男子結社(読み)だんしけっしゃ(英語表記)men's secret society

改訂新版 世界大百科事典 「男子結社」の意味・わかりやすい解説

男子結社 (だんしけっしゃ)
men's secret society

性を基本的な区分原理として男女が相互に排他的,閉鎖的集団をつくり,特定の秘儀に従うのが男子結社とか女子結社と呼ばれるものであるが,男子結社のほうが一般的で,女子結社は前者に付随した二次的性格をもつものが多い。男子結社には戦士結社,職業結社,呪術・宗教結社,舞踊結社などさまざまな種類があるが,結社への加入の仕方によって次のように分類することができよう。

 (1)結社の成員となることが,その社会のすべての男子の義務になっており,新成員は一定の年齢幅の間に加入儀礼を受けるもの。(2)成員になるための年齢には制限がなく,結社の同意を得て加入のための支払いをすればよいもの。こうした結社では,加入儀礼は義務というより自由意志に基づいている。(3)独身者による男子結社。若者のみが正式に加入し,妻帯者は排除される。(4)完全な成員権が世襲的特権階層の成人男子にのみ認められている結社。この場合特権階層に属する父をもつ息子はすべての加入儀礼を受けられるが,これ以下の階層のものは最後のもっとも重要な儀礼を受けることができない。

 上記のいずれの結社においても,結社の成員とそうでない者とは明りょうに区別されている。一般に男子結社の成員補充の原理は,性,年齢,および地位であるが,性の原理がもっとも重視されている。たとえば(3)のタイプの男子結社の場合,独身でいるかぎり,いつまでも結社の成員でいることができる。既婚男子を排除するのは,彼らが女性と密接なつながりをもつからであって,一定の年齢に達したからではない。また男子結社のなかには,男子集会所と呼ばれる特殊な舎屋をもっているものがあり,結社員はすべてこの舎屋に寝起きし,会合や作業をする。ドイツの民族学者シュルツHeinrich Schultzの《年齢階梯制と男子結社》(1902)によれば,こうした男子舎屋はその機能や性格の発展として,役場や裁判所,首長の住居,クラブ会館,警防屯所,寺院などに転化することがあり,また,この種の舎屋が未婚男女の公的恋愛の場であったところでは,一種娼家に転化することもあるという。舎屋が宗教的性格を帯びている場合には,ここで加入儀礼や秘儀が行われ,仮面やブル・ロアラー(振り回すと,牛のうなり声に似た音を出す祭具・楽器)のような宗教的聖具や祖先像,人間や動物の頭蓋骨などが保管されている。女性や子どもが舎屋に立ち入ることはきびしく禁止されている。未開社会秘密結社の多くは,こうした秘儀を中心にして結成された男子結社で,メラネシアのドゥク・ドゥク結社,アフリカのザンデ結社やマウマウ結社などは,その典型的な例である。
年齢集団 →若者組
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「男子結社」の意味・わかりやすい解説

男子結社
だんしけっしゃ

男性のみに入社の許される結社。世界中に広く分布しているが、いわゆる未開社会ではメラネシアや西アフリカ、文明社会ではヨーロッパやアメリカのものがよく知られている。結社は、年齢階梯(かいてい)制のように社会のなかである年齢に達した男子全員が参入する公開制のものからはいちおう区別され、加入者がなんらかの秘密を共有することから成り立つとされる。入社に際して資格が問われ、入社式(イニシエーション)においては秘密を伝授するための秘儀が行われる。

 たとえばニューギニア高地の民族集団ガフク・ガマの若者は、神聖な横笛を所有する男子結社に入社する際、鼻からの出血嘔吐(おうと)などのつらい試練や男子集会所での隔離といった入念な儀礼を三度にわたって受けなければならず、最後の隔離は2年間にも及ぶ。そののちに横笛の吹き方を習い、成人男子としての教えを受けるのである。この笛の存在は女性や入社していない子供には秘密にされ、儀礼期間中集会所から聞こえてくる笛の音は、女性たちには鳥の鳴き声であると説明される。

