競伊勢物語(読み)はでくらべいせものがたり

改訂新版 世界大百科事典 「競伊勢物語」の意味・わかりやすい解説

競伊勢物語 (はでくらべいせものがたり)

(1)歌舞伎狂言。時代物。7幕。〈競〉の別訓〈はなくらべ〉〈だてくらべ〉〈すがたくらべ〉〈くらべこし〉など。通称《伊勢物語》。奈河(ながわ)亀輔作。1775年(安永4)4月大坂嵐松治郎座(中の芝居)初演。おもな配役業平・通路・村雨姫・豆四郎を三枡徳次郎,井筒姫・関の戸・信夫(しのぶ)を尾上粂助,孔雀三郎を初世藤川八蔵,紀名虎・紀有常を初世中村歌右衛門,和田作・小よしを初世三枡大五郎,行平を中村十蔵,荒川宿禰(すくね)を藤川柳蔵,斑鳩(いかるが)藤太・どらの鐃八(にようはち)を2世三枡他人(のちの2世三枡大五郎),惟喬(これたか)親王坂東岩五郎。《伊勢物語》の在原業平の伝説により,《惟喬(高)惟仁位諍(これたかこれひとくらいあらそい)》や近松門左衛門の《井筒業平河内通(いづつなりひらかわちがよい)》などを参考にしたが,当時の時代物の常として,複雑な構成になっている。そのうち,現在まで上演されているのは,六幕目〈春日の里小よし住家〉である。惟仁・惟喬両親王が皇位継承を争い,神鏡を惟喬方の者が盗んで淵に隠した。春日野に住む農婦小よしと娘の信夫,婿の豆四郎は惟仁方で,信夫は警護の目を忍んで,淵から鏡を取り出した。そこへ紀有常が訪れた。信夫は実は有常の娘で,有常の息女として養育した井筒姫は帝の息女だった。在原業平は井筒姫と相愛の仲,豆四郎の容貌は業平にそっくりなので,有常の意を受けた信夫と豆四郎は喜んで井筒・業平の身替りになった。神鏡を得た業平と井筒姫は首尾よく惟仁親王を帝の位につけることができた。典型的な古風な歌舞伎として伝承されている。(2)人形浄瑠璃。時代物。歌舞伎の初演と同時に読本(よみほん)浄瑠璃《競(はなくらべ)伊勢物語》5段2冊(巻末作者連名は,辰岡万作ほか)として刊行され,同年4月か5月大坂豊竹定吉座の人形浄瑠璃で上演された。三段目の〈小よし内〉の段(2世豊竹島太夫初演)が,通称《はったい茶》として残っている。

 なお,初演以来1804年(文化1)までは,歌舞伎,人形浄瑠璃とも〈はなくらべ〉と訓まれていた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「競伊勢物語」の意味・わかりやすい解説

競伊勢物語
はでくらべいせものがたり

歌舞伎(かぶき)脚本。時代物。七幕。奈河亀輔(ながわかめすけ)作。1775年(安永4)4月、大坂中(なか)の芝居で初世中村歌右衛門(うたえもん)らにより初演。同時に辰岡万作らの手で五段二冊の読本浄瑠璃(よみほんじょうるり)として刊行、大坂豊竹(とよたけ)定吉座の人形浄瑠璃で演じられた。『伊勢物語』の在原業平(ありわらのなりひら)の伝説をもとに、惟喬(これたか)・惟仁(これひと)両親王の皇位争いを描いた作で、近松門左衛門の『井筒業平河内通(いづつなりひらかわちがよい)』の影響を受けたもの。「競」の字に「はなくらべ」「だてくらべ」「すがたくらべ」「くらべこし」などの別訓がある。通称「伊勢物語」。原作の五、六幕目「奈良街道」「玉水淵(たまみずがふち)」「小よし住家」が現在でも歌舞伎・文楽(ぶんらく)の両方で上演される。春日(かすが)の里に住む小よし、養女信夫(しのぶ)と婿の豆四郎(まめしろう)は惟仁方。信夫は惟喬方が玉水淵に隠した御鏡(みかがみ)を捜し出した。信夫の実父紀有常(きのありつね)は、惟仁方の業平とその許嫁(いいなずけ)の井筒姫を救うため、小よしの住居を訪れ、信夫と豆四郎を身替りにたてようとする。若い2人は喜んで身替りとなり、御鏡を得た業平と姫は、惟仁親王を帝の跡目にたてることができた。小よし住家の場は、高貴な身分の有常が昔なじみの農家の婆小よしと懐旧談にふけり、そのもてなすはったい茶(麦こがしの湯)を飲むところが印象的なので、俗称を「はったい茶」という。

[松井俊諭]

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「競伊勢物語」の解説

競伊勢物語
はなくらべ いせものがたり, はでくらべ いせものがたり, だてくらべ いせものがたり, すがたくらべ いせものがたり, くらべごし いせものがたり

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
奈河亀助(1代) ほか
補作者
奈河七五三助(1代) ほか
初演
安永4.4(大坂・嵐座)

出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報

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