福富草子(読み)フクトミゾウシ

デジタル大辞泉 「福富草子」の意味・読み・例文・類語

ふくとみぞうし〔フクとみザウシ〕【福富草子/福富草紙】

御伽草子。1巻。作者未詳。南北朝時代の成立とされる。放屁ほうひのじょうずな福富長者をまねた男の失敗談。絵巻物としても伝わる。福富長者物語。

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改訂新版 世界大百科事典 「福富草子」の意味・わかりやすい解説

福富草子(紙) (ふくとみぞうし)

室町時代,15世紀の絵巻貧乏のあまり妻の勧めで神に願をかけ,放屁奇芸を会得して人々を喜ばせ,長者になった秀武という老人の話と,それを羨んだ隣家の福富という男が,秀武に芸の伝授を頼んだが,たばかられて貴紳の前で放屁に失敗,さんざんに叩きのめされるという話を上下2巻に描く。絵は各場面連続して描かれ,詞書がなく,絵の中の人物の傍ら台詞が書き込まれている。滑稽卑俗な内容を持つ御伽草子の中でも,特に話の展開やリアリスティックな人物表現などに優れた代表的作例である。この物語の絵巻は数多くの伝写本,模本が流布しているが,なかでも春浦院本(出光美術館蔵),クリーブランド美術館本が著名で,室町時代,15世紀前半の制作。前者上巻に甚だしい錯簡があり,後者下巻のみの零本である。
筆者

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「福富草子」の意味・わかりやすい解説

福富草子
ふくとみのそうし

室町時代の御伽草子および絵巻。一名『福富長者物語』。作者,成立年未詳。放屁の名手福富織部の術をうらやみ,隣の乏少 (ぼくしょう) の藤太が妻の鬼姥 (おにうば) にすすめられて弟子入りするが失敗する。物うらやみをいさめた風刺滑稽談。『花咲爺』の原型の一つ。妙心寺春浦院の絵巻は詞書がほとんどなく,人名も違っているがこれが原作であろう。

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旺文社日本史事典 三訂版 「福富草子」の解説

福富草子
ふくとみぞうし

室町前期の御伽 (おとぎ) 草子
2巻。筆者不詳。放屁が上手でそれを業として富み栄えた老人のまねをし,みごとに失敗した老人の庶民的寓話物語。滑稽・奇抜な内容で風刺に富み文章表現も的確である。近世の「花咲爺物語」の前身とされている。

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