盗犯等防止法(読み)とうはんとうぼうしほう

改訂新版 世界大百科事典 「盗犯等防止法」の意味・わかりやすい解説

盗犯等防止法 (とうはんとうぼうしほう)

盗犯等ノ防止及処分ニ関スル法律〉(1930公布)の略称盗犯防止法ともいう。昭和初年ころ,東京周辺に出没したいわゆる〈説教強盗〉などに対処するために,制定された法律である。全4条から成り立っているが,その主眼は,第1に,窃盗罪強盗罪の一定の態様のものに対する正当防衛の成立範囲を広げること,第2に,常習・累犯者に対する刑を加重することの2点にある。

 1条は,正当防衛特例を規定している。すなわち,(1)盗犯を防止しようとするとき,または盗品を取り戻そうとするとき,(2)凶器を持ったり門やへいを乗り越えたりあるいは鍵をこわしたりして,人の住居などに侵入する者を防止しようとするとき,(3)ゆえなく人の住居などに侵入した者,または要求を受けても人の住居などから退去しない者を排斥しようとするとき,という三つの場合において,自己または他人の生命,身体,貞操に対する現在の危険を排除するために犯人を殺傷したときは,正当防衛になるとしている。正当防衛が成立するためには,原則としてやむをえなかったこと,すなわち,ほかにとるべき方法がなかったことを要する(刑法36条)が,本条の場合には,ほかにとるべき方法があっても違法でないとされるのである。さらに,1条2項は,上記の三つの場合には,自己または他人の生命,身体,貞操に対する現在の危険がなくても,行為者が恐怖,驚愕,興奮,狼狽によって現場で犯人を殺傷したときは,罰しないと規定している。これは,行為者が,現在の危険が現実にはないのにあると誤想して殺傷したときは,違法ではあるが,責任がないことを規定したものだとするのが通説判例である。しかし,誤想防衛の場合に責任がないとするのは犯罪理論上当然であって,むしろ,まだ〈現在〉といえるまでに至っていない侵害に対して,それを認識しつつ,はやまって防衛した場合を,犯罪不成立としたものだとする説もある。

 次に2条は,常習として,凶器を携帯したり,2人以上共同するなどして,窃盗罪,強盗罪(準強盗罪を含む),またはその未遂罪を犯した者は,窃盗の場合は3年以上(刑法では10年以下),強盗の場合は7年以上(刑法では5年以上)の懲役に処すと規定している。また,常習として窃盗罪,強盗罪(準強盗罪を含む),またはその未遂罪を犯した者で,その行為前10年内に同様の罪について3回以上6ヵ月の懲役以上の刑の執行を受け,またはその執行の免除を得た者に対して刑を科すべきときも,2条と同じく処罰される(3条)。常習として強盗傷人罪,強盗強姦罪またはその未遂罪を犯した者は,無期または10年以上の懲役に処せられる(4条)。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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