知能テスト(読み)ちのうテスト(英語表記)intelligence test

改訂新版 世界大百科事典 「知能テスト」の意味・わかりやすい解説

知能テスト (ちのうテスト)
intelligence test

知能を客観的に測定するための道具で,〈知能検査〉ともいう。その測定結果は,一定の基準にてらして数量的に表示される。この場合,知能の一般的傾向を総括的にとらえる一般知能テストでは,精神年齢知能指数知能偏差値など,単一の指標であらわされるが,知能の特性により選択された下位検査にもとづいて各領域で働く知能を診断的にとらえる診断性知能テストでは,テスト得点プロフィルとして描かれる。また,知能テストには,その施行様式からみて,個人を対象とする個別式知能テストと,集団を対象とする集団式知能テストとがあり,さらに問題構成様式からみて,主として言語を用いる言語式(A式)知能テストと,数字,記号図形などだけによる作業式(B式)知能テストがある。一般に,集団式知能テストは,多人数の知能を効果的に測定するのには適しているが,各人の知能を大まかにとらえるのにとどまり,個人の知能を精密に測定するには個別式知能テストによらなければならない。また,作業式知能テストでは,文化的・社会的環境の影響力がかなり取り除かれるため,生得的知能の測定には適しているが,学業の予診的価値については言語式知能テストには及ばない。

 知能テストは,最初精神遅滞児の鑑別の必要から,フランスのA.ビネによって1905年に作成された。これは,08年の改訂を経て11年に仕上げられるが,このビネ式知能テストBinet testの特徴は,テスト問題が難易度に応じて年齢別に配列されていることにあり,各人がこのテストで得た結果をその年齢尺度に照らし合わせることにより,精神年齢が算出される。この精神年齢が知能の程度を表すものとされたのである。その後,ビネ式知能テストは,アメリカのスタンフォード大学のターマンL.M.Termanらによって改訂され,いわゆるスタンフォード・ビネ・テストStanford-Binet testが出現した。このテストでは,実際の年齢(暦年齢)で精神年齢を割り100倍することによって得られる知能指数が,知能程度をあらわす基準とされた。知能テストの利用は,第1次大戦中,アメリカの参戦による軍隊編成という実際的必要により拍車がかけられた。応募兵に対し知能テストを実施して,急速に軍隊編成に役立てようとしたのである。このとき作成されたのが,軍隊テストU.S.Army testとよばれる集団式知能テストである。その後知能テストは,学校,職場,施設,病院など多くの分野に普及し,それに伴ってさまざまな種類の知能テストが作成された。中でもニューヨークのベルビュー病院のウェクスラーD.Wechslerによって1939年に作成されたウェクスラー・ベルビュー知能尺度Wechsler-Belvue intelligence scaleは,精度が高く,適応障害や精神病の診断など臨床面で広く利用されている。これはビネ式知能テストをさらに発展させたものであるが,総知能指数だけでなく,言語性知能指数と動作性知能指数とが算出されるようになっており,また,下位テストの得点を検討することにより,各人の知能の特性を分析的に知ることができるという特徴を備えている。
知能
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百科事典マイペディア 「知能テスト」の意味・わかりやすい解説

知能テスト【ちのうテスト】

知能の水準や知能的発達の程度を測定するためのテストで,〈知能検査〉ともいう。A.ビネは1905年,年少者を対象として易〜難に至る30の問題系列を作成,ビネ・テストと呼ばれ,本格的な知能検査の最初とされる。その後各国で改訂されたが,最も著名なのは米国スタンフォード大学のL.M.ターマン〔1877-1956〕によるスタンフォード・ビネ・テストで,このテストでは,精神年齢を実際年齢で割った数の100倍(知能指数)が知能程度を表すものとされる。その後もさまざまに改訂され,ウェクスラー=ベルビュー知能尺度は精度が高いとされる。
→関連項目精神年齢精神病理学メンタル・テスト

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世界大百科事典(旧版)内の知能テストの言及

【心理検査】より

…検査という時それは一つの道具をさすのだが,心理検査においては,それを用いて解釈する検査者の能力に大きく依存しており,対象の理解や問題の解明,精神力動の把握は,単なる面接によるよりも正確で詳細な情報が得られるものと期待されている。大きく分類すると知能テスト人格検査に分けられ,いずれにも個人法と集団法とがある。 1904年スピアマンが一般知能の考え方を提案し,05年にビネA.BinetとシモンT.Simonが史上最初の知能テストをパリで発表し,同年ユングが言語連想テストを公表した。…

【知能】より

…だから,ほぼ同一の知的能力を,異なる観点から定義しているにすぎないともいえる。そこで一般には,知能とは知能テストで測定される能力であるという操作的定義(測定操作による定義)が,採用されている。 知能テストによって測定された結果は,精神年齢mental age(MA),知能指数intelligence quotient(IQ),知能偏差値T‐scoreなどによって表示される。…

※「知能テスト」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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