百舌鳥・古市古墳群(読み)もず・ふるいちこふんぐん

知恵蔵 「百舌鳥・古市古墳群」の解説

百舌鳥・古市古墳群

大阪平野の中南部、百舌鳥地区と古市地区の二つのエリアにある古墳群。古墳時代の4世紀後半から5世紀後半に築造されたとされる大小約90基の古墳が点在する。このうちの45件49基が、2019年7月にユネスコの世界文化遺産に登録された。国内最大の大山(大仙)古墳や国内第3の上石津ミサンザイ(百舌鳥陵山(もずみささぎやま))古墳を含む百舌鳥古墳群の23基は堺市に集中、国内第2の誉田御廟山(こんだごびょうやま)古墳を含む古市古墳群の26基は羽曳野市藤井寺市にまたがる。イコモス(世界遺産の諮問機関)は「傑出した古墳時代の埋葬の伝統と社会政治的構造を証明しており、顕著な普遍的価値を証明している」と評価した。国内の世界遺産では23件目だが、大阪府の登録は初めて。イコモスは資産に与える懸念として「都市における開発圧力」を挙げ、堺市が進めていた自転車博物館(移転中止)、大仙公園基本計画、鉄道の高架事業などの影響を検討するよう勧告している。なお、大山古墳誉田御廟山古墳などの陵墓宮内庁の管理下にあり、立ち入りは禁じられている。
4世紀後半から5世紀後半は、古墳時代の最盛期に当たる。典型的な古墳が出現したのは、3世紀後半のこと。近畿地方から瀬戸内沿岸にかけての丘陵地に築造され、4世紀半ばには関東地方から九州地方北部まで拡大した。この時期、近畿地方の豪族による連合政権(ヤマト政権)がこうした地域を支配下に組み込んでいったと考えられている。5世紀になると、周囲に濠をめぐらした巨大な前方後円墳が築造されるようになった。百舌鳥・古市古墳群の古墳はこの時期に築造されたもので、大型古墳は大王(ヤマト政権の首長)や有力豪族の権威の象徴と考えられている。
大山古墳は仁徳天皇の陵墓、誉田御廟山古墳は応神天皇の陵墓、上石津ミサンザイ古墳履中天皇の陵墓などと、宮内庁からそれぞれ治定されているが、大山古墳などは年代のつじつまが合わず、本当の被葬者は誰なのか、専門家の間でも意見は一致していない。これまで宮内庁は、陵墓の「静安と尊厳の保持」を理由に、立ち入り調査を厳しく制限してきた。しかし世界遺産登録の前年(18年)末、陵墓の保全に向けた基礎資料の収集を目的に、初めて大山古墳の学術調査(堺市と共同)を行っている。

(大迫秀樹 フリー編集者/2019年)

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知恵蔵mini 「百舌鳥・古市古墳群」の解説

百舌鳥・古市古墳群

大阪府の堺市・羽曳野市・藤井寺市にまたがる巨大古墳群。4世紀後半から6世紀前半にかけて200基を超える古墳が造られ、現在は89基の古墳が残る。墳丘長486メートルに及ぶ仁徳天皇陵古墳は世界でも最大級の大きさで、応神天皇陵古墳(墳丘長425メートル)や履中天皇陵古墳(墳丘長365メートル)など、巨大な前方後円墳が集中している。周囲にある円墳や方墳などは埋葬された人物の地位により大きさや形が異なり、古代日本列島における王権の成り立ちを示す遺跡とされている。2017年7月31日に開かれた文化庁の文化審議会で国連教育科学文化機関(ユネスコ)へ推薦する国内候補に決定し、19年の世界遺産登録を目指している。

(2017-8-3)

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