粟津(読み)アワヅ

デジタル大辞泉 「粟津」の意味・読み・例文・類語

あわづ〔あはづ〕【粟津】

滋賀県大津市南部の地名。古来、交通の要地。「逢わず」の意味を掛け、「粟津野」「粟津の原」などの形で歌に詠まれた。[歌枕]
「関越えて―の森の会はずとも清水に見えし影を忘るな」〈後撰・恋四〉

あわず〔あはづ〕【粟津】

あわづ

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精選版 日本国語大辞典 「粟津」の意味・読み・例文・類語

あわづ あはづ【粟津】

滋賀県大津市南部の地名。琵琶湖に臨む松原は粟津が原と呼ばれ、近江八景の一つ、「粟津の晴嵐(せいらん)」で知られた。木曾義仲戦死の地。
※後撰(951‐953頃)恋四・八〇一「関こえてあはづのもりのあはずともし水に見えしかげをわするな〈よみ人しらず〉」

あわず あはづ【粟津】

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日本歴史地名大系 「粟津」の解説

粟津
あわづ

琵琶湖の最南端部、瀬田せた川河口部西岸に位置する広域地名。江戸期には粟津七村として膳所・西にししようなかしようした別保べつぽ鳥居川とりいがわ馬場ばんばまたは松本まつもとを含め、中世の粟津庄は西ノ庄・膳所・木ノ下・中ノ庄の一帯で、別保は粟津別保の遺称という(輿地志略)。しかし古代の粟津はより広域で石山いしやま寺のすぐ北の辺りまでを称した可能性がある。滋賀県に属する粟津一帯は、瀬田川を挟んで栗太くりた郡の勢多せた一帯と境する。古代より交通の結節点で、壬申の乱や藤原仲麻呂の乱からも知られるように政治・軍事上の要衝であり、保良ほら宮が営まれ、禾津あわづ頓宮・粟津市が置かれた。湖川の資源にも恵まれ、天皇家に贄を納める人々の拠点になり、粟津御厨が設置された。また粟津里・粟津野・粟津原などとして歌に詠まれ、紀行文に景観が記される。粟津の地名は日吉の祭神大己貴命が大津の八柳やつやなぎ浜に影向したとき、大津西おおつにし浦の漁師田中恒世が舟で迎え、粟餅を献じ、唐崎からさき浜まで送ったことに由来するという(耀天記)。また近江大津宮の所在地を粟津とする説が行われており、「聖徳太子伝暦」では聖徳太子が粟津で大津遷宮のことを予言している。「帝王編年記」巻九には「遷都近江国滋賀郡大津宮、或云粟津」とあり、「今昔物語集」巻一一には「天智天皇、近江ノ国、志賀郡、粟津ノ宮ニ御マシケル時」とみえ、当時大津宮の置かれた地として粟津がふさわしいとみる考え方が支配的であったのは興味深い。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「粟津」の意味・わかりやすい解説

粟津
あわづ

滋賀県大津市南部の地名。瀬田川と琵琶(びわ)湖南西岸に面し、古くから交通の要地であった。『日本書紀』の壬申(じんしん)の乱の記述にも粟津の地名がみえる。大友皇子が敗れたのも、源(木曽(きそ))義仲(よしなか)が戦死したのもこの地である。平安時代には粟津御厨(みくりや)が置かれ、粟津供御人(くごにん)によって湖魚が朝廷に貢進された。鎌倉時代には粟津荘(しょう)、南北朝時代には粟津別保が置かれ、近世には膳所(ぜぜ)藩城下に含まれ、惣門(そうもん)(勢多(せた)口)が設けられた。現在はJR東海道本線(琵琶湖線)、京阪電鉄、国道1号が通じ、東レ(株)を中核とする工業地域で、住宅や商店が混在し、かつての近江(おうみ)八景の一つ「粟津の晴嵐(せいらん)」のおもかげはみられない。義仲寺(ぎちゅうじ)には義仲や松尾芭蕉(ばしょう)の墓がある。

高橋誠一


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改訂新版 世界大百科事典 「粟津」の意味・わかりやすい解説

粟津[温泉] (あわづ)

石川県南西部,小松市井口(いのくち)町にあり,加賀温泉郷の一部をなす温泉。三方を山に囲まれた能美(のみ)平野南端に位置する。ボウ硝泉,45~48℃。北陸で最も古い温泉で,奈良時代に白山を開山した泰澄大師が発見したという伝説があり,豪華な玄関や時代を経た庭園をもつ旅館が多い。JR北陸本線小松駅からバスの便がある。恋物語をテーマにした《おっしょべ節》と,これに合わせて打つ〈いで湯太鼓〉が温泉客に喜ばれている。周辺には観音信仰の霊場である那谷(なた)寺がある。
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