発声(読み)はっせい

精選版 日本国語大辞典 「発声」の意味・読み・例文・類語

はっ‐せい【発声】

〘名〙
① 音声を発すること。声を出すこと。また、その音声。
山槐記‐仁平四年(1154)正月一一日「於山科雨降雷発声」
※造化妙々奇談(1879‐80)〈宮崎柳条〉三「嘔唖哳啁(たうたつ)(おの)が随意(まにまに)発声(ハッセイ)し」 〔向秀‐思旧賦〕
宮中の歌会で、講師の後を受けて、節をつけて歌をよみあげること。また、その役。
二水記‐永正一五年(1518)二月一七日「参伏見殿御会始也〈略〉発声大納言入道各一反右府二反、此後主君出御」
③ 多数の人が唱和するとき、最初に音頭をとること。
※あたらよ(1899)〈内田魯庵〉「其時万歳の発声(ハッセイ)をして下すった方は」
小学読本(1884)〈若林虎三郎〉一「此の際充分に発声を正し」

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デジタル大辞泉 「発声」の意味・読み・例文・類語

はっ‐せい【発声】

[名](スル)
声を出すこと。声の出し方。また、その声。「大きく口を開けてはっきり発声する」「発声練習」
多数の人が唱和するとき、最初に声を出して音頭をとること。「町長の発声で万歳を三唱する」
宮中の歌会で、講師こうじが歌を節をつけずに読み上げたあとで、初句を節をつけて歌い上げること。また、その役。
[類語]音声美声悪声金切り声だみ声どら声胴間声鼻声裏声小声猫撫で声声を上げる声を大にする声を張り上げる声を尖らす声を嗄らす声を忍ばせる声を潜める声を荒らげる声を落とす声を掛ける声を殺す声を揃える声を立てる声を呑む声を励ます声を振り絞る声色肉声人声地声大声大音声音吐蛮声がらがら声しゃがれ声しわがれ声塩辛声ハスキーボイス風邪声含み声作り声嬌声奇声悲鳴

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改訂新版 世界大百科事典 「発声」の意味・わかりやすい解説

発声 (はっせい)

声を出すこと,呼気による声帯の振動を発声というが,声楽の歌声として発声するには技術が必要であり,発声法の訓練,研究がなされている。発声の基礎として次の3点が重要である。(1)呼吸 胸式呼吸は声帯の周囲の筋肉に不必要な緊張や負担をかけるため,腹式呼吸を習得しなければならない。(2)支え これはオルガンふいごのような働きをするもので,呼吸筋全体を随意に使って呼気圧を調節する。さらに呼気圧を正常より上げて頭声の共鳴にかかりやすい高周波成分の多い声帯の振動モードをつくること,喉の開きを助けることも,支えの重要な機能である。(3)共鳴 声帯の振動によって得られた声音そのものは小さいため,共鳴によってよく通る美しい音色を形成しなければならない。共鳴には鼻腔を中心とした頭蓋内,胸腔,口腔,喉頭などの部分が適宜使用される。以上3点に加えて,言葉の正しい発音,楽器としての奏法上での自由度の獲得も,発声の重要な課題である。

 解剖学的研究が進められるようになったルネサンス期,16世紀中ごろ発声そのものに関心が向けられるようになった。カッチーニが歌曲集《新音楽》(1602)の序文で述べた声楽技法はベル・カントの先駆けをなすものであった。17~18世紀のバロック音楽の特徴である即興性,装飾性は,奏法上での自由度を求めるソルフェージュや装飾法に関する手引書を生みだした。一方,17世紀以来台頭してきたオペラの大衆化は声楽の声量を要求し,19世紀には発声法の基礎的な手引書が書かれるようになった。また科学的研究が進むにつれ発声にも科学的な光が当てられるようになり(喉頭鏡の考案,1855),さらに19世紀末には言葉の発音やその練習法にも注意が向けられるようになった。しかし,20世紀の録音技術や電気音響技術の進歩は,声量を追求した19世紀的発声法から声の楽器としての自由度を再認識する方向へ,新たな転換期をみせている。
執筆者:

