秋葉山(読み)あきはさん

日本歴史地名大系 「秋葉山」の解説

秋葉山
あきはさん

現春野町と磐田郡龍山たつやま村境の秋葉山(八八六メートル)の南東側に所在した秋葉権現とその別当秋葉寺を合せて秋葉山とよんだ。秋葉寺は大登山と号し、本尊は聖観音。秋葉権現の祭神は大己貴命であるが、その守護神であった三尺坊権現が近世中期以降、秋葉信仰主役となった。現在の領家りようけ秋葉神社(法人名は秋葉山本宮秋葉神社)はその後身であり、同社から下った山腹杉平すぎだいらの曹洞宗秋葉しゆうよう寺は明治一四年(一八八一)再興されたものである。

享保二年(一七一七)成立の秋葉山略縁起(山田家文書)などによれば、養老二年(七一八)行基により開かれ、山頂に行基作の聖観音・十一面観音・勝軍地蔵の三像が安置された。その後信州に生れ、越後蔵王堂(現新潟県栃尾市)で不動三昧の法を修行して烏天狗の相と飛行自在の神通を得た修験者三尺坊が大同四年(八〇九)白狐に乗って秋葉山に飛来、諸国をめぐったのち永仁二年(一二九四)当山に帰り、守護神三尺坊権現となったという。また秋葉寺の名は住僧が山上に水がないことを観音と守護神へ祈ったところ、一夜のうちに北西隅に清水(機織井)が湧出し、背中に秋葉の二字を乗せた蝦蟆が現れたことにより付けられたとされる。同寺は当初霊雲院と称しており、また法相宗であったがのち曹洞宗に転じたと伝える(「掛川誌稿」など)天竜川流域一帯で活動した修験の回峰霊場の一となり、また三尺坊権現の利益の第一は弓箭刀杖の難を逃れること、第二は出火類焼の災難を逃れることなどとされていることから、武士らにも広く信仰された。

永禄一二年(一五六九)八月七日の徳川家康判物写(高木文書)によれば、家康から「犬居秋葉寺」の別当光播に別当職および諸勧進寺務が安堵されている。

出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報

改訂新版 世界大百科事典 「秋葉山」の意味・わかりやすい解説

秋葉山 (あきはさん)

〈あきばさん〉ともいう。静岡県西部,秋葉山地の中心にある山。標高約870m。浜松市の北東部に位置する。赤石山脈南西部の前山にあたり,三波川(さんばがわ)帯の片岩類,四万十(しまんと)層群のケツ岩などからなり,赤石裂線,光明断層などの通過する地帯でもある。かつては青崩峡を通って遠江と信濃を結ぶ信州街道が峡谷状をなす天竜川流路沿いをさけて,春野川犬居から秋葉山頂を通過して山腹を山住峠に向かっていた。この街道は秋葉神社や山住神社の参詣路でもあり秋葉街道とも呼ばれた。山頂には秋葉信仰で知られる秋葉神社と三尺坊権現があり,12月中旬には有名な火祭がおこなわれる。南麓の西領家には里宮がある。山頂一帯は杉の巨木の植相が広く,樹齢500年に達する人工林である。西麓には秋葉ダムが1973年建設され,東海自然歩道が通じ,天竜奥三河国定公園に含まれる。
執筆者:

秋葉山は修験道の山として知られ,火伏せの神をまつる山として信仰されている。中世天竜川水系の山々を修行道場とする修験者たちにとって,秋葉山やその奥院とされる竜頭山などはその中心的存在であった。彼らの中には戦国時代から近世初頭にかけて武田,徳川などの軍僧の任につく者が現れ,清水,浜松,小田原などにも秋葉山が形成された。しかし火伏せの神として広い信仰圏を集めるようになった中核ともいうべき存在は三尺坊権現である。伝承によると三尺坊は信濃出身で,越後の栃尾蔵王堂所属の修験者であり,秋葉山に一千日参籠し火生三昧(かしようざんまい)の法を修し,神通不思議の験力を得,飛行昇天したので,秋葉山に合祀し秋葉三尺坊というようになったとも,秋葉山に大火が発生した際に三尺坊が現れ,火生三昧を修して猛火を止めたことにより火防鎮守としてまつられたとも伝えている。
秋葉信仰
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「秋葉山」の意味・わかりやすい解説

秋葉山
あきはさん

静岡県西部、浜松市天竜区に位置する山。標高885メートル。赤石山脈前衛の山地の一つで、天竜川と気田(けた)川に挟まれた尾根の南端にあたる。山頂部には秋葉神社(あきばじんじゃ)が祀(まつ)られ、少し下ったところに三尺坊大権現(だいごんげん)を祀る秋葉寺(しゅうようじ)がある。火防(ひぶせ)の神を祀り、12月中旬の火祭りの行事は有名である。また、山頂部のスギ林は人工林で樹齢500年にも達する巨木がある。南麓(なんろく)の宿坊からは東海自然歩道がかつての秋葉街道に沿って通り、山頂から秋葉ダムに通じる。一帯は天竜奥三河国定公園に含まれる。

[北川光雄]


出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「秋葉山」の意味・わかりやすい解説

秋葉山
あきはさん

静岡県西部,浜松市天竜区の天竜川中流左岸にある山。別称「あきばさん」「あきわさん」。標高 885m。赤石山脈南方の一峰で,山体は結晶片岩からなり,スギの大木が茂る。頂上には古くから火伏せの神をまつる秋葉神社がある。毎年 12月に行なわれる火渡りの行事と火災防護の祈祷は有名。おもに関東地方や中京地方で秋葉講が結成され,多くの参拝者が集まる。登山道は森町からの秋葉街道表参道で,北からは浜松市天竜区の峰之沢を通る道,西からは秋葉ダムや東雲名から,東からは気田川沿いの久保田から登る道がある。一帯は天竜奥三河国定公園に属する。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「秋葉山」の意味・わかりやすい解説

秋葉山【あきはさん】

静岡県西部,周智(しゅうち)・磐田郡境にある山。標高885m。山体は結晶片岩からなり,かなり開析されている。頂上に秋葉信仰の中心秋葉神社があり,12月15,16日に火防(ひぶせ)の火祭が行われる。
→関連項目天竜[区]天竜奥三河国定公園春野[町]

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

今日のキーワード

青天の霹靂

《陸游「九月四日鶏未鳴起作」から。晴れ渡った空に突然起こる雷の意》急に起きる変動・大事件。また、突然うけた衝撃。[補説]「晴天の霹靂」と書くのは誤り。[類語]突発的・発作的・反射的・突然・ひょっこり・...

青天の霹靂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android