目・眼(読み)め

精選版 日本国語大辞典 「目・眼」の意味・読み・例文・類語

め【目・眼】

[1] 〘名〙
[一] ヒトや動物に備わる感覚器官の一つ。光の刺激を受けて、外界の状況を知るための器官。普通、ヒトをはじめ脊椎動物のように頭部に二つあって対をなすものをいう。動物の種類によってその個数・位置・構造・機能は異なり、一様でない。まなこ。
① 眼球・眼瞼などを含む視器全体をいう。
古事記(712)上「是に左の御目を洗ひたまふ時に、成れる神の名は、天照大御神」
※竹取(9C末‐10C初)「此事を歎くにひげも白く、腰も屈まり、目も爛れにけり」
② 視器の主要部分である眼球をいう。ヒトをはじめ脊椎動物のものは、鞏(きょう)膜・脈絡膜・網膜に包まれ、その内部に水様液・ガラス液を満たし、レンズのはたらきをする。目玉。目の玉。
※竹取(9C末‐10C初)「御目は白(しら)めにて臥し給へり」
※嵯峨本方丈記(1212)「俄にくづれうめられて、隠かたなく平に打ひさがれて二の目など一寸斗うち出されたるを」
③ 人の顔の中の、①のついている位置、高さ。高さを表わす基準としていう。
※宗五大草紙(1528)公私御かよひの事「配膳の様、古は飯点心肴以下をも目より上に持たる由申候へ共」
[二] (一)のはたらきをいう。視覚をつかさどるものとして、また、心情を表出するものとしての目。
① ものを見る目。また、そのはたらき。ものを見る動作。「目につく」「目を離す」「目を配る」「目恥ずかし」などの形で用いる。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「父おとど限りなくかなしうし給て、片時、御めはなち給はぬ御子なりけり」
② 特に、恋しくおもう人を見ること。男女が会うこと。
※万葉(8C後)七・一三一〇「雲隠る小島の神のかしこけば目(め)は隔てども心隔てや」
③ 対象を見る目の向き。視線。「目をそばめる」「目を引く」「目を注ぐ」「目が移る」「目のやり場に困る」などの形で用いられる。
④ 目の様子。めつき。まなざし。また、目で情意を表わすしぐさ。目の表情。目づかい。目顔。「目を見す」「目で知らせる」「目で殺す」「目に物言わす」などの形で用いられる。
⑤ 目で見た感じ。それを見る時の気持。「目を喜ばす」「目を驚かす」などの形で用いられる。
※土左(935頃)承平五年二月五日「まつばら、めもはるばるなり」
⑥ (限定の語を伴って) その立場に立って見ること。それを見る立場。見方
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「多くの年へだてたるめには、ふとしも見わかぬなりけり」
⑦ 対象を正当に認識し評価する力。鑑賞、鑑定、洞察、識別などをする目の力。眼力。見識。めがね。「目を肥やす」「目がきく」「目かしこし」などの形で用いられる。
※今昔(1120頃か)二六「不知にこそ有けれ。目有者ぞ見付る。我、此の石取てむ」
※謡曲・烏帽子折(1480頃)「もし正清が縁りの者か、おん目の程のかしこさよ、わらはは鎌田が妹に」
⑧ 眠ること。睡眠。「夜の目」
浄瑠璃生玉心中(1715か)中「晦日の夜からゆふべ迄あんじて一めもをよらずお心つかれお身の毒かへっておやすみなされませ」
⑨ 好意、贔屓(ひいき)などの心ざし。そのような心ざしをもって見ること。「目をかける」「目に入れる」などの形で用いられる。
⑩ にらみつけること。にらんで叱ること。また、そのしぐさ。目玉。お目玉。「目をもらう」「目をする」などの形で用いられる。
⑪ 動物の目に準ずる機械の作用。光学機器や電波探知機などの、物の像をつくりだすはたらきを比喩的にいう。「カメラの目」「ミクロの目」「レーダーの目」
[三] 見る対象をいう。
