えること。また、その装置。
⑨ 雑誌や新聞などで記事内容を引き立たせ、読者の興味をあおるために、本文記事の前につける短文
⑩ 取引相場で、大手筋が相場を大幅に変動させるために急激かつ大量に売買すること。売りあおり。買いあおり。
貨物自動車の荷台周囲の開閉できる囲い。両側のものを側あおり、後部のものを後あおりという。

あお・つ あふつ【煽】

[1] 〘他タ四〙
① あおいで風を起こす。
※名語記(1275)八「あほつ如何 あなひろち(た)るの反」
② 火などをあおいで、その勢いを盛んにする。
※浮世草子・新御伽婢子(1683)二「ふすべよと言こそ遅けれ青松葉をたきて穴の中へあをち入るる」
③ 転じて、燃える気持などをあおり立てて、一層盛んにさせる。扇動する。
※虎明本狂言・鼻取相撲(室町末‐近世初)「きゃつはぢゃうごうがあおつ」
④ 両足で馬を蹴る。〔日葡辞書(1603‐04)〕
[2] 〘自タ四〙
① 風が吹き起こる。吹き舞う。また、風によって、物などが舞い上がる。
浄瑠璃・本朝三国志(1719)四「あをつ火燵の灰煙、目口もくらみ気もくらみ」
② 風で、薄い物がばたばたと揺れ動く。また、風を起こすかのように、物がばたばたする。
※雑俳・銀土器(1716‐36)「風にゆらゆらあふつ暖簾」
③ 手足などをばたばた動かしてもだえる。また、じたばたする。〔日葡辞書(1603‐04)〕
④ あるものに熱中して、心がいらいらする。
※評判記・色道大鏡(1678)一四「郭中にかよふ内より、彼を我物にせんとあをちて貨財を費し」
⑤ 鳥が翼で飛翔(ひしょう)する、羽ばたく(日葡辞書(1603‐04))。

おだ・てる【煽】

〘他タ下一〙 おだ・つ 〘他タ下二〙
① 人や動物の気持を乱すように騒ぎ立てる。気持をあおるように騒ぐ。
※浄瑠璃・万戸将軍唐日記(1747)三「ヤどや揉むの畳むのとおだてをるが怖さに」
※歌舞伎・韓人漢文手管始(唐人殺し)(1789)一「千助様、其様におだてずと、静かに歩いて下さんせいなあ」
② まわりではやしたててからかう。
※歌舞伎・入間詞大名賢儀(1792)三「あなたと連れ立って歩いたら、何のかのと人が煽(オダ)てうかと思うて」
③ さかんにほめて人の気持をあおりたてる。何かをやらせようとして、その気になるようにしむける。
※雑俳・伊勢冠付(1772‐1817)「自慢の大ふぐり・おだてられ金泊を置く」
④ 静かにおさまっている物を、かきまわしたりして乱す。
※和英語林集成(初版)(1867)「ゴミヲ odateru(オダテル)

あおち あふち【煽】

〘名〙 (動詞「あおつ(煽)」の連用形の名詞化)
① 物が動いて風を起こすこと。また、その風。
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)下「はためく門の幟(のぼり)の音、あおちに売場の火もきへて」
② 「あおちまゆ(煽眉)」の略。
③ 羽織。もと、露店商人や犯罪者間の隠語。文政・天保(一八一八‐四四)頃、粋人用語として流行した。
※当世花詞粋仙人(1832)「はおりを、あおち」
④ 扇子をいう、寄席芸人の隠語。

おだて【煽】

〘名〙 おだてること。扇動。「おだてに乗る」「おだてと畚(もっこ)には乗るな」
※滑・七偏人‐初「波暁子のおだてにそそなかされ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android