日本音楽の歌唱における発声法は,種目による差異が大きく,まだ総合的に体系づけられてはいない。一般に,洋楽のベル・カント唱法に比すれば,話し声に近い〈地声〉によるものとされ,高音域の特別な発声を〈裏声〉と称することなどが行われている。しかし,実際には,たとえば能などにおいては,せりふ部分でさえも,歌唱部分と発声法の相違は少なく,しかも普通の話し声とは,まるで異なる発声法によっている。能の狂言などのよく響く大きな声は,ベル・カントとは共鳴させる身体部分に違いはあっても,目的と方法には類似性があり,しかも,それが歌声としてではなく,演劇的なせりふとして行われている点に特色がある。このことは,歌舞伎狂言にも踏襲され,こうした伝統的な演劇においては,マイクロホンなどを使用しなくても,大きな劇場で,観客にそのせりふを理解させうることができる。そして,能では,とくに謡(うたい)と呼ばれる歌唱となると,江戸時代後期以降と思われるが,〈ツヨ(強)吟〉(または〈剛吟〉)と呼ばれる,ノドを強くしめて力強い声を発する発声法が生まれ,それ以前の〈ヨワ(弱)吟〉(または〈和吟〉)と対立するようになり,この2種の発声を使い分ける点に,現在の能の謡の特色があるようになっている。浄瑠璃においては,とくに義太夫節などは,1人の語り手(太夫)が,種々の役柄を語り分けるために,さまざまな発声上の技巧が発達した。いわゆる〈詞(ことば)〉の部分において,その技巧が効果的に用いられる。一方,〈地(じ)〉と称する音楽的な部分は,〈音(おん)〉を使うといって,義太夫節独自の歌唱上の発声法を用いるが,この〈音〉の使い方が,〈詞〉と〈地〉の両方の部分で,複雑に使い分けられる点が,義太夫節の特色ともなっている。民謡や一般の三味線音楽箏曲などにおいては,とくに発声法の訓練を行わなくても,自然に邦楽的な発声による歌となることがかつては可能であったので,その発声を,話し声の発声と判然と区別する必要はなかったが,最近では,洋楽に基づく学校教育の歌唱教育の結果,邦楽的発声を自然に行うことが困難になってきた傾向にある。しかしながら,歌謡曲などにおいても,とくに艶歌などといわれるたぐいのものにおいては,〈小ぶし〉といわれる節まわしとともに,邦楽的発声の影響が大きい。

執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「発声」の意味・わかりやすい解説

発声
はっせい
voice production 英語
Stimmgebung ドイツ語

呼気によって声帯を振動させ、音声を発すること。ヒトを含めて動物は、本能的に、あるいはなんらかの意図をもって声を発する。生殖にかかわる雌雄の行為に伴ったり、驚き(恐怖)、喜び、悲しみといった情感の表現として、また遊戯や芸術(人間の場合)の一側面として発せられた声は、それぞれの状況に応じた伝達の機能を果たしている。とりわけ人間の発声は、言語や音楽の成立を担う重要な行為であり、民族、時代、文化によって、意識的または無意識的に、さまざまな発声法が駆使されてきた。そして歌唱における発声法は、音楽様式を決定する重要な契機となっている。たとえば、アメリカ・インディアン、東ヨーロッパ、オセアニアなどの地声、近代ヨーロッパ(いわゆるクラシック音楽)のベルカント、現代の日本や韓国での演歌などのさび声ないし鼻声的歌い方などは、それぞれの文化の担い手の感性の違いを反映し、それなりの訓練を要するものとなっている。とくにヨーロッパの場合、専門の訓練師(ボイストレーナー)が存在するほどに発声法の教育が重視されており、呼吸法、声区(胸声、中声、頭声)の区別をはじめ、共鳴、ビブラート、レガート、スタッカート、ポルタメントなどの唱法が精密に伝授される。

[山口 修]

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普及版 字通 「発声」の読み・字形・画数・意味

【発声】はつせい

声を出す。

字通「発」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の発声の言及

【延髄】より

迷走神経は大きく分けて,頸部,胸部,腹部の内臓に分布する。頸部では,喉頭の筋を動かして行う発声運動と咽頭の筋を収縮させて行う嚥下(えんげ)運動(食物を飲み込む働き)との二つの働きをする。胸部では心臓の運動を抑制し,腹部では食道,胃,小腸,大腸の運動を促進する。…

【声】より

…脊椎動物が呼吸気を利用して発声器官を振動させて生じる音。このような音を発することを発声phonationという。…

【発音器官】より

…動物がコミュニケーションの手段として音響を発することを発音または発声phonationといい,これにかかわる器官を発音器官と呼ぶ。胸びれの摩擦やうきぶくろの隔膜で音を出すギギやホウボウなどのまれな例外を除けば,発音機能をもつ動物の大部分は陸生の脊椎動物と昆虫類である。…

※「発声」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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