熊坂(読み)くまさか

精選版 日本国語大辞典 「熊坂」の意味・読み・例文・類語

くまさか【熊坂】

[1]
[一] 熊坂長範(くまさかちょうはん)のこと。
※雑俳・西国船(1702)「待てゐるとは熊坂もしらぬ筈」
[二] 謡曲。五番目物。各流。作者不詳。古名「幽霊熊坂」。都の僧が美濃赤坂の里で一人の僧に会いその庵室に案内されるが、やがて僧も庵室も消えて草むらとなる。その夜、都の僧が読経していると、熊坂長範亡霊が現われて、金売り吉次を襲って牛若丸に殺された無念を語る。
[2] 能「熊坂」「烏帽子折(えぼしおり)」のときに用いる能面大癋見(おおべしみ)系の面の一つ

くまさか【熊坂】

福井県あわら市の地名加賀石川県)へ抜ける牛ノ谷峠に近い北陸街道の要地

くまさか【熊坂】

姓氏の一つ。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「熊坂」の意味・読み・例文・類語

くまさか【熊坂】

熊坂長範ちょうはんのこと。
謡曲。五番目物旅僧の前に熊坂長範の亡霊が現れ、牛若丸に討たれた無念を語る。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「熊坂」の意味・わかりやすい解説

熊坂 (くまさか)

能の曲名五番目物。作者不明。シテは熊坂長範の霊。旅の僧(ワキ)が美濃の赤坂にさしかかったとき,別の僧(前ジテ)に呼び止められ,今日はある者の命日だから弔いを頼むと言われ,その草庵に導かれる。見ると仏像はなく,なぎなたや鉄の棒が置いてあるので驚くと,この辺は盗賊が多いので用心に備えてあるのだと言い,僧の身であさましいことだなどと物語るが,いつかその姿も庵室も消えて,旅僧は野原にいることに気付く(〈語リ・クセ〉)。庵主の僧は熊坂長範の霊の仮の姿だった。旅僧が弔いをすると,長範の霊(後ジテ)が昔の姿でなぎなたを手にして現れる。霊は,生前に牛若の旅宿に大勢で攻め入ったが逆に斬り散らされ,自分も命を落としたと仕方話で物語り(〈中ノリ地・ノリ地〉),夜明けとともに消えてゆく。薙刀(なぎなた)物の代表作で,激しい動きを見せる。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「熊坂」の意味・わかりやすい解説

熊坂
くまさか

能の曲目。五番目物。五流現行曲。作者不明。旅の僧(ワキ)が美濃(みの)国(岐阜県)赤坂の里を通ると、所の僧(前シテ)が呼びかけ、さる者の命日を弔ってほしいと庵室(あんしつ)にいざなう。そこには武具が多く備えられ、不審を述べる旅僧に、物騒な里ゆえ往来の者の難儀を救うためと語る。夜も更けると僧の姿も庵室も消えている。松陰に夜を明かす旅僧の前に、熊坂長範(ちょうはん)の亡霊(後シテ)が現れ、大長刀(なぎなた)を振るい牛若丸と戦った無念の死を仕方話に語り、回向(えこう)を願って消えうせる。現在能の『烏帽子折(えぼしおり)』の事件を旅僧の幻想として夢幻能の形で描いた曲。同装の僧が対座する前段は他の能にない特色。哀愁と豪快さの対比と同居がみごとな佳作である。

[増田正造]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「熊坂」の解説

熊坂
(通称)
くまさか

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
元の外題
初雪物見松 など
初演
享和3.11(江戸・市村座)

熊坂
くまさか

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
初演
寛文2.5(江戸・古伝内座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

デジタル大辞泉プラス 「熊坂」の解説

熊坂

古典落語の演目のひとつ。「熊坂長範」とも。五代目三升家小勝が得意とした。

出典 小学館デジタル大辞泉プラスについて 情報

世界大百科事典(旧版)内の熊坂の言及

【能面】より

…(2)は口を開いた阿(あ)形と,閉じた吽(うん)形に分けることができ,前者には飛出(とびで)の,後者には癋見(べしみ)の諸面があり,年たけて威力のある悪尉の諸種もここに入れてよいであろう。ほかに阿形では天神,黒髭(くろひげ),顰(しかみ),獅子口など,吽形では熊坂(くまさか)がある。能面の鬼類では女性に属する蛇や般若,橋姫,山姥(やまんば)などのあることが特筆される。…

※「熊坂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android