社会保険給付(読み)しゃかいほけんきゅうふ

改訂新版 世界大百科事典 「社会保険給付」の意味・わかりやすい解説

社会保険給付 (しゃかいほけんきゅうふ)

社会保険の被保険者,その被扶養者,その他受給要件を満たした人に保険事故の発生時に支給される現金や現物給付の種類は,発生した保険事故の種類によって,疾病給付,出産給付,老齢給付,遺族給付,障害給付,失業給付,業務災害給付ならびに医療に分けられ,一部の国では介護を独立の給付にしている。また,給付の形態により現金給付と現物給付が区別される。現金給付の大部分は,保険事故の発生によって喪失した所得を補うための所得保障給付であり,現物給付の代表的なものは医療である。

 社会保険給付の水準や内容を決める基準として,給付原則と必要原則を区別することができる。社会保険の特徴の一つは被保険者が拠出することにより,直接財源の負担に参加することであり,そのため拠出と給付の対応関係が重視される。給付という反対給付を拠出という給付に応じて決めるという考え方が給付原則である。所得比例給付はこの原則に基づくものであり,所得比例拠出(保険料)に対応する。定額給付を定額拠出に対応させるのも同じ考え方に基づく。それに対して給付と拠出の対応関係を考慮せず,受給者の必要性という観点に立って給付を決めるというのが必要原則である。現物給付である医療はこの原則に基づく。そのほか,最低保障給付額を設ける場合,所得比例給付の給付率を低所得者ほど高くする場合,扶養家族に対する加給を行う場合などの例があげられる。給付原則と必要原則を組み合わせて適用することもできる。たとえば,厚生年金保険年金額は,定額部分と報酬比例部分に分けて計算されるしくみになっている。

 それでは社会保険給付の水準はどのくらいにすべきであろうか。ILOは社会保障に関する国際基準を設定することを主要任務の一つとしており,これまでに一連の国際社会保障基準に関する条約を採択してきた。これによって,所得保障給付についての基準をみると表のとおりである。1952年の102号条約は最低基準を定めたもので,その後各個別給付部門について,121号条約(1964),128号条約(1967),130号条約(1969)が採択され,より高い基準が設定された。ILO基準は発展途上国を含む全加盟国を対象にしたものであることに留意しなければならない。二重基準が設定されたのはそのような事情にもよる。なお,医療についての130号基準は,治療ばかりでなく疾病予防も対象とされ,治療にはリハビリテーションも含まれること,医療は必要とされる全期間与えられるべきことが規定されている。日本はこれら諸条約のうち,102号条約の批准を終えたにとどまる。

 日本の医療保険による傷病手当金と出産手当金の給付率は,算定基礎となる受給者本人の賃金・給与額の割合で,各種共済組合が65%または80%,健康保険が60%,雇用保険の基本手当が60~80%,労災保険休業補償給付は60%などとなっている。年金保険による年金額は定額部分と報酬比例部分の組合せの有無,加入期間比例制の仕組みの違い,世代による給付率の差の過渡的設定,算定基礎となる受給者本人の賃金・給与額が長期にわたるなどのため,同様の割合を示すことは難しい。95年度末の旧制度厚生年金保険老齢年金の平均額を,現役被保険者の平均標準報酬額に対する割合で示すと約53%,各種共済組合のうち最も年金額の高い組合の同様の割合は68%である。医療については,被用者保険本人は費用の8割,家族は7割であり,自己負担が2割または3割あることになるが,保険給付の対象外とされる医療やサービスがあり,それは患者の負担になることにも注意しなければならない。賃金を基礎にして所得保障給付額が算定される場合,賃金上限額が設定されて著しく高額の給付の発生は避けられる。現金給付には定期金と一時金があり,年金は長期給付で給付事由の消滅まで支給されるが,疾病給付やとくに失業給付などの短期給付は給付期間の制限を設けて,期限後給付は打ち切られる。年金のような長期給付は,いったん給付額が決められたのちも,その価値を失わないように随時改定しなければならない。そのため物価上昇率や賃金上昇率に応じて改定する給付改定規定が設けられる(年金スライド制)。

 社会保険給付には,保険者に実施を義務づける法定給付のほかに,保険者に選択の余地を与える任意給付(法定外給付)もあり,組合管掌健康保険にその例がみられる。社会保険給付は受給要件を満たせば受けられるが,受給者の側に故意による保険事故の発生などの不正があった場合,その他特別な事由がある場合には受給権が制限される。
社会保険料
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