出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
甲状腺に発生する悪性腫瘍(しゅよう)。おもなものに乳頭癌、濾胞(ろほう)癌、髄様癌、悪性リンパ腫がある。全甲状腺癌のなかでは、乳頭癌(80~90%)や濾胞癌(10~15%)がほとんどを占める。これらは分化型の癌であるため緩徐に進行することがほとんどで、転移が多いとされるが予後は良好であることが多い。これら以外のものは発生頻度は少ないが、甲状腺の傍濾胞細胞(C細胞)から発生し家族性の発症も疑われる髄様癌や、リンパ球から発生する悪性リンパ腫、乳頭癌や濾胞癌と同様に濾胞細胞から発生する未分化癌などは、悪性度が高くまた進行も速い。とくに未分化癌はきわめて増殖傾向が強く、予後も著しく不良であることが多い。全体に自覚症状に乏しいことも多いが、頸部(けいぶ)の結節(しこり)やリンパ節腫大が認められたり、未分化癌や悪性リンパ腫では、嗄声(させい)(かすれ声)や嚥下(えんげ)困難、結節部位の圧痛が出現したりする。
1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故のあとで、周辺住民のとくに小児に甲状腺癌の発生が多く認められた。ほかにビキニ環礁で行われた水爆実験では、残留放射性物質による内部被曝(ひばく)のために島民に高頻度に甲状腺癌が発生した。これらのことから、放射性物質による被曝と甲状腺癌の発生には深い因果関係があると考えられている。
[編集部 2016年6月20日]
甲状腺癌には,甲状腺ホルモンを産生している濾胞上皮から発生する乳頭腺癌,濾胞腺癌および未分化癌と,カルシトニンを産生する傍濾胞細胞から生じる髄様癌とがある。甲状腺癌の約90%を占める乳頭腺癌と濾胞腺癌は他臓器の癌と比べて生物学的性質がおとなしく,リンパ節や肺,骨,脳への転移は起こすが,10年たっても患者は元気でいることが多い。一方,未分化癌は高齢者に多く頻度は5%と少ないが,周囲組織への増殖浸潤が激しく,きわめて悪性である。髄様癌では血中カルシトニン濃度が上昇し,また副腎,脳下垂体,副甲状腺,膵臓の腫瘍と合併して発生することがある。一般に甲状腺癌は,ある大きさになると,表面凹凸不整で周囲と癒着した硬い腫瘤として触れ,進行すると嗄声(させい)や呼吸困難,嚥下障害をきたす。診断には軟X線撮影,超音波検査に加え細胞診が有用である。治療は一般には手術によるが,未分化癌の場合は放射線照射が最も効果がある。
執筆者:葛谷 信明
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