生田川説話(読み)いくたがわせつわ

改訂新版 世界大百科事典 「生田川説話」の意味・わかりやすい解説

生田川説話 (いくたがわせつわ)

摂津国葦屋の菟原処女(うないおとめ)をめぐる陳奴壮士(ちぬおとこ)と菟原壮士説話。《日本書紀》巻九に〈活田〉の地名がみえる。《万葉集》(巻九・1801~1803,1809~1811,巻十九・4211~4212)にもうたわれており,古くから広く知られている。《大和物語》147段では,さらに詳しく具体的になり,村上帝の後宮において中宮をはじめ女房たちが障子歌をよむ場や,処女塚(おとめづか)の後日譚がつく。処女塚は,《散木奇歌集》第五羇旅や《堀河百首》雑に収められた源俊頼の〈海路の心をよめる〉という詞書(ことばがき)をもつ和歌では,求塚となっており,《太平記》巻十六の湊河の合戦の場面にもみえている。今川貞世《道ゆきぶり》には〈この川に鳥射しますらをの塚〉と見える。観阿弥の《求塚》は,菟原処女が2人の男を死なせた科(とが)により地獄におちたという設定のもとに,古来の説話を再構成した傑作で,前場に歌枕の生田の小野,生田の森を点出し,後場では地獄の責め苦を克明に描く。近代では,森鷗外の《生田川》(1910)も,これを題材としている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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