睡虎地秦墓(読み)すいこちしんぼ(英語表記)Shuì hǔ dì Qín mù

改訂新版 世界大百科事典 「睡虎地秦墓」の意味・わかりやすい解説

睡虎地秦墓 (すいこちしんぼ)
Shuì hǔ dì Qín mù

中国,湖北省から発見された秦代の墓跡群。1975年11月湖北省雲夢(うんぼう)県睡虎地において下水道工事の際,秦代の墓が発見され,同年12月から翌年1月にかけて発掘調査が行われた。その結果,12座の墓を発掘し多くの副葬品を得た。副葬品は,文房具をはじめ,漆,銅,鉄,陶,竹,木などで作った器物387点のほか,11号墓の棺の中から隷書で書かれた1100余枚の竹簡雲夢秦簡)が発見された。この11号墓の墓主は,竹簡の記載から法律・文書関係を担当する県の下級官吏で,名を喜といい,秦始皇帝30年(前217)に死亡したことが推定される。竹簡はその内容に従って(1)〈編年記〉,(2)〈語書〉,(3)〈日書〉,(4)〈為吏之道〉,(5)〈秦律十八種〉,(6)〈秦律雑抄〉,(7)〈郊律〉,(8)〈法律答問〉,(9)〈封診式〉と名づけられて発掘後整理された。とくに(5)~(9)の600余にのぼる竹簡は,秦律の律文をはじめ,裁判手続,律文の解釈など法律関係の書籍類である。

 従来は法家思想に基づく法治主義国家であったことは周知事実であっても,秦律の内容,戦国時代の法律とのつながり,漢律と秦律の関係などについて,具体的なことはほとんどわからなかった。その意味でこの〈雲夢秦簡〉の発見は,秦代史の研究のうえで計り知れない寄与をするものである。なお睡虎地秦墓の発掘時期は,いわゆる〈儒法闘争〉の最中であったことは注目される。また総合的な発掘報告として1981年,北京文物出版社から《雲夢睡虎地秦墓》が出版されている。
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世界大百科事典(旧版)内の睡虎地秦墓の言及

【秦】より

… 従来,秦帝国は法家思想に基づき厳刑主義を採用したとされているが,秦の法律の内容について残されている史料はほとんどなかった。ところが1975年に湖北省雲夢県睡虎地から統一秦直前の時期のものと推定される竹簡〈雲夢(うんぼう)秦簡〉が1000枚以上発見され,秦律の実態の一部が明らかとなった(睡虎地秦墓)。たとえば,これまで秦の法律は,商鞅が魏の李悝(りかい)が作った《法経》6編を基にして〈六律〉を作り,それが漢の〈九章律〉に吸収されたといわれてきたが,雲夢秦簡には二十数種の律名が明記されており,六律のほかに付加法としての律の存在を認めねばならなくなった。…

※「睡虎地秦墓」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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