化学辞典 第2版 「硫化ヒ素」の解説
硫化ヒ素
リュウカヒソ
arsenic sulfide
【Ⅰ】硫化ヒ素(Ⅱ)(arsenic(Ⅱ) sulfide):As4S4(427.95).四硫化四ヒ素(tetraarsenic tetrasulfide)ともいう.天然には鶏冠石(realgar)として産出する.三酸化二ヒ素またはヒ素を硫黄とまぜて融解するか,硫ヒ鉄鉱と黄鉄鉱の混合物を加熱蒸留すると得られる.α,βの2態があり,常温で安定なα形(赤色の単斜晶系結晶.密度3.51 g cm-3)は267 ℃ でβ形(黒色の単斜晶系結晶.密度3.25 g cm-3)に転移する.β形は融点307 ℃,沸点565 ℃.蒸気密度はAs4S4の値を示す.水,硝酸以外の酸に不溶.硝酸で分解されヒ酸と硫酸になり,アルカリ溶液および硫化アルカリ溶液中ではヒ素と三硫化二ヒ素になる.空気中に放置すると酸化され,三硫化二ヒ素と三酸化二ヒ素になる.顔料,染色,花火の製造などに使用される.[CAS 1303-32-8]【Ⅱ】硫化ヒ素(Ⅲ)(arsenic(Ⅲ) sulfide):As2S3(246.04).三硫化二ヒ素(diarsenic trisulfide)ともいう.古代から黄色の顔料として知られていた.天然には石黄(orpimento)として産出する.硫黄とヒ素の混合物を融解してつくる.また,亜ヒ酸を含む濃塩酸溶液に硫化水素を通じるとAs2S3を沈殿する.赤色の単斜晶系結晶.粉末は黄色.密度3.49 g cm-3.融点300 ℃,沸点707 ℃.蒸気密度はAs4S6を示す.水に不溶,硫酸,アルカリに可溶.硫化アルカリに溶解して,チオ亜ヒ酸を生じる.顔料として用いられる.[CAS 1303-33-9]【Ⅲ】硫化ヒ素(Ⅴ)(arsenic(Ⅴ) sulfide):As2S5(310.17).五硫化二ヒ素(diarsenic pentasulfide)ともいう.五酸化二ヒ素の濃塩酸溶液に硫化水素を通じるか,硫黄とヒ素の混合物を真空にした封管中で融解すると得られる.淡黄色の単斜晶系結晶.500 ℃ 付近で昇華し,同時に分解,三硫化二ヒ素と硫黄を生じる.水に不溶,アルカリ,硝酸に可溶.硫化アルカリ水溶液に溶けてチオヒ酸塩となる.[CAS 1303-34-0].
以上のほか,As4S3についての報告もあるが明らかではない.ヒ素の硫化物はすべて有毒である.「砒素及びその無機化合物」として特定第一種,「砒素化合物及びこれを含有する製剤」(一部例外有り)として毒物及び劇物取締法・毒物,「砒素及びその化合物」として労働安全衛生法・名称等を通知すべき危険物及び有害物の指定がある(ただし,次に掲げるものを除く.イ 砒化インジウム及びこれを含有する製剤,ロ 砒化ガリウム及びこれを含有する製剤,ハ メタンアルソン酸カルシウム及びこれを含有する製剤,ニ メタンアルソン酸鉄及びこれを含有する製剤).
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報