神歌(読み)かみうた

精選版 日本国語大辞典 「神歌」の意味・読み・例文・類語

かみ‐うた【神歌】

〘名〙
① 神のうたう歌。神の詠じたという歌。神詠(しんえい)
太平記(14C後)二五「一千の神達を引調子を調(そろ)へて、神歌(カミウタ)を歌ひ給ければ、天照太神是にめで給て」
② 神の徳をたたえる歌、また、神事に関する歌の意で、主として、平安時代の歌謡の一種をいう。神遊びの歌や神楽歌などの神事に関する歌を、謡物曲節でうたうもの。広義の今様(いまよう)うちに含まれ、二句神歌四句神歌などに分かれる。
※宇津保(970‐999頃)菊の宴「御神子(みかうのこ)おりて舞ひ入り、山人かへす物の音いだし、かみうたつかまつる」
能楽で「翁(おきな)」の詞章しんか

しん‐か【神歌】

〘名〙
① 神のうたう歌。かみうた。
② 神の徳をたたえるうた。また、神事に関する歌。特に平安時代の歌謡の一種をいう。神遊びの歌や神楽歌などの神事に関する内容を、謡い物の曲節によってうたうもの。四句神歌と二句神歌とがあり、広義の今様のうちに含まれる。かみうた。
③ 能楽で「翁(おきな)」の詞章をいう。かみうた。
神道歌道
仮名草子伽婢子(1666)一〇「内外二典(じてん)に渡り、神歌(シンカ)両道にたづさはり」

かむ‐うた【神歌】

かん‐うた【神歌】

〘名〙 (「かむうた」とも表記) 神事に関する歌謡。かみうた。

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デジタル大辞泉 「神歌」の意味・読み・例文・類語

かみ‐うた【神歌】

神をたたえ、神力の発揚を期してうたう歌。
「―を歌ひ給ひければ、天照大神あまてらすおほむかみ是にめで給ひて」〈太平記・二五〉
平安後期の雑芸ぞうげいの一。本来、神楽歌の直系であるが、のちに世俗の流行歌謡に移行する。2句の短歌形式のものと4句の今様形式のものとがある。
能の「おきな」のときにうたう歌。しんか。

しん‐か【神歌】

かみうた3

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改訂新版 世界大百科事典 「神歌」の意味・わかりやすい解説

神歌 (かみうた)

