相引・合引(読み)あいびき

精選版 日本国語大辞典 「相引・合引」の意味・読み・例文・類語

あい‐びき あひ‥【相引・合引】

〘名〙
① (━する) 戦っている双方が互いにその場から退くこと。
(イ) 戦場で敵味方ともに軍をひくこと。
太平記(14C後)三一「信濃勢二百余騎討れければ、寄手も三百余騎討れて、相引きに左右へ颯(さっ)と引く」
(ロ) 勝負の決着がつかないときに、それぞれ自分側から引き下がること。〔日葡辞書(1603‐04)〕
② (━する) 互いに弓を引き合うこと。敵が矢を射かけてくるのに応戦して弓を引くこと。
平家(13C前)四「馬には弱う、水には強うあたるべし。河なかで弓ひくな。かたきゐるともあひびきすな」
③ (━する) 干潮満潮時以外に、短い間、潮の満ちひきがあること。〔日葡辞書(1603‐04)〕
④ (━する) 互いに引き合うこと。同時に引っ張ること。
浄瑠璃・唐船噺今国性爺(1722)中「足首つかんで兄弟が、大の男を相引に」
⑤ (━する) 互いに語り合って事をたくらむこと。なれあい。
※幸若・高たち(室町末‐近世初)「きものたはねするりととをし、あひひきかけて、うらをかけ」
⑦ 袴(はかま)両脇の下部の前後を縫い合わせた部分。ここをつまみ上げて、ももだちをとる。
※浄瑠璃・雪女五枚羽子板(1708)もんさく系図「袴(はかま)の相引(アヒビキ)しっかと取」
⑧ 四幅袴(よのばかま)という名の、下の方があいている袴の紐(日葡辞書(1603‐04))。
⑨ 歌舞伎小道具の一つ。俳優が演技中用いる方形の腰掛け。桐製方形の小箱のような合引と踏み台のような中合引、高合引の三種がある。
※戯場楽屋図会(1800)下「早替り、〈略〉化粧道具は相引(アヒビキ)鏡台として下に棚をこしらへ」
⑩ 歌舞伎俳優の鬘(かつら)が抜けたり、はえぎわにしわがよったりしないように台金の左右につける紐。後頭部で結ぶ。
※滑稽本・八笑人(1820‐49)三「これでも合引(アヒビキ)で、ぐっと目をつりあげて、かづらをかけて見せたら、びっくりするだらう」
⑪ 歌舞伎の仕掛け物に用いる糸。
(イ) 小道具の仕掛け物を動かす時に用いる糸。
※歌舞伎・善悪両面児手柏(妲妃のお百)(1867)五幕「双方一時(とき)に木のかしら、此時水鳥を大分あひ引(ビキ)にて日覆へ引上げる」
(ロ) 襦袢(じゅばん)の襟や、引き抜きなど、仕掛け物に用いる細い紐。
茶道で、左右の手が茶器から離れる時の呼吸、または様子

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android