 これら規則の厳格さには、結社によってさまざまなバリエーションがある。秘儀をすこしでも外部に漏らすと死のごとき厳しい制裁の加えられる結社が存在する一方で、秘儀は存在するがそれほど固く守られているわけではなく、それに伴い男子全員が入社するような年齢階梯制に近いものもある。また加入者に女性との接触を日常生活においても過度に避けさせる(同時に加入者間の男色が行われることもある)ようなものから、閉経更年期以後の女性を入社させたり、女性の入社は許されないものの、儀礼をみることは妨げない緩い規則の結社まである。

 とはいえ、いずれの結社においても程度の差はあれ、秘密の保持と女性の排除とが特徴として現れる。女性は女性だけの結社を形成する社会もあるが、その場合の女子結社は、おおむねその社会の男子結社をまねてつくられたもので、比較してみると、組織も秘儀もより貧弱である。女子結社の存在する場合ですら、男子結社の秘密保持と女性排除とはその社会の男性支配を裏づけるものとなっているのである。儀礼に表出される女性に対する敵対的態度については、精神分析の立場から、母親と息子の親密さから生じるエディプス・コンプレックスや男性の異性羨望(せんぼう)を克服するためであるといった解釈もなされている。

 結社の組織は親族組織や地縁組織とは別で、むしろそれらを超えて広く組織化される傾向がある。西欧社会での男子結社は中世以来の長い歴史をもつテンプル騎士団、フリーメーソンや薔薇(ばら)十字団などが知られているが、やはり秘密の保持と女性排除が共通する特徴である。これら結社は大なり小なり全体の社会のなかで異質な存在であり、時代によっては反社会的なものとして弾圧された。西欧社会の結社は内部に位階制が存在し、功績に応じて昇進していく点が特徴的であるが、このような例はいわゆる未開社会においてもメラネシアのバヌアツなどに存在している。

[山本真鳥]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「男子結社」の意味・わかりやすい解説

男子結社
だんしけっしゃ
fraternity

諸社会で広くみられる男性だけでつくる閉鎖的な集団で,一般に女性を排除,忌避する。機能および形態は地域によって異なるが,戦士結社,祭祀結社,舞踊団その他の性質をもつものなどがある。男子集会所をもつものもあり,また男子結社が秘儀性をもつと秘密結社となる。メラネシアのドゥク・ドゥク結社はその典型で,仮面仮装した若者が秘密儀礼を行う。沖縄のアカマタ・クロマタ祭祀団もその一つと考えられる。

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世界大百科事典(旧版)内の男子結社の言及

【男子集会所】より

…部族社会および文明社会の村落において,男たちが政治や宗教的な営みの中心とする場所のことで,単なる広場から壮大な舎屋まで,当該文化の程度や特性によってさまざまのものがある。メラネシアや西アフリカには,男子が女子供を秘儀によって排除する秘密結社ないし男子結社が発達しているが,それらは呪術的な彫刻や装飾を施したりっぱな男子舎屋をもっている。他方,年齢集団がつよいインド東北部のアッサム地方のように,青年男子の若者宿が成人男子すべての集会所になっている場合も多い。…

【年齢集団】より

…社会結合の契機には血縁や地縁のほかに,基本的なものとして〈性と年齢〉があるが,部族社会ではしばしば,これが血縁や地縁をたち切って強固な年齢集団が形成される。民族学者シュルツHeinrich Schurtzが《年齢階梯制と男子結社》(1902)を著してこのことを大きくとりあげたが,彼は思春期における男子の女性および家族・親族からの隔離が,部族的成年式(割礼を伴うことが多い)で強調されることに注目した。反面,女子では初潮の時期が一様ではないので,成女式は男子のように部族的規模で一定時期に行われず,また妊娠・出産・育児のため家族・親族や近隣などのせまい血縁・地縁に拘束されて,年齢集団ができにくいとした。…

※「男子結社」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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