精選版 日本国語大辞典 「犬・狗」の意味・読み・例文・類語
いぬ【犬・狗】
[1] 〘名〙
① イヌ科の家畜。原種はオオカミと考えられている。家畜となった最初の動物とされ、家畜のうち最も賢く、人に忠実である。嗅覚と聴覚はきわめて鋭く、狩猟用、警察用、労役用、愛玩用などにする。形態は品種によって非常に異なり、全世界に約一六〇品種ある。日本産では秋田犬、甲斐(かい)犬、紀州犬、柴犬、土佐犬、チン、アイヌ犬などが知られる。日本語においては、「ワンワン」というように鳴き声が写される。
※古事記(712)下「布を白き犬に(か)け、鈴を著けて」
※虎明本狂言・犬山伏(室町末‐近世初)「いぬわんわんといふてかみつかふとする」
※発心集(1216頃か)序「(そとも)のかせぎ緤(つなぎ)がたく、家の犬(イヌ)常になれたり」
③ 主人に忠実に仕える者。
※太平記(14C後)三九「高麗の王は我が日本の犬也と石壁に書付て」
④ こっそりと人の秘密をかぎつけて告げ知らせる者をおとしめていう。まわし者。間者。探偵。スパイ。
※浄瑠璃・冥途の飛脚(1711頃)下「此の在所(ざいしょ)は、大坂からいぬが入」
⑤ 岡っ引きのこと。
⑦ 御殿女中に召し使われる少女。お犬。
※雑俳・柳多留‐二五(1794)「ひとり娘だとかへって犬が言い」
⑧ 人を卑しめ、ののしっていう語。こいつめ。
⑨ 犬追物(いぬおうもの)のこと。
※狂歌・金言和歌集(1492‐1501頃)「うたひさかもり つらねうた〈略〉犬かさがけに 日をくらし」
※為房卿記‐康和五年(1103)八月二七日「右衛門督宗通卿御額奉レ書二犬字一」
※中右記‐寛治二年(1088)七月二七日「犬 二人」
[3] 〘接頭〙 名詞の上に付ける。
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「『女ごもりたらん人は、よきいぬ乞食(かたゐ)なりけり』」
② (「いな(否)」からか) よく似てはいるが、実は違っているものを表わす。「犬桜」「いぬつげ」「いぬたで」など。
③ 役にたたないこと、むだであることを表わす。「犬死に」など。
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「犬(イヌ)骨折って鷹の餌(ゑ)となりもやせんと」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報