磁気記憶装置(読み)じききおくそうち

改訂新版 世界大百科事典 「磁気記憶装置」の意味・わかりやすい解説

磁気記憶装置 (じききおくそうち)
magnetic memory device

強磁性体の非直線性とヒステリシス磁化特性を利用することを原理として,二進情報を電子的に記憶する装置。主記憶装置として使用される磁気記憶装置には磁心記憶装置と呼ばれるものがあり,補助記憶装置(外部メモリーとも呼ばれる)として広く使用されるものに磁気ディスク記憶装置,磁気テープ記憶装置,磁気ドラム記憶装置などがある。主記憶用には軟磁性体を使用した閉磁路形の記憶セルが使用され,補助記憶装置用には硬磁性体の開磁路形連続媒体を使用する磁気記録を原理とした記憶セルが使用される。いずれも二方向ある飽和まで磁化して,情報の整形・均一化を計るのがふつうである。

 多数(103~109個)の記憶セルが集合した記憶平面の中から目的の記憶セルを選び,これに情報を書き込んだり読み出す番地選択操作を,主記憶装置では電子的手段によって行って高速化を計り,補助記憶装置では機構的運動操作で大容量化,経済化を計っている。いずれの場合でも図1のように番地選択はxyz軸に分けて行う。図1-bのようにy選択を機構的運動で行うものは選択が循環的になり,番地によりアクセス時間が変わりランダムアクセスにならない。この循環形y選択動作をシフトレジスターのような簡単な電子的手段で行い,機構的選択よりは高速にしたものが磁気バブルである。磁気記憶を原理とする磁気ディスク,磁気テープや磁気バブルはこの例で循環形記憶装置である。

 記憶平面内の記憶セル数はxyの選択数の積に比例する数であるが,選択回路数はxyの選択数の和に比例する数であるから,記憶平面が大型化,大容量化すればするほど経済的になる。

主記憶装置の代表であった磁心記憶装置は,フェライト磁心の残留磁化の向きを利用するもので,コアメモリーとも呼ばれ,図2のような小型トロイダル磁心を編んでマトリックス状の記憶平面を構成する。編線に流す電流の一致により番地を選択する。すなわち,多数あるxy駆動線の中の各1本に流される駆動電流の磁化力が一致する交点の磁心(図では中央の磁心)だけが磁化反転し,読み出すときは駆動電流の極性を逆にして磁化方向を復元させ,その磁束変化をセンス線で読み出す。したがって破壊読出しとなる。飽和まで磁化させやすくするため磁心の抗磁力は可能なかぎり少なくする(1エルステッド以下)。情報“0”を記憶する場合はz(書込禁止)線に磁化力を打ち消す電流を流す。図2に示す上記の番地選択形式は,xyz,センス線の4本の編線を三次元的に使用するので,3D4W方式と呼ばれるもっとも基本的な方式であるが,このほかに21/2D2D方式などがある。磁心記憶装置は電源が切断されても磁心の磁化,すなわち情報は安定に保存される。また半導体記憶装置のように放射線を受けても情報が破壊されることもない。この特質を生かして特殊な用途に使用されるが,最近では使用されることが少なくなってきた。しかし1970年代半ばまではほとんどすべてのコンピューターシステムに使用されて主記憶装置の王座にあり,情報処理の発展のために大きな貢献をしてきた。

磁気記録により連続磁性媒体薄膜に情報を記憶させる原理を図3に示す。磁気ヘッドコイルにステップ状の書込電流を流すと,ヘッドギャップ付近に強い磁界が発生し,その近傍の磁性膜が飽和まで磁化されて,書込電流の変化に対応した小磁石が並べられた状態になる。この小磁石の発生する磁界を読出しヘッドで拾い出して増幅,整形し情報を再現させる。主記憶用の磁心はトロイダル状で外部に磁界を発生しなかったが,この場合は板状磁化なので自分自身の磁化を打ち消す反磁界が発生する。したがってこれに打ち勝つために磁性体は抗磁力の大きい(250エルステッド以上)硬磁性体でなければならない。また薄くないと反磁界の影響で高密度に記録することができない。このため記憶セルの連続集合体である記録媒体は,ガンマヘマタイトγ - Fe2O3の微粉末を薄く塗布したものが広く使用されてきた。最近はさらに高密度化するため硬磁性金属をめっきしたものや,スパッターなどにより作成した薄膜も使用されるようになってきた。

