第三の男(読み)だいさんのおとこ(英語表記)The Third Man

日本大百科全書(ニッポニカ) 「第三の男」の意味・わかりやすい解説

第三の男
だいさんのおとこ
The Third Man

イギリス映画。1949年作品。第二次世界大戦直後のウィーン舞台に、親友の事故死に疑惑を抱いたアメリカ人作家を中心に展開するサスペンス・スリラー。原作脚本グレアムグリーン。監督キャロル・リード。リードは、短いショットの積み重ねのなかにクローズアップを多用し、高い緊張を持続させたまま終局まで一気呵成(かせい)に描ききる。荒涼としたウィーンの街をとらえたロバート・クラスカーRobert Krasker(1913―1981)の撮影と、アントン・カラスチターのみによる音楽がきわめて印象的である。俳優はジョセフ・コットンJoseph Cotten(1905―1994)、オーソン・ウェルズ、トレバー・ハワードTrevor Howard(1913―1988)、アリダ・バリAlida Valli(1921―2006)ら。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。1952年(昭和27)日本公開。

[宮本高晴]

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改訂新版 世界大百科事典 「第三の男」の意味・わかりやすい解説

第三の男 (だいさんのおとこ)
The Third Man

1949年製作のイギリス映画。アントン・カラスのチターの演奏だけによる哀感あふれる音楽と,オーソン・ウェルズが演じたハリー・ライムという強烈な人物像によって世界中のファンを魅惑し,キャロル・リード監督の名を一躍高からしめたスリラー映画の名作。〈冷戦〉をテーマに作家のグレアム・グリーンが敗戦直後(1947)の米英仏ソ4ヵ国管理下のウィーンの闇市(ブラック・マーケット)を描いたオリジナルストーリーから,グリーン自身が脚色。後半の見せ場になる下水道の追跡シーンは,リード監督の証言によれば,ウェルズがカメラマンのロバート・クラスカーと話し合ってみずから演出したものという。哀切メロディー《ウィーンのたそがれ》が流れるラストの枯木の並木道の別れのシーンとともにこの映画の圧巻として知られるシーンは,観覧車の中でハリー・ライムが親友のホリー・マーティンス(ジョゼフ・コットン)に〈ボルジア家の圧制はルネサンスを生んだが,スイス500年の平和は何を生んだか? 鳩時計だけだ〉という名せりふをはくところ。これはグリーンが書いたせりふであったにもかかわらず,ウェルズが自分で考え出したという伝説が生まれてしまったほど,ハリー・ライムの人物像を〈怪物〉オーソン・ウェルズがさらってしまった神話的エピソードとして知られている。
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デジタル大辞泉プラス 「第三の男」の解説

第三の男

①英国の作家グレアム・グリーンの小説(1949)。原題《The Third Man》。
②1949年製作のイギリス映画。原題《The Third Man》。①を原作とする。監督:キャロル・リード、脚本:グレアム・グリーン、出演:ジョセフ・コットン、オーソン・ウェルズ、アリダ・バリ、トレバー・ハワード、バーナード・リーほか。第23回米国アカデミー賞撮影賞(白黒)受賞。第3回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
③①を原作とするイギリス制作のテレビドラマ。原題は《The Third Man》。放映はBBC局(1959~1965年)。マイケル・レニー、ジョナサン・ハリス主演。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「第三の男」の意味・わかりやすい解説

第三の男
だいさんのおとこ
The Third Man

イギリス映画。ロンドン・フィルム 1949年制作。原作,脚本グレアム・グリーン。監督キャロル・リード。主演 J.コットン,O.ウェルズ,A.バリ。第2次世界大戦直後のウィーンを舞台に,謎の男をめぐるミステリーが展開。クラスカーの美しい白黒撮影やアントン・カラスのツィターの名演奏の効果もすばらしく,リードの代表作であるばかりでなく戦後イギリス映画の代表作の一つとなった。

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世界大百科事典(旧版)内の第三の男の言及

【ウェルズ】より

…演劇にとりつかれ,ニューヨークで,J.ハウズマン,J.コットンらの演劇人と親交を結び,黒人版《マクベス》の演出(1936),劇団〈マーキュリー劇団〉の結成(1937)を経て,1938年10月30日,アメリカ中をパニック状態に陥れた史上名高いラジオドラマ《火星人襲来》(CBSラジオの音楽放送が突然中断し,宇宙船の着陸を伝える臨時ニュースから始まるというショッキングな形式であった)によって,23歳のウェルズは一躍脚光を浴び,〈神童〉とうたわれ,劇団ごとハリウッドに迎えられることになる。《市民ケーン》における類例のない〈パンフォーカス〉撮影,《上海から来た女》の〈鏡の間〉のモンタージュ,《偉大なるアンバーソン》《黒い罠》における息の長い〈ワンシーン・ワンカット〉撮影等々,革新的な映画技法を駆使する一方,チャップリンの《殺人狂時代》の原案も彼の手になるものであり,また性格俳優として自作以外にも数々の映画に出演,C.リード監督《第三の男》(1949)のハリー・ライムを頂点とする彼ならではの強烈な〈怪物的〉キャラクターを演じている。詩人J.コクトーは〈子どもの目つきをした巨人〉とも呼んでいる。…

【グリーン】より

… 彼のカトリシズムはE.ウォーなどのカトリック作家同様,人間の悪の意識に強く結びついているが,ウォーと比べると,罪,信仰,慈悲といったテーマが,はっきりと描かれている。また,キャロル・リード監督《落ちた偶像》(1948),《第三の男》(1949),エドワード・ドミトリック監督《情事の終り》(1954)など,映画化された作品が多い。なおグリーンの主要作品はほとんど邦訳されている。…

【チター】より

…小型で卓上に置かれ,奏者は左手の指で旋律弦のフレットを押さえながら音高を決め,右手の親指にはめた金属の義甲で旋律を,残りの指で和音を奏する。映画《第三の男》のテーマ音楽に使用されて以来,広く知られるようになった。【郡司 すみ】。…

※「第三の男」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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