(1)神に関する歌謡の総称 神詠,すなわち神の詠歌も含むが,神楽,神遊びなど神事に用いる歌謡をさすことが多い。現行神楽中最古の神歌を伝えているのは御神楽(みかぐら)で,その中心部は榊,幣(ぬさ),杖(つえ),篠(ささ),弓,剣(つるぎ),鉾,杓(ひさご),葛(かずら)の採物歌(とりものうた)である。神歌という名称の歌謡を最も多く載せている文献は《梁塵秘抄》で,和歌形式の二句神歌約120首,七五調四句の今様形式である四句神歌約200首が収録されている。内容は宗教歌謡に限らず,庶民生活,庶民感情を謡った民謡的なものも多いが,これは神事につながる遊宴歌謡に発したものと思われる。個人の和歌を神歌として採用することもあった。《体源鈔》(1512成立)巻十・下に〈今様事〉に続いて〈神哥事〉があり,室町時代までこの名称で伝えられたらしい。(2)能の《》の謡の詞章 〈しんか〉ともいう。〈とうとう(どうどう)たらり〉で始まる荘重な呪言的歌詞であるが,途中の〈ところ千代までおはしませ〉以下の四句は今様風で,四句神歌の面影を残している。現在では〈神歌〉を素謡(すうたい)形式で奏して,正式の《翁》の上演に代用することもある。
執筆者:(3)民間の神楽 民間神楽(採物神楽,湯立神楽,獅子神楽など)においても〈神楽歌〉または〈神歌〉その他の名称でうたわれている。伊勢神楽歌として知られるのは,もと伊勢外宮各社の神楽役の人たちが歌っていたもので,御神楽歌や《梁塵秘抄》の歌に次ぐ古いものと思われる。この歌が歌われた神楽は,釜の湯を神に献じて,その湯で人々の魂を清める湯立神楽で,もと外宮各社で行っていた社(やしろ)神楽が霜月の寄合神楽にまとめられたものだと言う。この系統を伝えるのが,秋田県保呂羽山の霜月神楽,伊豆の三宅島八丈島等の湯立神楽,長野県の遠山祭や冬祭,愛知県の花祭など,霜月を中心に伝承されている湯立神楽で,いずれも数多くの神歌を伝えている。長野県新野(にいの)の雪祭には〈宣命(せんみよう)〉という神降しの演目があり,この曲はまた,神歌とも呼ばれている。太鼓を打つ禰宜(ねぎ)を囲んで重要な役舞を演ずる12~13人が鈴を振りながらうたうもので,上の句を禰宜がうたうと,一同が上の句の最後の部分を繰り返して下の句をうたう。この神歌は,花祭などの神降しの歌がとり入れられたものであろうといわれている。また,新潟県弥彦神社の灯籠神事では,かつて旧6月7日,15日の神輿渡御還御の際和歌が奏されたが,この和歌を〈かみうたい〉または神歌とも称した。
神楽 →神楽歌
執筆者:(4)沖縄の神歌 巫女集団を中心とした古風な祭祀を伝える沖縄にも,祭りの場でのさまざまの神歌が保存されている。沖縄諸島では,神の託宣を意味するミセセル,神を崇(たか)べて降雨などの願いごとを述べるオタカベ,もとは託宣から出て現在は神に豊作などの祈願を捧げる形になったティルクグチ,同じく神に自分たちの願意を長々と訴えるクェーナやウムイなどがある。また宮古諸島では,神々の降臨・誕生から村落の創成などを述べたてて神を賛嘆するフサ,神々を崇べる意味のタービ,同じく神々を賛美するピャーシ,さらにそれらの神歌の要素を取りながら祖先神の偉業などを壮大に叙述するニーリなどがある。また八重山諸島では,神自身が述べるカンフチ,神に願いごとを捧げるニガイフチなどがある。これらの神歌は,ウムイがオモロの母胎となり,ニーリがアーグの源流となり,カンフチなどがアヨウ・ジラバなどの基となったように沖縄歌謡の祖型の役割を果たした。
沖縄[県][芸能,文学]
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

普及版 字通 「神歌」の読み・字形・画数・意味

【神歌】しんか

讚え歌。

字通「神」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の神歌の言及

【神歌】より

…(1)神に関する歌謡の総称 神詠,すなわち神の詠歌も含むが,神楽,神遊びなど神事に用いる歌謡をさすことが多い。現行神楽中最古の神歌を伝えているのは御神楽(みかぐら)で,その中心部は榊,幣(ぬさ),杖(つえ),篠(ささ),弓,剣(つるぎ),鉾,杓(ひさご),葛(かずら)の採物歌(とりものうた)である。神歌という名称の歌謡を最も多く載せている文献は《梁塵秘抄》で,和歌形式の二句神歌約120首,七五調四句の今様形式である四句神歌約200首が収録されている。…

【法文歌】より

…平安中期から末期に流行した今様(いまよう)の分類の一つ。今様には,ほかに神歌(かみうた),只の今様,古柳(こやなぎ),旧古柳(ふるこやなぎ),片下(かたおろし),早歌(はやうた),田歌(たうた),娑羅林(しやらりん)などがあった。法文とは仏法を説いた文章の意で,法文歌はその名のとおり著しく仏教的であり,とくに法華経をよんだものが多い。…

【梁塵秘抄】より

… 巻一は長歌(短歌体で〈そよ〉という囃子詞(はやしことば)を付けたもの)10首,古柳(こやなぎ)(不整形式で囃子詞の多いもの)1首,今様10首を収めるが,目録の歌数と違うのはこの現存の巻一が見本的な抄出本であることによるか。 巻二は法文(ほうもん)歌首,四句神歌(しくのかみうた)(神歌)204首,二句神歌121首を収める。法文歌はおおむね8・5音または7・5音の4句形式の仏教讃歌で,大きく仏・法・僧・雑の順に配列され,なかでも法(経典)の部は天台教学の五時教判の基準に従い,華厳経以下のおもな大乗仏典の各経歌をそろえ,特に法華経二十八品歌は開結2経を前後に置く群作百十数首で堂々たる構成である。…

※「神歌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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