社会体育(読み)しゃかいたいいく

改訂新版 世界大百科事典 「社会体育」の意味・わかりやすい解説

社会体育 (しゃかいたいいく)

地域や職場,家庭などにおける身体活動の助成育成をめざす組織的教育活動の総称。学校における教科としての体育である学校体育に対する用語として用いられる。1949年制定の社会教育法との関連で,文部省で用いられた日本特有の用語概念である。社会教育法では社会教育を,〈学校の教育課程として行われる教育活動を除き,主として青少年及び成人に対して行われる組織的な教育活動(体育およびレクリエーションの活動を含む)〉と定義しており,そのなかに社会体育も含まれている。この〈組織的教育活動〉にはいろいろな立場がある。一つは国,都道府県,市町村などが中心となって主として税金で行う公的なもの,日本体育協会や日本レクリエーション協会などの法人格をもった団体が,営利を目的とせず広く一般の福祉をめざして行う半公共的なもの,さらには民間団体(営利団体を含む)が私的に行うもの,などである。そこで社会教育(体育)を,教育という公的な社会的責務と関連して公的なものに限定しようとする考え方や,生涯教育の立場から,人生のそれぞれの段階における学習機会を保証するための社会的営みのすべて(私的なものも含む。ただし学校教育活動を除く)とする考え方,などその概念をめぐって広狭さまざまな立場がある。

 日本の体育・スポーツは,明治以降,学校を中心に発展してきた。社会体育活動としては,1893年に日本体育会が模範体操場を設けて一般にも開放したのがそのはじまりといえ,1908年にはYMCAが屋外体育場を設けた。このように明治期は,民間の社会体育活動が主であった。大正期になると,18年の臨時教育会議答申に,学校外の体育施設を改善し普及を図る旨があり,24年には第1回明治神宮体育大会が開催されたが,第2次大戦前は社会体育施設の不備などのため,社会体育活動は低調であった。

 第2次大戦後は社会の民主化とともに人々のスポーツに対する関心が高まり,とくに企業のスポーツ施設が急速に増加した。61年にはスポーツ振興法が制定されて,社会体育行政が動き始めたが,とくに60年代以降の日本の社会変化とそれに伴う生活意識の変化により,健康問題や体力問題,生きがいやあたたかい人間関係の模索など,社会的生活欲求が増大する傾向にあり,これらに対する新しい対応がせまられているなかで,社会体育は重要な問題として位置づけられるようになった。

 社会体育はすべての人を対象とする。活動の内容としては,生活における身体活動やスポーツに対する無関心層の意識的啓蒙,健康・体力づくりに悩む人たちへのプログラム・サービス,スポーツへの欲求をもっているがその実現が阻まれている人たちへのプログラムの提供,体育協会などの組織的スポーツ活動の普及・振興,などが考えられる。活動の方法としては,スポーツ行事の開催やスポーツ教室の開設,自発的自主的クラブの助成・育成などが考えられる。今後の課題として,まず施設・設備の整備充実とその配置や内容および活用(運営)をめぐる問題がある。具体的にはスポーツ振興法の手直し,地方公共団体における学校開放やスポーツ施設の使用条例,スポーツ傷害補償制度,財政確保の明確化,などが重要課題である。ついで,指導者の養成確保の問題がある。具体的には指導者の養成内容の明確化と養成機関,資格付与,指導活動の保証をめぐる問題,などが重要課題であろう。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「社会体育」の意味・わかりやすい解説

社会体育
しゃかいたいいく

学校体育以外の体育の総称。主として体育行政の範囲で行なわれる。地域社会,職域,家庭で行なう体育をさすが,営利や利益を追求する商業施設体育を含むこともある。 1882年の講道館設立による柔道の指導や,1893年の日本体育会付属模範体操場,1908年の YMCAの屋外体育場などにおいてなされた指導が社会体育の先駆といえる。 1921年文部省が社会教育を公式用語としたのち,社会体育という用語も一般化した。本来人々が自発的に参加し,自主的に行なうスポーツ活動などに対するサービスであり,目的と計画性をもった組織的活動をさす。行政上では 1970年代からのスポーツ需要の高まりと多様化に対応しうる施設の整備,指導者の養成,組織の育成,および必要な援助が施策として行なわれている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

今日のキーワード

焦土作戦

敵対的買収に対する防衛策のひとつ。買収対象となった企業が、重要な資産や事業部門を手放し、買収者にとっての成果を事前に減じ、魅力を失わせる方法である。侵入してきた外敵に武器や食料を与えないように、事前に...

焦土作戦の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android