矯正教育(読み)キョウセイキョウイク

デジタル大辞泉 「矯正教育」の意味・読み・例文・類語

きょうせい‐きょういく〔ケウセイケウイク〕【矯正教育】

犯罪や非行のような社会的不適応を示す者を矯正し、社会に復帰させる教育

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「矯正教育」の意味・わかりやすい解説

矯正教育
きょうせいきょういく

法律上では、「少年院は、家庭裁判所から保護処分として送致された者を収容し、これに矯正教育を授ける施設」(少年院法1条)とあるように、少年院の在院少年に対して行われる教育を意味する。さらに、その内容は、在院者を社会生活に適応させるため、その自覚に訴え、紀律ある生活のもとに、学校教育に対応する教科、ならびに職業の補導、適当な訓練、および医療を授けるものであると規定している(同法4条)。英語ではcorrectional educationという。

 現行少年院法の制定される以前の矯正院法(大正11年法律43号)のなかには、矯正院で行われる教育について、このように明確なことばは使われていない。一般的には少年保護、保護事業、あるいは保護教育などが用いられていたようである。これらのことばも、今日の矯正教育と同じ内容を含んでいたものと考えるべきであろう。なお日本において、成人犯罪者と区別して少年犯罪者に特別の教育を実施したのは、1872年(明治5)制定の監獄則に規定された懲治(ちょうじ)場が最初である。懲治場は1907年(明治40)に廃止され、それにかわるものとして、22年(大正11)に矯正院が設けられた。

 しかし矯正教育ということばは、この少年院法のなかだけで使用されているわけではない。受刑者を拘禁して刑罰を執行する刑務所のなかでも、教育、処遇、矯正などとよばれる多様な活動が行われ、それらを総括して矯正教育ということも多い。このことは、成人の犯罪者であっても、積極的に教育することによって、人格の向上が図られるべきであるという教育刑理論に基づいており、監獄法には明文の規定としてはないが、現在一般に用いられている。

 また、矯正教育ということばを使ってはいないけれども、保護観察所のもとで行われている成人犯罪者や非行少年の保護観察という活動がある。保護観察は、少年院や刑務所の処遇を施設内処遇とよぶのに対して、社会内処遇とよばれることが多い。処遇場面を除いて考えるならば、教育研究の立場からは、これもまた広義の矯正教育とみなすべきであろう。

 児童福祉施設の一つである教護院は、不良行為をなし、またはなすおそれのある児童を入院させて、これを教護することを目的とする。主として14歳以下の児童を中心に、不良性を除去して心身の健全な成長を遂げるように援助することを教護とよんでいる。教護院の前身である感化院の場合には、同様の教育活動を感化とよんでいた。これらの感化や教護とよばれる教育活動も、広義の矯正教育と大きく異なる教育活動であるとは考えられない。なお教護院は1997年6月の児童福祉法改正に伴い、98年4月より児童自立支援施設に改称され、家庭環境その他の理由により生活指導等を要する児童も対象に加えられている。

 学校教育においても、著しい問題行動、ときとして刑罰法令を犯す生徒・児童の教育を考えるとき、従来の一般的な教育課程によっては対処できない事態に立ち至っている。これも矯正教育の一環として研究されるべき問題である。したがって広義の矯正教育は、少年を中心とする、犯罪者や非行者の教育であると考えるのが適切であろう。

[副島和穂]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「矯正教育」の意味・わかりやすい解説

矯正教育 (きょうせいきょういく)

広義には,刑務所等の矯正施設において,犯罪者に対してなされる教育を指すが,狭義には,少年院において非行少年に対して行われる教育をいう。資本主義の発展とともに犯罪が増加して,犯罪対策の必要性が高まり,とりわけ可塑性に富む青少年に対しては,成人犯罪者から分離して処遇することが為政者の課題となった。日本では,その試みは1870年代から80年代にかけて懲治制度として始められたが,それは教育の名に値するものではなく,1884年池上雪枝が大阪に感化院を創設したのにつづいて民間感化事業家たちによる私立感化院設立運動がおこり,政府もようやく1900年に感化法を公布した。しかし,公立感化院教育も懲戒的要素が強く,その成績は不振であった。やがて先進資本主義諸国における少年裁判所運動の影響をうけて,日本でも22年に少年法および矯正院法が制定された。ここに初めて矯正教育に値する体裁が整ったが,その目的とするところは社会防衛の枠内での教育であり,厳格な規律の下での教化的訓練を主眼とした。敗戦を契機として,48年に現行少年法と同時に少年院法が制定され,そこでの矯正教育は社会防衛の要請を軽視できないとはいえ,少年の健全な育成を主目的として行うべきことが法定され,教育内容も一新された。その後63年から教育内容の画一化を排するための特殊化計画が実行されるなど,矯正職員を中心とする創意・工夫が続けられた。しかし,収容少年の減少と少年法改正論議における少年院の多様化構想を反映して,77年以降,短期処遇が全国統一的に導入され,矯正教育は大きく変貌している。
行刑 →少年院
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「矯正教育」の意味・わかりやすい解説

矯正教育
きょうせいきょういく
correctional education

広義には,誤った行動を正常に導くための教育,狭義には,非行や犯罪を犯した者を矯正して社会に復帰させる教育を意味する。広義の場合は学校や家庭をはじめ社会の各場面で行なわれるが,狭義のものは刑務所,少年院などの特別な施設で行なわれる。矯正教育の理念は,応報刑 (→応報刑論 ) に対立する教育刑的な行刑理念に立脚するもので,第2次世界大戦後の少年院に最も端的に具現されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android