日本大百科全書(ニッポニカ) 「神仙伝」の意味・わかりやすい解説
神仙伝
しんせんでん
中国の仙人たちの伝記。晋(しん)の葛洪(かっこう)の作。10巻からなり、92人の神仙の伝が述べられている。『晋書(しんじょ)』葛洪伝、『隋書(ずいしょ)』経籍志(けいせきし)に著録されているほか、同じ作者の書『抱朴子(ほうぼくし)』にも記載されているので、本書が葛洪の著であることは確かである。しかし『漢魏叢書(かんぎそうしょ)』などに収められている現在の『神仙伝』は、体裁が不統一であるばかりでなく、他書に引用されている『神仙伝』の所載巻数と、現行本の所載巻数に相違があり、そのほか多くの疑問があって、原本のままでなく後世の改編本といえる。作者は、神仙になることが可能であると考え、その実証と、劉向(りゅうきょう)の『列仙伝(れっせんでん)』を継承してその遺漏を補うため、本書を著述したという。『抱朴子』とともに葛洪の思想を知ることができ、神仙思想の展開をみるうえに不可欠の文献である。
[今枝二郎 2018年5月21日]
『福井康順著『神仙伝』(1983・明徳出版社・中国古典新書)』