① 見る対象となる顔や姿。特に、「君が」「妹が」などの限定を伴って会いたいと思う人の顔や姿をいう。上代において多く用いられた。
※書紀(720)斉明七年一〇月・歌謡「君が梅(メ)の恋(こほ)しきからに泊(は)てて居てかくや恋ひむも君が梅(メ)を欲(ほ)り」
② 目に見える姿や様子。「日の目」「人目」「そばめ」などの形で用いられる。
③ 目に見る姿、様子の意から転じて、その者が出会う、自身の有様、境地、境遇。めぐりあわせ。体験。「憂き目」「つらい目」
※枕(10C終)九「かかるめ見んとは思はざりけむなど、あはれがる」
※今昔(1120頃か)五「かく難堪(たへがた)き目を久く見給ふべきに非ず」
[四] 位置、形状、価値などが(一)に似ている物事をいう。
① 事柄の中心となる点、または主要な点。
(イ) 主眼。眼目。
※随筆・戴恩記(1644頃)下「此卿の眼と見給へる歌書は古今集一部とせり」
(ロ) 物の中心。中心にある穴など。「台風の目」
② 目、特に眼球を思わせる形状のもの。
(イ) 双六(すごろく)などに用いる賽(さい)の面につけられた、一から六までの点。「賽の目」
※万葉(8C後)一六・三八二七「一二の目(め)のみにはあらず五六三四さへありけり双六の頭(さえ)
(ロ) 紋様、または紋所の名。方形または菱形の中心に点を一つ打った図柄のもの。紋所には「いつつめ」「かどたてひとつめ」「じゅうろくめ」などがある。
※随筆・守貞漫稿(1837‐53)一四「或は茶の類にて四つ目の紋を白に染ぬき縫にもする也」
(ハ) 鏑矢(かぶらや)の鏑にあけた穴。通常、三ないし八か所にあける。
※半井本保元(1220頃か)上「なま朴の鶉の長八寸の目九さしたるにて、六寸、なひば八寸の大かりまたをねぢすけみ」
(ニ) 幕の部分の名。軍陣に用いる幕にあけた物見のための穴。全部で九つあけ、上の二つは大将、中の三つは臣下、下の四つは諸軍勢の物見とする。また、上の二つは日月を、中と下との七つは七曜を表わすともいう。物見。
※甲陽軍鑑(17C初)品四四「目のあき所は不定、もんのあひあひに、あくる。目いづれも、広(ひろさ)かねの、五寸にあくる」
(ホ) 縫針の、糸を通す孔。めど。耳。
※虞美人草(1907)〈夏目漱石〉九「絹糸を細長く目(メ)に貫いた儘」
[五] 連続する、物と物との隙間(すきま)。間の区切り。区切りをつける線条。また、そのように刻まれたもの。
① 交差する何本もの線条の間にできる隙間。
(イ) 織られた糸と糸との間にできた隙間。織り目。布目。
曾丹集(11C初か)「しつのめのあさけのころもめをあらみはげしき冬はかぜもさはらず」
(ロ) 網、籠、垣、筵などの、編まれた間にできた隙間。編み目。
※書紀(720)神代下・歌謡「天離る 鄙つ女の い渡らす迫門(せと)石川片淵 片淵に 網張り渡し 妹(メ)ろ寄しに 寄し寄り来ね 石川片淵」
(ハ) 碁、将棋、双六の盤や方眼紙などで、縦横の線がまじわるところ。また、縦横の線によって区切られた中の部分。縦横に交わる何本もの線の間にできる空所。〔日葡辞書(1603‐04)〕
(ニ) 囲碁で、連結が完全な石で囲んである一つ、または連結した二つの空点。また、交互の着手によって最終的にそうなる形。個別に二つ以上の目がある一連の石は、イキといって絶対に取ることができない。
※古今著聞集(1254)一二「法深房の方の石、目一つくりて、其うへこふをたてたりければ、ただにはとらるまじといはれけり」
(ホ) 相接する物と物との間の隙間。板や瓦などを並べ合わせたときにできる隙間。「板目(いため)」「目張り」「目塗り」
※枕(10C終)二五一「いと多うも降らぬが、瓦のめごとに入りて」
② 間をおいて並んでいる線条、または、稜(りょう)
(イ) 碾臼(ひきうす)、擂鉢(すりばち)などの、物をすりつぶす面に立てた筋。
