盆(先祖祭り)(読み)ぼん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「盆(先祖祭り)」の意味・わかりやすい解説

盆(先祖祭り)
ぼん

旧暦7月13~15日を中心とする先祖祭り。いまは新暦や月遅れにする所が多い。盂蘭盆(うらぼん)ともいう。古代インドの農耕儀礼が中国に入って整備され、さらに日本の貴族社会がそれを受容したが、在来の信仰や習俗との習合・葛藤(かっとう)を繰り返しながら現在に至っている。仏家の解説では、釈迦(しゃか)の弟子の目連(もくれん)が、死んだ母が餓鬼道(がきどう)に落ち逆さに吊(つ)るされて苦しんでいるのを救おうとして、釈迦に教えを請い、7月15日に供養して祭った。倒懸(とうけん)の梵語(ぼんご)ウランバーナullambanaが「うらぼん」となり、略して盆となったという。別に、供物をのせる瓫(ほとぎ)という器物の古称をボニとよんだのが、その語源だという説もある。

 盆の諸行事の配置構造は整然としており、小正月(こしょうがつ)を中心とする正月行事群の配置と似通っている。正月は神祭り的であり、盆は仏教的な色彩が強いにかかわらず、ともに満月の夜を中心とした祭りであり、正月の七草(ななくさ)に対して盆には七夕(たなばた)があり、16日の藪入(やぶい)りも双方にある。臨時の祭壇(年神棚と盆棚)、外竈(そとがま)(正月小屋と盆竈)、火祭り(とんどと迎え火・送り火)、綱引きなども共通している。その理由については種々の説がある。一つには、盆も正月も年に二度の祖霊祭だから、古式の神迎え神送りの方式を共有するという説。次には、盆は正月の繰り返し的な行事だという考えで、まず正月があって、のちに正月の影響を受けて盆が整備されたという説。逆に中国から盆を受け入れ、それに促されて正月を整えたという説。また正月は稲作文化を基調とし、盆は畑作文化を基本とし、双方の接触混合によって1年を折半する現象がおこったという説などがあるが、まだ決着をみない。

[井之口章次]

盆行事

旧暦に基づいて述べる。7月のことを盆月とも仏月(ほとけづき)ともいい、盆は7月1日から始まる。盆は先祖を家々に迎え祭る機会であるから、その準備を始めるのである。この日を釜蓋朔日(かまぶたついたち)とか閻魔(えんま)の口あけとかいう。地獄の釜の蓋があいて先祖があの世を出発する日で、茄子(なす)畑や芋畑に行って地面に耳をつけて聞くと、釜の蓋のあく音や先祖の旅立つ叫び声が聞こえるなどという。7日は七夕であるが、星祭りとは別に盆行事がある。七日盆(なぬかぼん)といって、墓場までの道草を刈り墓掃除をする。井戸さらえ、硯(すずり)洗いのほか、仏具、食器、家具を洗う。牛馬も水辺に連れて行って洗ってやる。ねぶた、眠り流しなど形代(かたしろ)を送り流す禊(みそぎ)の行事と一連のものであろう。この日は先祖様が馬に乗ってくるというので、藁(わら)や真菰(まこも)で馬の形をつくり、迎え馬とか七夕馬とかよんでいる。先祖様を迎える手段は種々重複して行われ、盆花(ぼんばな)迎えもその一つである。盆棚や墓に供える盆花は、11日または13日に迎える例が多い。花の種類は土地ごとに異なっており、キキョウオミナエシ、ハギ、ヤマユリなどを総称したり、またそのなかの1、2種の花を盆花とよんだりする。町では盆市(ぼんいち)で買い求めたり、盆花売りが訪れてくるとか、近来は造花にかわったのも多いが、本来は早朝から山に出かけてとってくるもので、正月11日の若木迎えと同じように、先祖の霊をこの花とともに家に迎えるのだという気持ちが表れていた。

 盆火(ぼんび)も先祖様の送り迎えに重要なもので、7月13日から焚(た)き始める例が多く、墓、四辻(よつつじ)、門口などで焚く。関東の村々では、一家の者が門前に集まって麦藁を焚き、「盆さま盆さま、お迎え申す」と大声で叫び、子供がその火を持って墓へ行き、そこでも火を焚いて先祖迎えをした。墓から家までの道々に108本のシラカバの木の皮を竹につけて立てておき、墓から順に火をつけながら家に迎えてくる形もある。盆の火祭り行事には芸能化したものも多い。高い柱の上の燃料に、下から松明(たいまつ)を投げ上げて火をつける柱松、山の斜面に燃料を置いて、文字や図形を浮き出させる大文字(だいもんじ)・鳥居火・万灯火、数多くの提灯(ちょうちん)を竿(さお)につけ、人が支えて練り歩く竿灯(かんとう)などがある。送り火の場合にも、送り舟にろうそくをともしたり、灯籠(とうろう)流しなどには観光と結び付いたものが多い。

 盆に家々に迎える先祖様の祭壇が盆棚で、7月13日の朝つくる例が多い。つくる場所や形式は各地各様で、座敷、仏間、縁側、門口、四辻などに竹や木で棚を設け、仏壇から位牌(いはい)を出して祭る。この精霊棚(しょうろうだな)以外に、またはその下に、別に無縁仏のために餓鬼棚(がきだな)を設け、先祖として祭ってくれる者のない傍系の亡霊を祭る。これを僧侶(そうりょ)の手で盛大に行うのが施餓鬼(せがき)で、いまはすべての先祖供養に及んでいる。前年に不幸のなかった家では、盆をむしろめでたい祭り日として、神棚に魚を供え、生臭物を贈答しあう習俗がある。親が健在の間は、盆のうちに魚をとって調理して親に勧めるのを生見玉(いきみたま)といい、これが中元の贈答の基本である。ほかに、盆には屋外に臨時のかまどを築いて飲食する盆竈、盆飯、辻飯、川原飯などとよばれる行事があり、あるいは盆に招いた先祖様を慰め、これを送るための盆踊りなどがある。24日は地蔵盆で、子供が主になって地蔵の祭りをする所が多い。

[井之口章次]

『民俗学研究所編『年中行事図説』(1975・岩崎美術社)』『「先祖の話」(『定本柳田国男集10』所収・1962・筑摩書房)』『宮田登編著『日本民俗文化大系9 暦と祭事』(1984・小学館)』


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