物権的請求権(読み)ぶっけんてきせいきゅうけん

精選版 日本国語大辞典 「物権的請求権」の意味・読み・例文・類語

ぶっけんてき‐せいきゅうけん ‥セイキウケン【物権的請求権】

〘名〙 物権の完全な実現妨害され、または妨害されるおそれがある場合に、物権をもつ者が、妨害の排除を請求できる権利物権的返還請求権妨害排除請求権妨害予防請求権の三種が認められている。物上請求権

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改訂新版 世界大百科事典 「物権的請求権」の意味・わかりやすい解説

物権的請求権 (ぶっけんてきせいきゅうけん)

所有者は所有権に対する侵害行為があるときは,侵害が故意によるものであろうと,未曾有の大雨で隣地の石垣が自分の所有地に崩れてきたといった場合であろうと,侵害者なり隣地所有者に対して所有権に対する妨害の排除を求めることができる。所有権は物を支配する権能であるので,所有者は所有権の円満な支配状態が妨げられたときには,妨げている者に対してその妨害を排除して所有権の完全な内容を実現する請求権を持つ。所有権以外の物権,例えば,地上権抵当権も物を支配する権利なので,これらに基づくものも含めて,この請求権を物権的請求権といっている。沿革的にはローマ法の所有物返還の訴えであるrei vindicatio,役権否認の訴えであるactio negatoriaに由来し,近代市民法において観念的な支配権としての所有権に基づく請求権が規定されるようになった(例えば,ドイツ民法985,1004条)。日本の民法には規定はないが,観念的支配権という物権の性質上当然に認められると解されており,立法者もそう考えていた。物権的請求権は侵害の態様に従って,物権的返還請求権,物権的妨害排除請求権,物権的妨害予防請求権の三つが区別されている。具体的には所有権に基づく妨害排除請求権などとして行使される。

 物権的請求権は物権の円満な支配状態が妨げられると生ずる請求権なので,侵害者に故意または過失があることは要件としない。もっとも侵害排除の費用をどちらが負担するのかについては議論がある。なお侵害によって所有者に損害が生じたときは民法709条以下の不法行為の規定に従って,物権的請求権の行使と別に損害賠償を請求しうる。

 不動産賃借権債権であって物権ではないが,民法605条,建物保護法1条などにより対抗力を備えているときは,物権と同様,不動産賃借権に基づく妨害排除請求権が解釈上認められている。公害差止めの根拠とされる人格権に基づく差止請求権も物権的妨害排除請求権から展開されてきた。
物権
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「物権的請求権」の意味・わかりやすい解説

物権的請求権
ぶっけんてきせいきゅうけん

物権をもつ者が、その権利の平穏な行使を妨げられ、または妨げられるおそれがある場合に、妨害者に対してその妨害の除去または予防に必要な行為を請求することのできる権利。たとえば、自分の土地に他人がかってに建物を建てた場合にその除去を請求することができたり、自分の物を盗まれた場合にその返還を請求することができるのは、この請求権の働きである。民法に規定はないが、物を直接的に支配することが物権の基本的な内容であるのに、その支配が侵害された場合に救済手段がないとすれば物権は無意味になるおそれがあるという理由から、物権的請求権は当然に認められている。所有権に基づく請求権が物権的請求権の代表的なものである(前例はいずれも所有権に基づく請求権)。物権的請求権には、占有が完全に奪われた場合の返還請求権、占有が部分的に奪われた(物の利用を妨害された)場合の妨害排除請求権、利用を妨害されるおそれがある場合の妨害予防請求権の3種がある。占有を侵害された場合に占有権に基づいてその回復を請求する占有の訴えに類似するが、占有の訴えが占有を奪われたときや妨害が終わったときから1年以内に提起されなければならないのに対して、物権的請求権にはそのような制限がない。

[高橋康之・野澤正充]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「物権的請求権」の意味・わかりやすい解説

物権的請求権
ぶっけんてきせいきゅうけん
dinglicher Anspruch

物権をもつ者に,その物権の行使の妨害を排除するため認められている請求権 (→占有訴権 ) 。 (1) 物権的返還請求権 (物権の客体の占有を無権利者に奪われるというような場合に認められる) ,(2) 物権的妨害排除請求権 (隣地から排水が自己の土地にしばしば流れ込んでくる場合,これを排除するために認められる) ,(3) 物権的妨害予防請求権 (隣地の石垣が崩壊の危険がある場合などに,これを予防するために認められる) の3つがある。しかし占有を内容としない担保物権の多くには (1) が認められず,相手方に即時取得が認められる場合にも (1) を行使できない。また相手方の侵害行為が軽微であったり,公共性がきわめて強い場合などには,(2) (3) の行使が認められないことがある。なお,公害の差止めの取扱いを契機に,権利の不可侵性を妨害排除,予防請求権の根拠と考え,広く権利侵害一般に妨害排除請求を肯定する見解も一つの立場を占めるようになってきている。

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百科事典マイペディア 「物権的請求権」の意味・わかりやすい解説

物権的請求権【ぶっけんてきせいきゅうけん】

物上請求権

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世界大百科事典(旧版)内の物権的請求権の言及

【所有権】より

…民法は,境界または近傍における建物等の築造・修繕のための隣地使用権,袋地所有者の隣地通行権,自然流水・雨水等に関する受忍義務等,界標設置権,囲障設置権,竹木・竹木の根の切除,境界線近傍の建物築造,便所の設置,水樋埋設等につき規定をおいている(209~238条)。所有権は,物権の代表的な権利であるから,物権の一般的効力であるところの物権的請求権を有する。これは所有権が侵害された場合の救済である。…

【物権】より

…物権,無体財産権など)としての効力を有するのであって,一番抵当権が2個以上成立することはありえないのである。 物権が排他性を有することから,物権には特有の効力として物権的請求権(物上請求権ともいう)が認められる。物権的請求権は,物権が侵奪された場合の返還請求権,物権の使用・収益が妨害されている場合の妨害排除請求権および物権の使用・収益が妨害されるおそれがある場合の妨害予防請求権に分かれる。…

※「物権的請求権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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