 飽和形ディジタル磁気記録を原理とした磁気記憶装置には,媒体の形状や材質により図4に示すようないくつかの形態があり,それぞれ特徴をもっている。

磁気ドラム記憶装置は,形状がもっとも単純なので高精度で高速回転するものが作りやすい。そのため初期には主記憶装置としても使用された。改良が重ねられ,平均アクセス時間が5msで記憶容量108ビットの外部記憶装置も作られて,各種の高速度・高信頼度ファイルとして使われてきたが,磁気ディスクの改良が進むとあまり使われなくなってきた。

磁気ディスク記憶装置は円板状の磁性媒体を用いるもので(図5),円板は必要記憶容量に対応して1枚もしくは6~12枚程度まで重ねて使用する。このため磁気ドラムに比較すると小型で大容量のものを作ることができる。またヘッドを円板直径方向に移動することによりトラックを自由に選択できるので,主記憶におけるランダムアクセスよりは遅いが,それに類似した機能をもたせることができて非常に便利である。このため補助(外部)記憶装置の主流となり広く使用されている。磁気ヘッドと記憶(録)媒体とは,高速化と長寿命・高信頼度化のため接触させないで使用し,きわめて微少(2~0.2μm)な空隙(くうげき)を保つよう浮上させる。このためには磁性円板の回転によって生ずる空気流でヘッドを動圧で浮上させる構造にしてある。磁気ディスク関連記憶技術の発展はきわめて急速である。それを高密度化について示すと図6となる。磁性円板は厚さ約2mm,直径36cmのアルミ板を基板としたものが広く使用されてきたが,高密度記録技術の進展とともに,最近は20cm,13cmなど小型で大容量(4×109ビット)のものも開発されるようになってきた。

フロッピー磁気ディスク装置は,アルミ基板のかわりにポリエチレンテレフタレート(マイラー)などの薄い可撓(かとう)円板を用いてその上に磁性体を塗布し,ヘッドを媒体表面に接触させて低速で回転させて,簡便な形で安価で使いやすい磁気ディスク記憶装置を実現させたもので,入出力装置としても使用され,マイクロコンピューター,パーソナルコンピューター,ワードプロセッサーなどの記憶装置として最近たいへん広く使用されるようになってきた。(図7)。円板直径は20cm,13cm,8.6cm,8.2cm,7.6cmなどさまざまなものが用いられている。フロッピーディスク1枚当りの記憶容量は2×106から107ビットまである。

磁気テープ記憶装置は,12.7mm(1/2インチ)幅の磁気テープに9トラックのディジタル情報を記録するもので,音声や画像,音楽を記録するアナログ的用途と異なり,情報の書込みや読出しが必要になったときだけ磁気テープを急速に走行させたり停止させる。このため磁気テープの駆動方式がたいへん複雑になる。また磁気ヘッドも9トラック並べたものとなり,かつ書き込むと直ちに正確に書き込まれているかを試験して高信頼度化を計るので,つねに書込みヘッドと読出しヘッドがペアになっている。ディジタル用磁気テープ記憶装置も,磁気テープの装置や取りはずしは人間が行うので人手が必要であり装置が大きくなることが問題である。記録密度は250ビット/mm(6250BPI),もしくは63ビット/mm(1600BPI)が主流で,テープ長は約730mのものが多い。

超大容量記憶装置は上記の磁気テープ記憶装置の欠点を取り除くために開発されたもので,幅69mmで長さ20mの幅の広い磁気テープに約5×107ビットの情報を記録し,それを砲弾形の機械操作が容易なカートリッジに収容して,蜂の巣状の格納架に多数蓄積するもので,ほとんど人手を必要とせず,最大3×1012ビットの情報を記憶できるもので,アーカイバルメモリーの一種でもある。この幅広い磁気テープには,家庭用VTRと同じように斜めに回転ヘッドを使用して情報が記録再生され高密度化が計られている。

 これらのディジタル磁気記録に使用される記録電流(磁化パターン)と,情報の対応のさせ方を記録変調方式と呼ぶ。それらを図8に示す。それぞれ特徴や欠点があり目的に応じて使用される。
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ASCII.jpデジタル用語辞典 「磁気記憶装置」の解説

磁気記憶装置

磁気媒体にデータを記録させるために使用する装置のこと。ハードディスクドライブやフロッピーディスクドライブ、磁気テープレコーダーなどがこれに当たる。

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磁気記憶装置【じききおくそうち】

記憶装置

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