珪肺(症)(読み)けいはいしょう(英語表記)Silicosis

家庭医学館 「珪肺(症)」の解説

けいはいしょう【珪肺(症) Silicosis】

[どんな病気か]
 大地の主成分は太古の海に生息した珪藻(けいそう)という生物の骨格だったケイ素で、岩石や土を掘ったり、産業に利用したりすれば、ケイ酸主体の粉塵(ふんじん)が大量に出ます。
 各種の鉱山、トンネル工事、金属精練、陶磁器の製造、採石加工、鋳物(いもの)業など、ケイ砂や耐火レンガを使ったり製造する作業、グラインダーによる金属の研磨(けんま)(金属の粉塵よりもグラインダーから出るケイ砂の粉塵が大量で危険)、コンクリート建造物の建築や破壊、イグサの加工(色の鮮度を保つために泥を大量に塗り、乾燥すると、その粉が飛散)などに従事する人に、職業病として珪肺がおこることがあります。また、日本の炭坑石炭層が薄く、石炭よりも岩盤を掘る作業が主で、岩盤からの粉塵を吸っておこる炭坑労働者の塵肺(じんぱい)(炭坑夫塵肺(たんこうふじんぱい))も一種の珪肺です。第二次大戦後、ソビエト連邦に抑留されて、鉱山で強制労働に従事した人には、シベリア珪肺がみられます。
 顕微鏡でみると、1~5μm(マイクロメートル)(1μmは1000分の1mm)ほどの小さなケイ酸粉塵のまわりに線維が増殖しているのがみえ、直径数mmまでの丸い珪肺結節(けっせつ)(粉塵と線維の集中したところ)が、両肺に無数にできますが、肺の上部に多くみられる傾向があります。
[症状]
 こうした病変により、肺の弾力性が失われ、肺の容量(肺に入る空気の量)が減少します。早期には、運動したときの息切れがおもな症状ですが、しばしば肺気腫(はいきしゅ)(「肺気腫」)のような変化や、慢性気管支炎(まんせいきかんしえん)をともなうため、症状は複雑となります。がんこなせき、たん、ぜんそくのような症状もみられます。
 また、ほかの塵肺にも共通することですが、肺結核(はいけっかく)や肋膜炎(ろくまくえん)、気胸(ききょう)、気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)をともないやすく、それぞれに特徴的な症状も現われます。しかし、基本的な症状にまぎれて、合併症の発見が遅れることもまれではありません。
 X線写真には、小さな粒状陰影がちらばっており、これらがまとまった直径数cmの塊状陰影(かいじょういんえい)がみられることもあります。
 進行すると、呼吸能力が低下します(呼吸不全)。肺の毛細血管(もうさいけっかん)が減ることもあって肺高血圧症がおこり、心臓の負担が増加して肺性心(はいせいしん)(右心不全(うしんふぜん))がおこります。これも他の塵肺と共通し、動悸(どうき)、息切れ、むくみ、くちびるや爪(つめ)のチアノーゼなどが現われます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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