改訂新版 世界大百科事典 「白蠟病」の意味・わかりやすい解説
白蠟病 (はくろうびょう)
削岩機,鋲打ち機,チッピングハンマー,グラインダー,チェーンソーなどの手持ち動力工具を使用する際,工具の振動が手や腕に伝播して発生する職業病。トラクター,ブルドーザー,悪路を走行するオートバイなどのハンドルの振動によるものもある。最初の記載は,イタリアのロリガG.Loriga(1911)が削岩機を使う石材切出し労働者についていったものである。
特徴的な症状は,工具の使用開始後,数年して現れ,手・腕のしびれ,痛み,手の冷えが目立つ。ついで体の冷え込むときに手指の皮膚色の発作的な白変が起こるようになる。日本ではチェーンソーが山林業に導入された1955年以降,この症状が徐々に現れ,木曾地方の山林労働者が,手が白蠟のように白くなり感覚のうせた状態を恐れてこの名をつけた。ヨーロッパでもVIWF(vibration induced white finger)と呼ぶ。今では,末梢循環系,末梢神経系,運動器系に現れる障害などをまとめて振動障害と呼んでいる。振動が主原因で,その加速度と周波数によって症状が異なる。工具使用時に同時に発生する騒音,工具の重量,工具を押しつけるのに必要な圧迫力の大きさ,無理な姿勢での筋肉の緊張,寒冷な環境などの作業に付随した因子は,症状を修飾したり,強める。症状がすすむと末梢循環系,末梢神経系(知覚,運動),骨,関節系の機能が障害される。手指の皮膚血管が発作的に収縮してレイノー現象が発生し,その発生の頻度が増していく。冷えやしびれ,痛みが強まることによって神経症的な訴えも現れ,労働や生活の能力が損なわれる。
生産工程のスピードアップ,流れ作業化を図るうえで,人力依存であった手工具使用部門への手持ち動力工具の導入あるいは拡大が,55年以降,世界的に強まり,振動障害発生とその対策は世界的な問題となった。
→振動障害
執筆者:山田 信也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報