生祠(読み)せいし

精選版 日本国語大辞典 「生祠」の意味・読み・例文・類語

せい‐し【生祠】

〘名〙 その人の存命中に、徳を慕って神としてまつるやしろ。寿塔
※天柱集(1348頃)天源菴記「宜生祠以旌其徳
読本椿説弓張月(1807‐11)後「来島に生祠(セイシ)修理(しつら)ひ、像見の弓箭を神体として、八郎明神と崇め祀り」 〔李頎‐送劉四赴夏県詩〕

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デジタル大辞泉 「生祠」の意味・読み・例文・類語

せい‐し【生×祠】

生存中の人の徳を慕って神として祭ったほこら

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改訂新版 世界大百科事典 「生祠」の意味・わかりやすい解説

生祠 (せいし)

日本人の神観念のなかには,人間を神にまつる風習に基づいた神格がある。死後神にまつられる場合と,生前にその人間に神格を認め,信仰対象とした場合と二通りあり,後者の場合,まつりこめた祠を生祠としている。〈尋常ならずすぐれたる徳のありて,可畏き物を迦微(かみ)とは云なり〉という本居宣長の考え方によれば,人間でも優れた資質があれば,神にまつられることになる。人を神にまつると,吉田神道では,これに霊神れいじん)号を与えた。その生祠を霊社(れいしや)と称している。生前神になった事例は,山崎闇斎垂加霊社や会津藩主保科正之の土津(はにつ)霊神がある。また松平定信は〈我は神なり〉と主張し,自己の木像を家臣にまつらせ,守国霊神と称された。明治天皇を生祠とした例は,第2次大戦前まで全国的に分布していた。明治天皇宗ともいうべき信仰心意が存在していたのであるが,生祠成立の直接の契機は,大部分が天皇の行幸を記念とする所にある。来訪神を迎えまつるという古代的心意に基づくものである。
人神(ひとがみ)
執筆者:

中国にも民から敬愛された偉人や地方官がその生前から祠堂をたててまつられる習俗があった。老聃(ろうたん)(老子)の弟子の庚桑楚(こうそうそ)が神の座にすえられ,社稷(しやしよく)の神としてまつられようとした話が《荘子》にみえるが,歴史的事実としては,燕の相国の欒布(らんぷ)のためにたてられた欒公社,斉の相国の石慶のためにたてられた石相祠,県や郡の断獄官として公正な裁判を行った于公のためにたてられた于公祠など,前漢代の事例が最初である。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生祠」の意味・わかりやすい解説

生祠
せいし

生きている人を神と祀(まつ)り、その社祠を設けたもの。(1)加賀(かが)藩主前田治脩(はるなが)の天満宮(富山県黒部(くろべ)市宇奈月町愛本新(うなづきまちあいもとしん))のように本人の了解を得ずに祀る場合、(2)福井藩主松平慶永(よしなが)の木立社(福井県坂井(さかい)市の三国(みくに)神社境内社)のように本人の了解を得て祀る場合、(3)儒者山崎闇斎(あんさい)の垂加(すいか)社(京都市下御霊(しもごりょう)神社境内社)のように本人自身の発意で成立する場合がある。(1)(2)の場合は、その人に対して格別の崇敬・感謝を捧(ささ)げ、また霊徳の発現を期待してのことであり、(3)の場合は、その人の神学ないしは死生観に基づく。(1)(2)の例は中国、朝鮮、台湾にもあり、古くは『史記』に紀元前3世紀の例が伝えられているが、(3)は日本独自のもので、とくに垂加神道(しんとう)に多くみられる。加藤玄智(げんち)の『本邦生祠の研究』(1932)は、生祠に関する学問的解明を試みた最初のもので、1976年(昭和51)に発足した加藤玄智博士記念学会は、生祠の研究を中心課題とし、『神道研究紀要』を発行している。

[谷 省吾]

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百科事典マイペディア 「生祠」の意味・わかりやすい解説

生祠【せいし】

生存中の人間を神格化してまつることを生祀といい,設けられた社祠を生祠という。対象は英雄・聖者・恩人など。超人的資質を有するか,常人にできない行為をするか,または恩恵を施すなどが神格化の因。日本の神観念にはこの要素が含まれ,明治天皇を生祠としたのもこの観念である。
→関連項目御霊信仰

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生祠」の意味・わかりやすい解説

生祠
せいし

人々のために利益をもたらした英雄や,一般人よりも権力や霊力あるいは徳において秀でた人物を象徴的に崇拝の対象として祀った建造物。古代ギリシアやエジプトでは英雄,偉人などを彫った建造物が多く,美術的にも価値のあるものが少くない。日本では,仏教や学問,政治の創始者などを対象とするものが目立つが,他人のために尽した人などを祀ったものもある。近年の社会主義諸国では政治的,学問的指導者を生祠としたものが多い。

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世界大百科事典(旧版)内の生祠の言及

【廟】より

…しかしそれらはおおむね黙認されるのが常であり,民衆の熱心な信仰のゆえに,淫祠を正祠と公認せざるをえなくなった事例も数多い。 特異な祠廟に生祠(せいし)とよばれるものがある。その地方に善政をしいた役人の在職中か転任するときに建てられるもので,早くも《漢書》于定国伝に見えている。…

※「生祠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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