猿蓑(読み)さるみの

精選版 日本国語大辞典 「猿蓑」の意味・読み・例文・類語

さるみの【猿蓑】

江戸前期の俳諧集。六巻二冊。去来凡兆編。元祿四年(一六九一)刊。芭蕉七部集の第五撰集書名芭蕉の「初しぐれ猿も小蓑(こみの)をほしげ也」の発句による。芭蕉はじめ門人の発句三八二句・連句歌仙幻住菴記・几右日記などを収める。不易流行の理念、匂付(においづけ)の手法、景情一致の作風を確立した蕉風の、最も高い達成を示す撰集で、後人から俳諧集の規範と仰がれる。

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デジタル大辞泉 「猿蓑」の意味・読み・例文・類語

さるみの【猿蓑】

江戸中期の俳諧集。6巻2冊。去来凡兆共編。元禄4年(1691)刊。俳諧七部集の一。発句歌仙ほか幻住庵記」などを収める。蕉風の円熟期を示すものとされる。

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改訂新版 世界大百科事典 「猿蓑」の意味・わかりやすい解説

猿蓑 (さるみの)

俳諧撰集。半紙本,乾坤2冊。乾は其角序と発句編4巻,坤は連句編・俳文編各1巻と丈草跋。版下は序文が北向雲竹,以下が正竹の筆。版元は京の井筒屋庄兵衛。1691年(元禄4)7月3日発売。2匁5分。編者は京蕉門の去来凡兆であるが,おくのほそ道行脚の後,上方滞在中の芭蕉がこれを後見し,行脚による新風開眼の成果を盛って,俳壇の蕉門認識を新たにした。蕉門の許六・支考が〈俳諧の古今集〉と評しているように,蕉風円熟期を代表する撰集で,のちに《俳諧七部集》の第5集となった。書名は芭蕉の発句〈初しぐれ猿も小蓑をほしげ也〉に由来する。これを巻頭に出すために,発句編は冬・夏・秋・春という異例の四季部立をとる。去来が〈猿蓑は新風の始,時雨は此集の美目〉と自賛するように,巻頭から続く〈しぐれ〉の13句が蕉風美の“さび”を印象づけている。全382句。作者は蕉門に限られ,うち8割が初入集の新人。個人では凡兆の41句,地域では伊賀の29人が群を抜き,前者の印象鮮明な作風,後者の素直で軽妙な作風が一特色をなす。連句編も発句編の部立に準じて,冬・夏・秋・春の発句による歌仙4巻を収める。芭蕉が〈脇三つを三体に仕分け〉たという初めの3巻は蕉風連句の規範とされている。俳文編は芭蕉の《幻住庵記》とその付録より成る。俳文として公表された最初の作品で,付録の《題芭蕉翁国分山幻住庵記之後》は去来の兄震軒の漢詩文,《几右日記》は来信または来庵の諸家の発句の書留である。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「猿蓑」の意味・わかりやすい解説

猿蓑
さるみの

江戸前期の俳諧撰集(はいかいせんしゅう)。去来(きょらい)、凡兆(ぼんちょう)共編。其角(きかく)序、丈草(じょうそう)跋(ばつ)。1691年(元禄4)5月成り、同年7月3日、京の井筒屋庄兵衛(しょうべえ)の手により刊行。乾(けん)、坤(こん)2冊。乾には巻1から巻4までを配し、坤には巻5、巻6を配する。巻1は其角の序に続いて「時雨(しぐれ)」以下冬の発句、巻2は夏の発句、巻3は秋の発句、巻4は春の発句というように編集上の新機軸を打ち出している。さらに巻5は芭蕉(ばしょう)一座の歌仙4巻、巻6は芭蕉の俳文「幻住庵記(げんじゅうあんのき)」と震軒の後文、それに「几右(きゆう)日記」と丈草の跋文を収める。集の名は、巻頭の芭蕉の発句「初しぐれ猿も小蓑をほしげ也(なり)」にちなんでいる。いわゆる「芭蕉七部集」の5番目の撰集であるが、「俳諧の古今集也」(許六(きょりく)『宇陀法師(うだのほうし)』)、「猿蓑集に至りて全く花実を備ふ。是(これ)を俳諧の古今集ともいふべし」(支考(しこう)『発願文(ほつがんぶん)』)など、蕉風俳書のなかでもとくに高い評価を受けている。確かに、この時期は初期蕉風の漢詩文調による大きな身ぶりの風狂精神が影をひそめ、かわりに「さび・しをり・細み」など蕉風俳諧固有の清雅幽寂の世界が創出され、それが本書に結実しているので、この評価も当然といえる。連句における「にほひ付」が完成したのもこの時期である。入集の作者は総計118名、発句の部が108名。目だった作者としては凡兆の41句以下、芭蕉40、去来・其角各25、尚白14、史邦(ふみくに)13、丈草・曽良(そら)・羽紅各12などの名があげられる。編集に際しての苦心談は『去来抄』に多く記し留められている。

[堀 信夫]

『中村俊定校注『芭蕉七部集』(岩波文庫)』『荻野清著『猿蓑俳句研究』(1970・赤尾照文堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「猿蓑」の意味・わかりやすい解説

猿蓑
さるみの

江戸時代中期の俳書。松尾芭蕉監修,向井去来,野沢凡兆編。宝井其角序,内藤丈草跋。2冊。元禄4 (1691) 年刊。芭蕉の『俳諧七部集』の第5集で,蕉風俳諧の円熟期を示す。発句 382句,芭蕉一座の連句4巻,芭蕉の『幻住庵記』とそれについての震軒の後文,『几右日記』と題する幻住庵訪問客の発句 35句とから成る。書名は巻頭の「初時雨猿も小蓑をほしげなり」 (芭蕉) による。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「猿蓑」の解説

猿蓑
さるみの

俳諧撰集。6巻。去来・凡兆編。其角(きかく)序,丈草跋。1691年(元禄4)刊。「俳諧七部集」の第5集。巻1~4は諸家の四季発句382句,巻5に歌仙4巻の連句,巻6に俳文「幻住庵記」と震軒の後文,発句「几右(きゆう)日記」を収録する。「おくのほそ道」行脚後の新風を具現した集として,「ひさご」(1690)についで成立。俳諧の古今集とよばれ高い評価をうけている。「新日本古典文学大系」所収。

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旺文社日本史事典 三訂版 「猿蓑」の解説

猿蓑
さるみの

江戸中期,松尾芭蕉一門の俳諧撰集。芭蕉七部集の一つ
1691年刊。6巻2冊。編者は向井去来・野沢凡兆。発句・連句・俳文の各種にわたって,元禄期の蕉風の成果を世に問うたもの。

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