男女平等(読み)だんじょびょうどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「男女平等」の意味・わかりやすい解説

男女平等
だんじょびょうどう

男性と女性が、経済的、政治的、社会的、文化的に平等であり、それぞれに独立した人格である状態をさす。また、そうした状態が望ましいとする思想をさす。男女平等が主張される背景には、男女間に不平等があり、女性が差別されている現実がある。

[布施晶子]

思想的展開

男女平等思想は、18世紀後半以降の歴史的変革期において登場した。その背後には、フランス革命、アメリカ独立戦争を男性とともに闘ったにもかかわらず、革命後、独立後には、政治的にも社会的にも男女の不平等に甘んじざるをえなかった現実、イギリスにおいて典型的な展開をみる産業革命後の機械制大工業に激しく吸引されつつも、女性は安価で不安定な状態における酷使を強いられた現実への凝視があった。たとえば、イギリスの女性解放思想の先達M・ウルストンクラフトは、理性の教育に基づく経済的自立なくしては女性の人格の独立はないと主張した(『女性の権利擁護』1792)。同じくイギリスの経済学者J・S・ミルは、議会を中心に女性の参政権を主張した(『女性の隷従』1869)。ドイツの思想家K・マルクスは「社会の進歩の度合いは、美しい性の社会的地位いかんによって正確に測ることができる」と説き、資本主義の原始的蓄積期における女性労働者の実態を明らかにした(『資本論 第1巻』1867)。また、マルクスとともに科学的社会主義を創始したF・エンゲルスは、男女の不平等の起源私有財産制度確立に求めるとともに、資本主義社会における女性の社会的産業への復帰が、男女平等の物的条件づくりをなすという理論を展開した(『家族、私有財産および国家の起原』1884)。ロシア革命の指導者レーニンは、史上初の社会主義国における男女平等の道筋を具体的に明らかにしていった。しかしながら、こうした女性解放の理論の基盤に据えられていた男性の女性に対する抑圧は、私有財産制に基づく階級社会の存在に基因するものとされていたのである。階級社会の廃絶がなされるならば、抑圧と被抑圧の関係も解消されるという言説は、20世紀後半、社会主義を掲げた国々における男女関係の実相が明らかにされるにつれ、理論的考察の見直しを迫られることになった。

[布施晶子]

現代の運動

1967年、第22回国連総会で採択された「女性差別撤廃宣言」第1条「男性との権利の平等を実際上否定又は制限する女性に対する差別は、基本的に不正であり、人間の尊厳に対する侵犯である」、さらには国際婦人年世界会議(第1回世界女性会議)で採択された「メキシコ宣言」「世界行動計画」(ともに1975)、国連総会で採択された「女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」(女性差別撤廃条約。1979)などがうたう男女平等の理念は、18世紀以降の男女平等を求める思想と運動の結実を示す。同時に、いまだ経済的、政治的、社会的、文化的に差別と不平等の状態にある女性を中心に、正しい意味での男女平等の実現を目ざす運動が、一国一社会を越えて展開されつつあることを教えている。

[布施晶子]

『婦人問題辞典刊行委員会編『婦人問題辞典』(1980・学習の友社)』『国際女性法研究会編『国際女性条約・資料集』(1993・東信堂)』『リサ・タトル著、渡辺和子監訳『フェミニズム事典』(1998・明石書店)』

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改訂新版 世界大百科事典 「男女平等」の意味・わかりやすい解説

男女平等 (だんじょびょうどう)

男女の性別による差別を受けないこと。すなわち,男女の社会的地位およびそれに基づく権利,義務,待遇などにおいて平等であることをいう。ここでいう平等とは,歴史的に差別されてきている女性が,男性と同等に女性も人間としての尊厳を保障され,女性であるがゆえに受ける差別の撤廃という意味内容をもっている。日本国憲法は,国民は男女の性別によって差別されないと法の下の平等を明記している(14条)。平等の思想は古代ギリシアの時代から芽生えていたが,とくに17~18世紀の近代自然法思想の形成の中で発展した。しかしその場合,女性は初めからその権利の対象とされていなかった。女性の平等権は,労働や非常の際に男性と同等の能力を示すことにより,一つずつ獲得されてきたものである。由来,男女の比較論的評価は二分され,自然法的平等の観念に基づき女性も男性と同じ人間性,能力をもつという主張がある一方,男女は本質的に相違し,男性の優越を認めるべきだという主張があった。後者の典型が参政権からの婦人の排除という政治的不平等のうちにみられた(〈婦人参政権運動〉の項参照)。

 現在,一部の発展途上国などを除いては女性の政治参加や教育,職業の機会均等が形式上認められているが,なお後者の主張も消滅してはいない。男性の家庭外活動と女性の家庭内労働が,社会的役割の相違として合理化され,男女間の格差や差別が残存している。たとえば,女性の就労条件も男性と同様とはいいがたい。多くは低賃金労働にあまんじなければならないし,仕事の内容も臨時的・補助的なものが多く,結婚退職制など差別的待遇もみられる(〈均等待遇〉の項参照)。賃金格差については,労働基準法4条で禁じられている(男女同一賃金の原則)。しかし採用時の差別や幹部要員への昇進ルートの狭隘(きようあい)さなど複雑な形で,男女平等の理念の実現が阻害されているのが現状である。また,法的には平等が実現されても,現実には既婚婦人に負わされている家事,育児と職場での労働の両立など調整のむずかしい問題もある。それゆえ,女性に残される家事責任を不平等の源だと主張する人々もある。しかし家事労働の問題解決には夫婦間での調整と同時に,社会的諸施策(保育施設の増加や住宅対策,女性労働政策,物価対策など)が必要である。その意味で真の男女平等は単純な負担の回避や男性への転嫁で得られるものではない。不断の社会的啓発によって女性の政治的,経済的,社会的解放への働きかけも必要である。
女子差別撤廃条約 →女性労働 →女性運動 →女性解放
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百科事典マイペディア 「男女平等」の意味・わかりやすい解説

男女平等【だんじょびょうどう】

男女の性別による差別(性差別)を受けず,またしないこと。18世紀後半以降,婦人参政権,教育・就職の機会均等,男女同一賃金等を求める女性運動によって次第に実現されてきた。現行の日本国憲法は法の下の平等を謳っているが,仕事の内容や賃金において女性が不利益をこうむることは依然として多く(一般職総合職),家事・育児・介護などが女性の役割として期待され,女性が家の外で働くのを困難にしている状況もあり,男女平等が十分に実現されているとは言い難い。

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世界大百科事典(旧版)内の男女平等の言及

【均等待遇】より

…前者については,たとえば三菱樹脂事件の例に見られるように,政治的信条を理由に労働者の採用を拒否するような場合には,使用者の〈採用の自由〉の問題や,また〈採用〉ということが労働基準法3条にいう〈労働条件〉に含まれるかといった法律問題ともかかわって採用時における思想信条による差別の救済をきわめて困難なものにしている。他方,後者の性差別については,労働基準法3条に定める差別的事由(理由)に性別の文言がなく,また労働基準法4条も単に賃金に関しての性差別を禁止するだけといった法的不備が雇用における男女平等の実現を阻害してきた。このような法規定上の欠陥を補うため,裁判所はこれまで憲法上の平等原則(14条)や民法上の〈公序法理〉(90条)を適用することによって,女性労働者に対する種々の差別的取扱いを救済するのが通例であった。…

※「男女平等」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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