獲物分配(読み)えものぶんぱい

日本大百科全書(ニッポニカ) 「獲物分配」の意味・わかりやすい解説

獲物分配
えものぶんぱい

狩猟で獲得した獲物分配することをいう。狩猟採集民の代表であるアフリカのサンとよばれる人々は、核家族を中心とし、短期間の間に離合集散を繰り返しながら生活している。キリンや大カモシカなどの獲物がキャンプに持ち帰られると、第一次分配として、まず獲物の所有者(射手本人か矢の持ち主)の指揮の下に狩猟への貢献度が考慮されたうえで、狩猟の参加者の間で肉塊が分けられる。このとき、さまざまな道具の材料となる腱(けん)を含んだ背中の肉および皮は射手に与えられる。このあと、日常の人間関係に応じて自発的、選択的に第二次分配が行われ、さらに第三次分配として調理の際には、来訪者等にもふるまわれる。こうして結局キャンプ全体に肉は行き渡る。一方キツネジャッカルといった小動物はキャンプ規模での分配はされず、狩人(かりゅうど)および近親者によってのみ消費される。さらに興味深いのは、動物へのタブーである。ガンとカメは40歳以上の人々だけに食用が許され、小カモシカ、野ウサギのタブーは10~20歳のなかばまでの男女に適用され、子供をもうけたのち、3歳ぐらいになってから解かれる。タブー視される肉は小動物であり、キャンプ全体に行き渡るほどの量を有していない。それゆえ、食欲の旺盛(おうせい)な青年層には遠慮してもらおうという分配のチェックが行われている。

 こうしたサン人の獲物分配は、近年弓矢猟が効率のよい騎馬猟にとってかわられることでやや変質してきている。平等主義原則が保持される一方で、分配の担い手が、誰でもがなれた弓の製作者から一部の馬のもち主へと移り、かつては1日を待たずして消費された獲物も、大量にとれることから、外部の人々に売却することで現金収入を得る機会も多くなってきている。

[関 雄二]

『田中二郎著『ブッシュマン』(1971・思索社)』『田中二郎著『砂漠の狩人』(1978・中央公論社)』『田中二郎著『最後の狩猟採集民』(1994・どうぶつ社)』『エルマン・R・サーヴィス著、蒲生正男訳『現代文化人類学2 狩猟民』(1972・鹿島研究所出版会)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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