※仮名草子・東海道名所記(1659‐61頃)六「目のつぶれたる摺鉢に」
(ロ) 鋸(のこぎり)の歯、三つ目錐(きり)などの先、鑢(やすり)の面などのように、多数に立てた稜をもつ突起。「鋸の目」
※福翁自伝(1899)〈福沢諭吉〉幼少の時「鋸の鑪の目を叩て居る」
(ハ) 木材の縦の断面にあらわれる筋。「正目」「木目(もくめ)
(ニ) 道具を使ってできる筋目。箒(ほうき)で掃いた後や櫛けずった後の筋。
※桑の実(1913)〈鈴木三重吉〉七「すがすがしく箒の目がついてゐた」
[六] 空間的、時間的な切れめ。二つの物、あるいは二つの事態の区切りや接点。転じて、物の条理、また計量の区切りや、単位をいう。多くの場合、動詞の連用形と複合して用いられる。「切れ目」「切り目」「分け目」「折り目」「境目」「繋ぎ目」「綴じ目」など。
① 物を切り離し、または合わせた箇所に生ずる線状の痕跡(こんせき)。または離合する先端の部分。
② 異質のものが部分的に混在する部分。「焦げ目」「よごれ目」など。
③ 異なる状況に転ずる境目。状況が転換する時点。その間際。動詞の連用形と複合して用いられる。「死に目」「弱り目」「落ち目」「金の切れ目」「時候の変わり目」
④ 物事の条理。筋道。筋目。普通には「文目(あやめ)」という。
⑤ 計量・計測のために、秤(はかり)その他の計器類に刻んだしるし。計量、計測の区切りを表わすしるし。目盛(めもり)。→目に掛ける
※日葡辞書(1603‐04)「Meuo(メヲ) ヨム、または、カゾユル〈訳〉重量を知るために、目盛を数える」
⑥ 秤、または枡(ます)ではかる量。量目(りょうめ)。目方。秤目(はかりめ)。枡目(ますめ)。→目を掛ける。「出目(でめ)」「目減(めべ)り」「目が足らぬ」
⑦ 器(うつわ)の容量。全量。転じて、物事の可能な範囲。「目いっぱい」「七分目」「目八分」
⑧ 近世における銀貨の量目の単位、匁(もんめ)の略。一の位の数が零であるときにだけ用いられる。ただし、一〇を除く。
※コリャード日本文典(1632)「ヒャク me(メ)
[七] 近世から明治時代にかけて行なわれた茶商の符丁で、八の意。
[2] 〘感動〙 目をむき、にらみつける動作に伴って発することば。特に人を叱ったりたしなめたりするときに用いるが、実際の発音は、「めえ」ないし「めっ」となる。→(一)(二)⑩。
※三ちゃんも三ちゃんや(1971)〈古山高麗雄〉一「『いい加減にしないと、母ちゃん、本気にメよ』と奥さんは子供に言い」
[3] 〘接尾〙
① 数詞のあとに付いて、初めから数え進んでひと区切りをつけた、その区切りまでの数を表わすのに用いる。
※風姿花伝(1400‐02頃)三「されば、昼二番めによき能の体を、夜の脇にすべし」
※人情本・清談若緑(19C中)三「今日より三日猶予はすべし。第三日めの薄暮には、残らず明て引取り候へ」
② 形容詞の語幹、動詞の連用形などに付いて、そのような度合、加減、性質、傾向の意味を添える。「細め」「長め」「控えめ」「おさえめ」など。→語誌(3)。
※置炬燵(1890)〈斎藤緑雨〉上「火鉢出で茶菓出で、続いて鼈甲羅宇とやら、ちと太いめの長煙管、桝形の煙草箱」
[語誌](1)「め(芽)」「見る」などと同源とされる。
(2)類義語「まなこ」の語源は、一般に「ま(目)+な(助詞)+子」とされ、「め」が眼全体を表わすのに対して「まなこ」は黒目の部分を指すといわれる。
(3)(三)②の場合、現代の共通語では「語幹+め」が普通だが、関西では「多いめ、高いめ、硬いめ」のように連体形に接続させて用いることが多い。ただし、共通語でも語幹が一音節の形容詞「濃い」だけは例外で、「濃め」ではなく、「濃いめ」となる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android