玉箒(読み)たまばはき

精選版 日本国語大辞典 「玉箒」の意味・読み・例文・類語

たま‐ばはき【玉箒】

〘名〙 (「たまははき」「たまばわき」とも)
① 古代、正月の子(ね)の日に、蚕室を掃くのに用いた、玉の飾りをつけた小さなほうき
万葉(8C後)二〇・四四九三「始春(はつはる)初子(はつね)の今日の多麻婆波伎(タマバハキ)手に執(と)るからにゆらく玉の緒」
② (「たま」は美称) 美しいほうき。
※光悦本謡曲・田村(1428頃)「うつくしき玉箒をもち木陰をきよめ給ひ候は」
※万葉(8C後)一六・三八三〇「玉掃(たまばはき)刈り来鎌麻呂室の樹と棗(なつめ)が本とかき掃かむため」
⑤ 植物「はこねしだ(箱根羊歯)」の異名。
⑥ (現世憂いを掃き払うことができるところから) 酒の異名。
日葡辞書(1603‐04)「ウレイヲ ハラウ tamabauaqi(タマバワキ)

たま‐ぼうき ‥ばうき【玉箒】

〘名〙
黒潮(1902‐05)〈徳富蘆花〉一「『梅津君はよく酒が飲めるな』『憂を掃ふ玉箒(タマハウキ)と云ふ訳(わけ)かね』」
ユリ科多年草。九州の山地草原に生える。茎は、高さ五〇~一〇〇センチメートルでよく分枝し、先端は細かく分かれて葉状枝となる。葉は、卵状披針形。五~六月頃、葉腋に小さな黄緑色の鐘形花をつける。果実は、球形で赤熟する。〔日本植物名彙(1884)〕
③ 植物「たむらそう(田村草)」の異名。〔日本植物名彙(1884)〕

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デジタル大辞泉 「玉箒」の意味・読み・例文・類語

たま‐ばはき【玉×箒】

《「たまははき」とも》
玉の飾りをつけたほうき。正月の初子はつねの日に蚕室を掃くのに用いた。
初春初子の今日の―手に取るからに揺らく玉の緒」〈・四四九三〉
ほうきを作る草の名。コウヤボウキホウキグサの古名という。
「―刈り鎌麻呂かままろむろの木となつめが本をかき掃かむため」〈・三八三〇〉
美しいほうき。〈日葡
憂いを払うほうきにたとえて、の異名。
うれへを払ふ―、いかな大事も好物に」〈浄・妹背山

たま‐ぼうき〔‐ばうき〕【玉×箒】

たまばはき」に同じ。
「憂を掃う―と云うわけかね」〈蘆花黒潮
タムラソウ別名

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「玉箒」の意味・わかりやすい解説

玉箒
たまばはき

玉を飾り付けた箒(ほうき)で、蚕室(さんしつ)を掃くのに用いた。古代、中国の制に倣い、帝王が耕作をするのに用いる「辛鋤(からすき)」に対し、皇妃が養蚕をする意味を表すものとして、正月の初子(はつね)の日に飾ったのち、臣下に賜い、宴を開いた。この実物が現在正倉院に残っている。また、コウヤボウキ、ホウキグサ、タムラソウ、ハコネグサなどの植物の別名でもある。なお、「憂いを払うタマバワキ」といい、憂いを掃き除く意から酒の異名でもある。

[藁科勝之]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

動植物名よみかた辞典 普及版 「玉箒」の解説

玉箒 (タマボウキ)

植物。イノモトソウ科の常緑多年草。ハコネソウの別称

玉箒 (タマバハキ)

植物。マツ科マツ属の常緑高木の総称。マツの別称

玉箒 (タマバワキ・タマボウキ)

植物。キク科の多年草。タムラソウの別称

玉箒 (タマボウキ)

植物。高野箒または箒木の古名

出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報

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